第四話「病み? 聖女は彼のもとへ」
アースがパーティーから抜けてから数時間後。
教会に赴いていた聖女シャルがチャール達のところへ戻って来た。アースが追放されたことを知らずに。
「お待たせしました」
「帰ったきたか、シャル」
白銀の長い髪の毛に白い修道服。十五歳だが、身長は低く、人によっては子供と間違われるほど。だが、そんな低身長に不釣り合いなほど大きく張りのある胸が、男達の視線を釘付けにする。
「アースさんとティナちゃんは、まだ来ていないんですか?」
部屋に入ってすぐアースとティナが居ないことをシャルは気にする。
「あー、あいつな。シャル。信じられないかもしれないが、俺も苦渋の決断だったんだ」
「どういう、ことですか?」
シャルは、チャール達の反応を見て何かを察したかのように深紅の目を細める。
「あのめがねを追放したのよ」
「追放?」
マーシャの言葉に、シャルは声が低くなる。
「シャル。わかってやれ。あいつは、この先の戦いについてこれねぇ。早いうちに切り捨てるべきなんだ」
続くブライの言葉にシャルは無言になる。
「なぜ、私に相談なくアースさんを追放したんですか?」
「お前のためなんだ。お前は俺達にとって大切な仲間だ。そして貴重な回復役。だが、お前はいつもアースが怪我をしないようにって行動が制限している」
「このままじゃ、この先の戦いでいつか私達が大変なことになるのよ。あんたが、あのめがねを気にかけ過ぎるせいで」
「その心配はありません。私は、世界を救うために聖女として役目を果たします。アースさんも護ってみせます」
淡々とした言葉にマーシャは、聖女とは思えない圧を感じ背筋がぞっとした。
「そうかもな。お前なら、やってくれるかもしれない。けど、絶対なんてないんだ。それに、俺は世界を救う勇者として責任がある」
「アースさんは、あなたの幼馴染ではなかったのですか? 心は痛まないんですか?」
シャルが、パーティーに加わってから数えきれないほどアースと話をした。朝も、昼も、夜も。時折、ティナに邪魔をされることはあったが、それでもシャルはアースと話をし続けた。
「痛いさ。だから、俺は、あいつをパーティーから追放した。死なせないためにな」
「……そうですか」
これ以上何を言っても彼らは変わらない。そう思ったシャルは、踵を返す。
「ん? どこに行くんだ。これから、新しいメンバーを迎えに行くんだぞ? しかも、あいつと違って本職の召喚士をな」
「申し訳ありませんが、私はアースさんのところへ行きます」
「おいおい。あいつは、自分で受け入れたんだぞ? 自分は力不足だったって」
勝手な行動をとろうとしているシャルに、ブライが叫ぶ。
「……力不足なのは、どちらでしょうか」
「ど、どういうことよ?」
「私は、あの方なしではこの先必ず窮地に陥ると思っています」
「まさか、あのチビの強化魔法のことを言ってるのか? 冗談はやめてくれ。〈ブースト〉なんて誰でも使えるぞ。そもそも俺は、その上の〈ハイブースト〉を使える。あのチビが居なくても戦力低下はしない。そう判断したうえで」
チャールが説明をしている途中で、シャルは何も言わず部屋のドアを開ける。
「お、おい! シャル!!」
チャールの呼び止めも空しく、シャルは足早に部屋から出て行く。
「アースさん……アースさん……アースさん……」
ぶつぶつと呟きながらシャルは宿の廊下を移動する。その途中、すれ違った一般男性のひっ! という小さな悲鳴など耳に入ることもないほどにただただアースだけのことを考えて。