第三十一話「愛と希望」
「シャル?」
何を考えていたのだろうか。カップを握る手に力が入っていた。
「あ、いえ。闇のダンジョンで起こったことを思い出していたんです……」
「しっかし、魔族ねぇ。話には聞いたことはあるけど、実際に見たことはないんだよねぇ」
僕もそうだ。
世界中で、魔族の報告が上がっているけど、僕はまだ一度も見たことがない。
「私も、魔族はクリントが初めてでした。魔族の中には、人と変わらない見た目をしている者も居るとは聞いていましたが……」
それゆえに、うまく潜り込めた、ということだろう。
「それで、どうするのよ? これから」
シャルが一通りの話を終えたところで、ティナが今後のことについてと話を切り替える。
「どうするもこうするも、その魔族はまだ闇のダンジョンに居るんだろ? だったら、倒さなくちゃいけないね」
「私も同意です。このまま放置をしていれば、闇のダンジョンから漏れ出した瘴気が辺りを蝕んでいく……」
ただ、本来闇のダンジョンへ挑む勇者パーティーがほぼ動けない状態にある。ここに居るシャルは、大丈夫だろう。
シャルが言うには、ブライはティランズに辿り着いたと同時に気を失ったとか。そして、マーシャは腹の傷は回復したが、最初に言った通り気を失ったまま。
「んじゃま、あたし達が行くしかないんじゃないかい?」
「あたし達って……」
ロメリアさんの言葉に、首を傾げると。
「決まってるだろ? あたしと、アース、ティナ、そんでシャル。他にも、血の気の多い冒険者どもを連れて行こうじゃないか! 勇者様が動けないって言うのなら、聖女様を中心にあたしら一般人がなんとかしてやらないとね!」
パリン! と片手で持っていたカップを割り、ロメリアさんは、にやりと笑う。
しかし、すぐに「あ、やば」と声を漏らす。
「私も、そう考えてしました」
「シャルまで」
「良いじゃない! あの馬鹿の代わりにアースと私が闇のダンジョンを攻略してやるわ!!」
どうやら、僕以外の三人はやる気満々のようだ。
「僕も、なんとかしたいけど。良いのか?」
「大丈夫でしょう。確かに、闇のダンジョン攻略は勇者の使命です。しかし、一般人が攻略した例もあります」
「あー、確か超級の連中だったか? あいつらは、本当に化け物だからねぇ」
超級。
つまり、ロメリアさんよりも上の階級の冒険者だ。ちなみに、超級は世界で四人しかいない。ロメリアさんの言う通り、彼らは化け物のように強いと聞く。
中では、山を切り裂いた、なんて噂も流れていたり……。
「それに、アースさん。聖女である私が一緒なんですから。何も心配はいりません」
「そ、そうか?」
「はい。そこまで心配であるなら」
そう言ってシャルは、一度カップをテーブルに置き、懐から青と黄が混ざった石を取り出す。
「〈コール〉」
それを空中に浮かべ魔法を唱える。
すると、石から光が溢れ、とある男性が現れた。いや、映し出された、というべきか。
『おや? シャルじゃないか。どうかしたのかな? 今、僕は午後のお茶をしているのだが』
「お父様。緊急事態なのです。お茶は後にしてくださいますか?」
シャルが使ったのは〈コール〉という遠くの者と会話ができる魔法だ。声だけならば、そのまま使えばいいが、彼女のように特殊加工された魔石を媒介にすれば、魔石に登録された魔素の持ち主とこうして顔を合わせて会話することができる。
そして、シャルがお父様と呼ぶ男性は。
『ん? やあ、そこのめがねくん。君、もしかしてアースくんかな?』
「え? あ、はい。そうですが」
『娘から色々聞いてるよ。っと、そういえば自己紹介がまだだったね。僕は、愛と希望の女神ハートゥル様を信仰する神聖国の聖王フィグナスだ。よろしくね』
そう。一国家の王にして、シャルの実の父親であるフィグナス様だ。




