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星の欠片と充電

 すれ違う村の女性が手を振った。


「ベリーヌ!リュン・モルナー・ダ!」


 フィーラも笑顔で返す。

 子供たちも彼女の周りをピョンピョン跳ねながら喋りかけている。

どうやら、フィーラはこの村の人たちと顔なじみのようだ。


 通りを進むと、若い男性たちが次々とフィーラに話しかける──っがなぜか彼らは俺の方をチラチラと品定めするような目つきで見てくる。


「ソア・フィーラ・レアド・カ?」


 そのうち、一人が俺を指差しながら何かを尋ねる。それにフィーラが答えると、男はすっきりとした顔で立ち去っていった。


 いったいなんなんだ?


 俺がポカンとしていると、フィーラは小さく笑って、先へ進むよう促した。


【裏通り】


 彼女は小さな店の前で立ち止まった。店内には本や水晶、色とりどりの液体が入ったガラス瓶が並んでいる。


 カウンターには肌の黒いエルフの女性が立っていた。長い銀髪と赤い瞳を持ち、ゲームやラノベでよく見るダークエルフといった風貌だ。


「ネロ・ビサ・フィーラ!エトル・ダムナ!」


 ダークエルフの女性が明るい声で声をかけた。二人は楽しげに会話を始める。


 俺は店内の品々を眺めていると、フィーラが手で四角い形を作って何かを示そうとしてきた。


「ああ、スマホか」


 ポケットからスマホを取り出そうとした拍子に、一緒に入れておいたフィーラから貰ったお守りが床に落ちてしまった。


 スマホをフィーラに渡し、お守りを拾い上げる。


「ん?」


 そこで気づいた。お守りの石が黄色から真っ黒に変わっている。


 俺はフィーラにお守りを見せた。


「ドゥビタ!? ハル・キャデス ヴェモルク シュラゾン-ザ!?」


 その声に、カウンターのダークエルフも「カドゥナ? リュメロ・シュミラ」と言いながら身を乗り出し、二人でお守りを覗き込んで熱心に話し合い始めた。


 取り残された俺は、なんとく。ほんとうに何となくスマホの電源ボタンを長押しした。


 すると、昨日までうんともすんとも言わなかったのに、なぜか画面が点灯したのだ。頭の中が「???」で埋まる。


 バッテリーアイコンには「5%」の文字。なぜか回復してる。


 俺は急いで翻訳アプリ「言霊共鳴」を起動して、フィーラに話しかける。


「ふ、フィーラさん!スマホ、電源入った!バッテリーが少し戻ってる!」


俺の声に、フィーラはお守りから目を離さないまま、「少し待ってくださいね!今、ちょっと信じられないことが起きてて……」と言いかけ、はたと動きを止めた。そして、きょとんとした顔でゆっくりと俺を振り返る。


「え……? な、なんでか分からないけど、スマホの電池が、回復してるんだ……」


 俺がフィーラの問いに答えると、大きな目を更に大きく見開いて


「ええええ!!!」


 彼女は興奮した様子でスマホをじっと見つめ、ブツブツと独り言を言いながら考え始めた。


「なぜ、急に動力がーー」

「時間と共に回復する?いや、それなら最初からあんなに深刻にーー」

「外的要因と考えるのがーー」


 俺が隣のダークエルフに「いつもあんな?」と小声で聞くと、「ええ、エテルニアの文明のことになると夢中になるの」と苦笑された。


 やがてフィーラが顔を上げる。

「拓人さん!その黒い板、もう一度貸してください!」


「あ、ああ。もちろん」


 フィーラはスマホを受け取ると、今度は自分の持つお守りをスマホに近づけた。


 その時だった。


 フィーラのお守りから、黄色い細かな光の粒子がスマホに向かって吸い込まれていく。やがて光が出なくなった石は、スーッと黒色に変わった。


「拓人さん!確認してみてください!」


 画面を見るとバッテリーは「8%」。


「か、回復してる…!」


 それを聞いてフィーラは耳をピョコピョコさせながら、「よし!」とつぶやき、ダークエルフの女性に


「ネロリアさん!お店にある一番大きな星の欠片をいただけませんか?」


 どうやら、このダークエルフの名前はネロリア。そして、この石は「星の欠片」と呼ばれているらしい。


 ネロリアさんは「ちょっと待ってて」と奥へ消え、やがて拳ほどの大きさの黄色い石を持ってきた。


「うお、でかっ!」


 思わず声に出るほどの存在感。大きさもさることながら、相応の強い光を放っている。


「拓人さん!板を近づけてください」


「ん、あ、ああ!わかった」


 スマホをかざすと、先程より遥かに多い光の粒子が嵐のようにスマホへ流れ込んだ。一分ほどで光は収まり、巨大な石も黒く変色する。


スマホのバッテリーは…「94%」!


「きたーーー!ほぼ満タンだ!!」


 俺が叫ぶと、フィーラも「やりましたー!」と俺の手を取ってぴょんぴょん跳ねた。その無邪気な喜びように、俺も嬉しくなる。


はしゃいでいたフィーラは、はっと我に返ると慌てて手を離した。(…別に、そのまま握ってても良かったんだぞ?)心の中のオッサンを黙らせ、俺は二人に向き直る。


「フィーラさん、ネロリアさん。ありがとうございました」


「いいのよ!頭を上げてちょうだい」とネロリアさんが声をかけてくれた。


「ネロリアさん。遅くなりましたが、私は青山拓人〈あおやま たくと〉と申します。見ず知らずの俺のために、本当に…」


「気にしないで! フィーラの頼みだったしね」


「あの大きな石も…貴重品だったのでは? 必ず弁償します」


「気にしなくていいわよ!それに、あの『星の欠片』は今まで使い道がよく分からなかったの。今日のおかげで研究が進みそうよ」


「そうなんですか...」


「ええ。だから、その代わりと言ってはなんだけど、その板のことを色々教えてくれると嬉しいな」


 もちろん異存はない。俺はネロリアさんに(異世界から来たことは伏せつつ)スマホについて知っていることを話した。

 二人は、特に写真や通信の機能に目を輝かせている。これほどまでに未知の技術に興味を示すのはなぜだろうか。さっきネロリアさんが言っていた、『エテルニアの文明』というのが関係しているのか?


 気がつけば日が暮れていた。窓の外は暗く、街灯代わりの魔法の灯りが道を照らし始めている。


「今日はうちに泊まっていきなさい!部屋を用意するから」


 何から何まで本当に申し訳ない。


 だが長距離をあるいたこともあり、おっさんの身体はもう限界だった。

 その為、俺はネロリアさんの提案に甘えることにした。

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