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毒か? 食料か? 図鑑片手の森歩き

 ふぅーっ、と息を吐き、重い腰を上げる。

 木の根元に座り込んでの短い休憩は終わりだ。先へ進まないと。目指すはアザリア村!


 ポケットからスマホを取り出し、画面を確認する。よし。

 とりあえず簡単にだが無機質だったタイトルを変更してみた。

 ついでにサムネイルも、動画の見どころっぽいシーンを切り出して設定しておいた。


 アップロード動画

『異世界?初日の風景:双月夜と浮遊島』(再生 23・いいね 2)

『【Vlog】異世界2日目の朝、ボサボサ頭で現状報告』(再生 18・いいね 1)

『崖の上で発見!虹色に輝く鳥』(再生 31・いいね 3)

『【神回】雷を纏う神獣!? まさかのファーストコンタクト』(再生 54・いいね 5)

『羽根付きトカゲ? 不思議な爬虫類を発見』(再生 0・いいね 0)


「……うん、まあ、こんなもんだろ」


 タイトルとサムネがあるだけで、だいぶマシになったはずだ。

 これで少しは「チャンネル」っぽく見えるだろう。よし、気合入れていこう。


「さて、と……」


 スマホをしまい、森を見渡す。

 今日の食料と、安全な寝床の確保だ。


 ホーンラビットは……何もなかった時の非常食として保存しておこう。

 頼りは『植物図鑑』。こいつで安全な食料を探す!


 俺は森の中を注意深く進む。「共鳴録画」はいつでも撮れるようにしておく。

 早速、鮮やかな青紫のキノコを発見。


 撮影。ピッ。

『アオゾメタケ - 毒性:強 / 食用:不可』

「だよな!」 見るからにヤバそうだもんな!


 次に、木の蔓に赤い実。ラズベリー似。

 撮影。ピッ。

『ファイアベリー - 毒性:なし / 食用:可 / 詳細:非常に酸っぱい』

「酸っぱいのか……」

 まあ、食べられるなら確保だ。いくつかポケットへ。


 さらに食料を探して歩いていると、木の根元近く、苔むした地面の上でキラリと鈍い金色の光が目に留まった。

「ん?」

 屈んで拾い上げてみると、それは不規則なサイコロのような形をした、金属光沢のある小さな塊だった。大きさは親指の先ほど。


(なんだこれ? 金属……? まさか……金!? いやいや、そんな都合よく金塊が落ちてるわけ……でも、この色……もしかしたら!?)


 心臓がドクンと鳴る。もしこれが本当に金、あるいはそれに類する価値のある鉱物だったら……!

 震える手でスマホを取り出し、カメラを向ける。頼む! 一攫千金!

 ピッ。


黄鉄鉱おうてっこう - 特徴:硫化鉱物の一種。黄銅色で金属光沢を持つ。結晶形は立方体など。 / 価値:低い(観賞用以外ほぼ無し)(NEW!)』


「……おうてっこう……価値、低い……。だよなぁーーーっ!!!」


 期待が大きかった分、脱力感も半端ない。思わずその場にへたり込みそうになる。ちくしょう、ぬか喜びさせやがって! いわゆる「愚者の金」ってやつか、これは!


 ガッカリして黄鉄鉱を放り投げようとした、その時。

 スマホの画面に新しい通知が表示された。


『初めての鉱物撮影を完了しました。「鉱物図鑑」機能が追加されました』


「え? 鉱物図鑑!? このガラクタ石ころで!?」


 驚いて『知恵の書庫』を確認すると、確かに「鉱物図鑑」という新しいフォルダが増えている。中身はさっきのガッカリ鉱物、黄鉄鉱の情報だけだが。


「……まあ、鑑定結果はともかく、図鑑が解放されたのはラッキーか」


 価値はなくても、鉱物は鉱物。これで今後、もっと価値のある鉱石とかを見分けられるようになるかもしれない。よし、前向きに行こう、前向きに!


 気を取り直して、さらに進む。

 地面からゴツゴツした芋を発見。見た目は微妙。

 撮影。ピッ。

『ゴツゴツポテト - 毒性:なし / 食用:可 / 詳細:デンプン質豊富。加熱推奨』

「おっしゃ! 当たり!」

 これは期待できそうだ。栄養もありそうだし。


 近くの石で土を掘る。

「う、硬い……!」

 少し汗をかきながら、3つほどゲット。


「ふぅ……主食確保!」

 カメラに一応見せておく。サバイバルっぽいだろ?


 こんな感じで、図鑑片手に森を歩く。

 毒草を避け、食える木の実や根っこを見つけては記録。地味だけど、ちょっと楽しい。リアル採集クエストだ。


「よし、これだけあれば……」

 集めた収穫を確認し、少し安心した、その時だった。


「ん……?」


 風向きが変わった。生暖かい、湿った風だ。

 さっきまで穏やかだった森が、急に騒がしくなってきた。木々の葉が大きく揺れ、不気味な音を立てている。


 空を見上げると、いつの間にか太陽は厚い雲に隠れ、空全体が鉛色に染まっていた。森の中が一気に薄暗くなる。


 ゴロゴロゴロ……。


 遠くで、くぐもった雷鳴が響いた。さっきよりも明らかに音が大きい。


「……まずいな。これは……降るぞ、たぶん」


 空気が重い。湿度も上がってきた気がする。これは、ただごとじゃない雨が来るかもしれない。

 異世界の天気予報なんてないんだ。自分の勘と、状況判断だけが頼りだ。


「暗くなる前に、雨が降り出す前に、どこか安全な場所を見つけないと……!」


 食料探しはもう十分だ。今は寝床の確保が最優先事項!

 俺は周囲を見回し、雨風をしのげそうな岩陰や、できれば洞窟のような場所がないか、必死に探し始めた。


 森の中は薄暗く、視界が悪い。焦りが募る。

 もし、この広大な森の中で、嵐にでも見舞われたら……。考えるだけでゾッとする。


 風がさらに強まり、木の枝が不気味にしなる。

 雷鳴の間隔が、少しずつ短くなってきている気がする。


「急がないと……!」


 俺は早足になり、時には小走りになりながら、必死に周囲を探索する。

 どこか、どこかに身を隠せる場所は……!


 頼む、見つかってくれ――!

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