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第六十五話「誓い」

 平穏祭のラストを飾る決闘は、僕の勝利で幕を閉じた。

 その後も、わいわいと騒いでいたけど、祭は終わった。ずっと人の声が響いていた街中も、今では静かだ。


「満月、か」


 そんな中で、僕は一人で月を見上げていた。

 ティナやシャルも、さすがに疲れたのか。宿のベッドでぐっすりと眠っている。


「よう、勇者様。隣いいかい?」

「ロメリアさん?」


 あれだけ騒いで、酒も飲んでいたのに、まだまだ元気そうなロメリアさんが、酒瓶片手に現れた。


「いやぁ、この数日間。濃かったねぇ」


 ぐびっと果実酒を飲み、月を見上げながら呟く。


「それに」


 と、額に巻かれている包帯を触る。


「久々に負けた! それも完膚なきまでにねぇ!!」

「えっと」

「あんた。あの〈アーマード〉ってやつ。まだまだ力を出せるだろ?」


 ロメリアさんの言葉に、言葉が詰まる。


「それは」

「あー、良いんだよ。別に手加減してたわけじゃないんだろ?」


 本当に、察しが良い。野生の勘ってやつなのか。

 ロメリアさんの言う通り、まだまだ完全ではないのだ〈アーマード〉は。今の僕では、あの力を……ロウガ達の潜在能力を完全に発揮することができない。

 

「―――なるほどねぇ。まあ、未知の力だからしょうがないと言えばしょうがない、か」


 そのことをロメリアさんに話すと、ぱん! と僕の背中を叩く。


「ま! あんたなら、必ず完全に力を引き出すことができる! あたしは、そう信じてるよ!!」

「あ、ありがとうございます」

「……明日、旅立つんだろ?」

「はい」


 平穏祭も今日で終わり、僕達はいよいよ旅立つ。

 今までは、勇者パーティーとして旅をしていたけど、明日からは違う。勇者じゃない僕が、どこまでできるか不安がないと言えば嘘になる。

 けど、やり遂げて見せる。


「もう、あたしは心配してない。あんたは、力を示して見せた」

 

 酒瓶を置き、ロメリアさんは再び月を見上げた。


「頑張りな。あんたが、この世界の救世主になるんだ」

「救世主、ですか」


 こんな日が来るなんて子供の頃からは考えられなかった。

 それは成長してからもだったけど。

 でも、今こうして僕は世界を救うために旅立つ。


「はい。必ず」

「よし! それじゃ、酒だ! 酒を飲め!!」

「え? いや、酒はちょっと」

「なんだい、なんだい。未来の救世主様なら、酒の一瓶や二瓶!! ぐいっと飲みな!!」


 そう言って、どこからともなく出した新しい果実酒の瓶を僕の口に突っ込もうとする。


「ちょ、やめっ」

「ほれほれ、ぐいっといきな!!」

「待ってー!!!」


 結局、抗えずロメリアさんに付き合った。

 まあ、僕が飲んだのはただのジュースだったけど。さすがのロメリアさんも、酒を無理矢理飲ませるようなことはしなかった。

 

 でも、その後が大変だった。

 完全に酔っぱらったロメリアさんを、部屋へ運んだのだが……がっちりとホールドされ、中々離れてくれなかった……。

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