第三話「切り裂け! 鋼鉄狼の爪」
薬草を探しつつ、移動をすること十分。
依頼の薬草は全て採取し終わった。本来ならこのまま戻るところだけど、少し寄り道だ。
「この辺りだと、コボルトが多いのよね?」
僕が居る森には、元々そこまで魔物が出現しなかったが、闇のダンジョンの出現によって魔物の出現率が高くなった。
冒険者にとっては稼ぎが増えた、と前向きに考える者達が多いけど。
平和に暮らしている人々にとっては、魔物が多く出現することは恐怖でしかない。
「ところで、ロウガ? だっけ」
「うん」
「さっき、エネルギーを注いだけど。どれくらい注がれたの? 一応私もいつもの感覚で〈ブースト〉を使ったけど。エネルギーが切れたらまた動かなくなっちゃうんでしょ?」
そう言いながら、ティナは後ろを向く。
そこには、ずっと無言で僕達の後をついて来ていたロウガの姿が見える。
「こうしてただ移動するだけなら十時間ってところかな」
「十時間!? って、なんでわかるの?」
「なんだか僕には見えるんだ」
僕の視界には、ロウガのエネルギー残量とどれくらいでなくなるか。その時間が見えている。
「移動するだけなら、てことは」
「うん。戦ったり、武装を使うとエネルギー消費が激しくなるんだ」
「じゃあ、その度に私が〈ブースト〉を使えば良いんじゃない?」
確かにその通りだけど。
「そのタイミングは僕が指示を出すよ。無暗に使っても、ティナが大変なだけだから」
「わかった」
……それにしても、強化魔法だと思っていた〈ブースト〉でエネルギーを充填できるなんて。〈ブースト〉とは初歩的な強化魔法。
一時的に身体能力を上げるもので、その上に〈ハイブースト〉がある。
初級の〈ブースト〉でこれほどなら〈ハイブースト〉だとどうなる?
(それに)
僕は、自分の右手の甲を見る。そこには、何十にも複雑に重なり合った輪が紋章のように描かれている。
ロウガを召喚できたのは、おそらく……いや、確実のあの時拾ったもののおかげ。
あれはいったいなんだったんだ? 流れ込んだ情報の中には、それらしいものはない。
「あっ、居たわよ」
色々と気になることがあるけど、気持ちを切り替えよう。
「悪いけど、あんたには実験台になってもらうわよ!」
「こらこら、挑発しない」
丁度野兎を滅多刺しにしていたコボルトを一体発見した。ティナの声に反応し、対象をこちらへ変更した。
「ロウガ?」
今までずっと後ろを歩いていたロウガだったが、まるで俺達を護るかのように前に来た。
「……よし。ロウガ! 目の前のコボルトと戦うんだ!」
野兎を放っておき、完全にこちらを攻撃せんと血がべったり付着した曲刃の剣を振り下ろしてくる。
ロウガは、それを回避することなく受け止めた。
ガキィン! と鈍い音が鳴り響く。
さすが鋼鉄の体。
「いっけー! ロウガー!!」
ティナの応援を受け、ロウガはそのままコボルトの剣を弾き、両腕にはめ込まれているエネルギー結晶からエネルギーを放出。
そのエネルギーを鉤爪へとし―――切り裂いた。
鋭い両爪で切り裂かれたコボルトは、その場に魔石を残し、魔素となって四散する。