第三十話「勇者敗走」
「次は聖女様がお相手してくださるんですかぁ?」
自分の魔物が吹き飛ばされたというのに、クリントは余裕の表情でシャルを見詰める。
そして、シャルの攻撃をモロに食らったはずのレッドキャップゴブリンは、何事もなかったかのように起き上がった。
「……」
今の状況を見て、シャルは思考する。
闇のダンジョンは攻略した。
帰還用の転移空間は見えている。
チャールは片足が震えているも、なんとか動ける。
「チャールさん」
ブライは、なんとか意識を取り戻した。
一番重症なのは、マーシャだ。
「ここは引きます」
「なっ、なに言ってんだ!?」
「お?」
シャルの言葉に、チャールは驚き、クリントは様子見をするかのように耳を傾けていた。
「すでに闇のダンジョンは攻略しました。一度引くのが賢明な判断です」
「馬鹿、言うな……! 魔族を目の前にして」
勇者である自分が引くわけにはいかない。
チャールは、剣を杖代わりにし、クリントを睨む。
「俺は別に構わねぇぞ? 逃げたきゃ逃げればいい」
そう言ってクリントが手をかざすと、ゴーレムとレッドキャップゴブリンが動きを止めた。
「……その傲慢。後で後悔しますよ」
マーシャに肩を貸しながらシャルは言い捨てる。
が、敗者の言葉なんて、とばかりにクリントは鼻で笑う。
「……くそっ!!」
我先にと帰還用の転移空間へと向かうシャルの後ろ姿を見て、チャールは顔を歪めながら踵を返す。
「そうそう。闇のダンジョンはまだ攻略されてねぇからな。この俺が、新たな階層主だ。速めに倒さねぇと、やばいことになるかもなぁ!!」
クリントの勝ち誇った声を背に、チャール達は帰還用の転移空間へと入っていく。
何も言い返せない。
自分達は、敗走したのだ。
「シャル。なんで、戦わなかったんだ」
闇のダンジョンから出た後、ティランズへの帰還する中でチャールは呟く。
「あの状況で戦いを続けたとしても、私達は負けていました」
「わからねぇだろうが!!」
そう叫ぶも、チャール自身理解はしていた。どう考えても、自分達は負けていた。それは自分や仲間の状態を見れば一目瞭然。
マーシャは回復を受けたものまだ痛むのか顔を歪め腹を抑えている。
ブライは、いち早くやられ、気絶していた。そのことを悔やんでいるのか、ずっと無言だ。
「……このことを。魔族のことを早く知らせなくては」
闇のダンジョンはまだ残っている。
そして、新たな階層主として魔族が待ち構えている。
このまま放置していれば、ティランズは……いや、もっと被害が広がるかもしれない。
(アースさん)
彼の力が必要だ。
シャルは、アースのことを思い浮かべながら、ティランズへ向かうのだった。




