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優勝次点9回の実力派力士、10度目の正直なるか?

作者: 明石竜

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。


 幕内最高優勝を掴み取る。


「十一日目で二差付けて、今場所こそは絶対優勝出来ると思ったんだけどなぁ。

おまえはなんでいつもいつも絶対負けちゃいけない取組で取りこぼすんだ」

 初場所終了後、とある平幕力士の親方は残念がる。

 十勝一敗からの終盤三連敗で、八勝三敗だった力士に四連勝され逆転優勝を

許してしまったのだ。

「優勝を意識し過ぎて、つい体が固くなってしまって」

 苦い表情で語るその平幕力士の四股名は、高屋里たかやさと

 最高位は大関な実力派ながら、幕内最高優勝経験は一度も無し。

 現役大関経験者の中で唯一という不名誉なことになってしまっている。

 全盛期より力は落ちたとはいえ今でも前頭上位から中位で安定し、時たま三役に

返り咲き、終盤まで優勝争いに絡むこともしばしばあるが、その度にいつも大事な

一番で落としてしまい、あと一勝すれば。あの一番さえ勝てていれば、という所で

惜しくも優勝を逃してしまうのが彼の悪い癖なのである。

 巡業の花相撲では、何度か優勝経験はあるものの。

 優勝次点が今場所で通算9度目となった。

 次点にすらなれずとも、終盤まで優勝争いに絡むことは

数え切れないほどあった。

「次点10度目はないように、次こそは絶対優勝しなきゃダメだ!

もう若くはないんだから、チャンスはもうほとんど残されてないぞ」

 親方は喝を入れる。

「はい、次こそは絶対優勝します!」

 二月末に35歳になる高屋里はきらりとした目つきで宣言する。


 そして翌場所。

 東前頭筆頭で迎えたこの場所は、上位戦総当たりなためか序盤から五連敗し

結局4勝11敗と負け越してしまった。

 ただ、前頭上位での負け越しは、ここ数年ではよくあることである。


 その次の場所、西前頭八枚目で迎えたこの場所は、高屋里にとって

優勝チャンスである。

 上位戦がほとんど組まれないため、初日から連勝街道を突き進み、九日目で

早くも勝ち越しを決め、十日目で優勝争い単独トップに。

 これもまあ、年に一、二回はあることである。

「明日からが大事だぞ!」

 親方は念を押す。

 十一日目は無事、勝つことが出来た。

 ただ、十二日目はこの地位では通常は組まれない横綱戦。

 結果は、いつもの高屋里ではなかった。

大関時代の強さが蘇ったかのような会心の相撲で一敗を死守。

「今度こそは、絶対行けるぞ!」

 今まで最高レベルに優勝が近づき、親方は確信する。


 十三日目は大関戦。これも見事勝利。

 幸運なことに、他の二敗力士が全員負け三敗に後退し、

明日勝てば、優勝決定ということに。

 たが、現実は甘くはなかった。

 十四日目は負けてしまい、三敗力士も勝ってしまったため、優勝は

千秋楽に持ち越し。

 とはいえ、自身初の優勝同点以上確定となった。


 千秋楽。勝てば優勝となる大事な大事な一番。

 客席には横断幕も掲げられ、出身地ではパブリックビューイングまで

公開され、優勝ムードが高まっていたものの、

「あ~あ」

 一方的に押し出されてしまい、プレッシャーに弱いいつも高屋里であった。


 けれども三敗力士が負けてくれれば、優勝出来る。

 

 やはり現実は甘くなかった。

 勝ってしまい、高屋里自身初の優勝決定戦進出。

 こうなってしまうと経験上、高屋里不利か。

 結果は、


「おおおおおおおおおおおおおおお~っ!」「おめでとう!」

 場内から大きな拍手喝采。

 高屋里が対戦相手、尊風を立合から速攻で捕まえるや豪快に振り回し

投げ飛ばしたのだ。

 ついに初優勝。

 大きな夢を掴み取った。




 かに思えたが次の瞬間。

 物言いがついてしまった。

 

「ただいまの協議について、ご説明致します。行事軍配は、高屋里にあがり

ましたが、高屋里が尊風の髷を掴んでいるのではないかと物言いがつき、

競技した結果、高屋里が尊風の髷を掴んでおり、反則で尊風の勝ちと致します」


「あああああああ~」

 場内からも大きなため息の声が漏れた。


 高屋里、またしても優勝をかなり惜しくも逃してしまった。

 ただ、優勝次点から同点としたのは、大きな成長の証であろう。

 きっと彼は、いつか必ず幕内最高優勝の夢を掴み取ってくれるに違いない。

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