第七話「聖女ちゃんは殴りたい」
シャルの手を握り、移動すること数分。
なんとか人気のない路地裏に辿り着いた。ロウガは一緒だと更に目立つと思い送還した。
「とりあえず、ここなら」
大丈夫だろうと、後ろを見ると。
「はあ……はあ……はあ……アースさんの大きくて温かい手が、私の手を……!」
「こらー! いい加減手を放せー!!」
僕の右手を興奮した様子で両手で握り締めており、それをティナがなんとか引き剥がそうとシャルの髪の毛を引っ張っていた。
「えーっと、シャル」
「はっ!? ……どうかなさいましたか? アースさん」
そう言って僕の手から……離れてない。人差し指を摘んでいる。
「おりゃあ!!」
「あっ! アースさんの温もりが……まだ三分しか。ティナちゃん、ひどい」
「ふん!!」
相変わらずだな、二人は。
「シャル。僕のところに来たってことは」
「……はい。聞きました。あなたがパーティーから追放されたということを」
やっぱりか。
先ほどの明るい雰囲気から一変し、シャルはどこか沈んだ雰囲気になった。
「ありえない選択です。アースさんとティナちゃんを追放するだなんて。正直、あの時顔面にストレートをかましてやろうと思いましたが、それだとアースさんやティナちゃんにご迷惑をおかけすると思い止めました。しかし、チャールさん達がこのまま考えを変えないと言うのなら、一人ずつ渾身の力を込めた聖拳をくらわしてから回復をし、更に二発目の聖拳を食らわした後、更に回復を」
「しゃ、シャルさん?」
「うわぁ、出た。闇シャル」
シャルは時々? こんな風になってしまう。ちなみに、シャルは聖女で回復術を得意としているけど。普通に護身術も凄く、聖なる力を纏わせた拳の一撃は並みの魔物だと一瞬のうちに粉砕に加え浄化されてしまう。
普段は、聖なる力を増大させてくれる光翼の杖フェローニスを手にしているのと普段の行いから、そんなアグレッシブな子ではないと思われているけど……。
「アースさん」
「な、なに?」
普段のシャルはとても可愛らしく話しやすいのだが、ティナが言う闇シャル状態だと若干……その、怖くて話ずらい。
「今すぐ私もパーティーから抜けたい気分です。しかし、それだと多くの人達に迷惑がかかる。なので、様子見をします。今攻略しようとしている闇ダンジョン。そこを攻略し終わるまで、彼らの考えが変わらないと言うのなら……その時は、私もパーティーから抜けようと思います。そして、アースさんについて行きます」
「え? いや、それは」
「確かに勇者の称号を得た者は特別です。しかし、勇者でなければ世界を救えない、というわけではありません。実際、初代勇者は称号などない。どこにでも居た人類だったのですから」
それは本当のことだ。勇者の称号とは、初代が世界を救ったことで神々が作ったものなんだ。
「つまり、あんたはあいつらが考えを変えないって言うなら、私達と一緒に世界を救う旅に出るってこと?」
ティナの問いに、シャルはこくりと頷く。
「でも、それだとチャール達のパーティーに回復役が」
「正直、あの方々のことは回復したくありません。そもそも、私がパーティーに参加したのはアースさんが居たからですから。回復役ならいくらでも居ますし。勇者様が頼めばすぐ代わりが来ますよ。今回のように」
にっこりと笑顔でシャルは、そう言い切る。笑顔なのに、物凄い圧を感じる。
「……そろそろ私はこれで。とても、とても、とーっても! 名残惜しいのですが。これから新しいパーティーメンバーさんを出迎えに行かなければならないそうなので」
「確か本職の召喚士、だったよね」
「そのようですね。では、アースさん。ティナちゃん。ご武運を」
「シャルも気を付けて」
「頑張んなさい」
こうして、シャルは俺達に深々と会釈をして控え気味に走り去って行った。