第三十六話「幼馴染」
闇のダンジョンから敗走した後、チャールはずっと宿泊先の部屋から一歩も出ていなかった。
ベッドに寝転がりながら、天井を見上げている。
脳裏に浮かぶのは、闇のダンジョンでの出来事。
そして……自分が追い出した幼馴染であるアースの姿。
チャールとアースは、幼き頃から共に居た。
生まれたのは、総数三十程度の山奥にある村。自然に囲まれたのどかなところだった。
魔物もほとんど出ず、村に滞在している引退した冒険者が簡単に片づけられる。
争いとは程遠い場所。
そんなところで育った二人は、外の世界に憧れ、冒険者を目指した。幸い、戦う才能はあったため苦労はしなかった。
引退した冒険者を師匠に、学び、成長した二人は十五歳で村を出た。
(あの頃は、こんなんじゃなかった……)
お互い剣士として冒険者になり、依頼をこなす日々。
時に、苦難もあったが、それも冒険だと楽しんでいた。
しかし、それが変わったのは……勇者の称号。
二人の実力は拮抗していたが、チャールが剣の勇者となり、変わった。まるで別人かのように、実力をつけていったチャールに対して、アースは召喚士として力に目覚めたが……。
それでも、チャールはアースと共に戦った。
それは、幼馴染だから? それとも、召喚士として目覚めたアースに何かを期待していたから?
今となっては、チャール自身もわからない。
「……誰だ?」
部屋の外から気配を感じたチャールは、身を起こし問いかける。
「僕だ」
「アース……何の用だ? 無様に敗走した俺を笑いにきたのか?」
部屋の外に居たのはアースだった。
「そんなわけないだろ。普通に、君のことが心配で来たんだ。それと伝えたいことがあったからね」
部屋に入ってくることもなく、ドアの前でアースは喋り続ける。
「なんだよ」
幼き頃から一緒に居たからこそなんとなくわかる。
アースは、本心で喋っていることを。
「僕は、これから闇のダンジョンに挑む」
なんとなく予想はしていた。チャールは、何も言わずただただアースの言葉に耳を傾ける。
「パーティーメンバーは、僕、ティナ、シャル、ロメリアさんだ。人数的に、心もとないけど。今の僕には、新たな仲間が居る」
新たな仲間。
チャールは、それが追放された後に召喚したという鋼鉄の人形と鋼鉄の鳥だろうと思った。
「僕達がダンジョンに潜っている間も、瘴気は漏れ出している。その瘴気で強化された魔物達は冒険者達が対処することになった」
一通り語った後、アースは少し口を閉ざす。
まだ去ってはいない。ドアの前に居るようだ。
「……チャール。また」
その一言を口にし、アースはすたすたと去って行く。
完全に気配が消えた後、チャールは再びベッドに寝転がった。
「言うだけ言って去っちまいやがった……結局なにが言いたかったんだよ、あいつは」
幼馴染だからと言って、なんでもかんでもわかるはずがない。
アースはただ自分が闇のダンジョンに挑むことを伝えに来ただけだ。
ただ、それだけ……。
「……くそっ」




