第二十七話「聖女は語る」
シャルからの衝撃的な言葉を聞いた僕達は、一度場所を変えた。
現在、僕達が居るのは冒険者ギルドにあるギルドマスター室だ。ダンジョン調査の報告などもあったので、そのままというわけだ。
「ほい、ホットミルクだ」
「あ、ありがとうございます。ロメリアさん」
服の汚れを落とし、椅子に座ったシャルにロメリアさんは湯気立つホットミルクが入ったカップを手渡す。
「あんた達の分もね」
「ありがとうございます」
「どうも」
僕も同じものを受け取った。ちなみにティナは、ティナ用の特注カップを僕が持っていたので、それをロメリアさんに渡して注いでもらった。
「んで? 本当なのかい? 勇者パーティーが闇のダンジョンの攻略に失敗したってのは?」
ロメリアさんは、自分の分のカップを片手に座ることなく壁に背を預けながらシャルに問いかける。
「はい、本当です」
カップを両手で包む方に持ちながらシャルは呟く。
「今回の闇のダンジョンは、それほど難しかったってこと?」
ティナが言うと、シャルは首を左右に振る。
「難易度的には、そこそこでした。苦戦する場面もありましたが、目立った怪我もなく階層主の居る間へ辿り着いたんです」
「へぇ、さすが勇者パーティーだね」
「私達が居たらもっと楽にやれたわよ」
ふん! と不機嫌そうにティナが言うと、シャルはそうですね、と肯定する。
「ということは……階層主が予想外の強さだった、とか?」
僕の脳裏には、デグボーの姿が思い浮かぶ。あのデグボーのように、何か予想外のことが遭ったのかもしれない。
「それも違います。階層主は、確かに強かった。でも、倒せないような強さじゃありませんでした」
「じゃあ、何が遭ったって言うのよ」
「……裏切りです」
「裏切り? あー、そういえばアースが抜けた後に、新しい召喚士を仲間に入れたんだっけか? まさかそいつが?」
ロメリアさんの言葉に、シャルは頷く。
「正確には、裏切りではないのです。彼は元々敵だったんです」
「敵? まさか、魔王の」
「そうです、アースさん。彼は……クリントは、仲間を装って勇者パーティーに潜入し、戦いで疲弊しているところを狙って」
しかも、場所は闇のダンジョン。逃げ場なんてほとんどないに加えて、魔物や魔族にとっては力が増す場所だ。
魔族。
魔界と呼ばれる別世界から訪れた異種族。人類と違い、圧倒的な魔力量を保持しており、肌の色が様々だと聞く。青、灰などに加えて人とそう変わらないのも居るとか。
クリントという召喚士は、おそらく人とそう変わらない魔族なのかもしれない。
「それで、チャール達は?」
「私が回復魔法をかけましたが、チャールさん以外はまだ意識が戻っていません。瘴気を体内に取り込み過ぎたんだと思います」
瘴気は、淀んだ魔素。
あまり取り込み過ぎると体に影響を及ぼす。チャールは勇者の力でそこまで影響はなかったようだけど、マーシャやブライは違う。
勇者の力。その加護で守られていただけ。今回のように瘴気を大量に取り込み過ぎると、回復魔法の効果が極端に薄くなり、意識が戻らないことだってある。
「これから、どうするつもりだい?」
街の様子は、勇者が闇のダンジョン攻略に失敗した事実を知ったことによるもの。失敗しただけで、勇者パーティーの誰もが死んだわけじゃない。
再度挑めば良いだけ、とはいえ。
「早急に闇のダンジョンへ再度潜らなければなりません」
「どういうことよ?」
「私達が闇のダンジョンから出てきた時、瘴気が異様なほどに漏れ出していたんです。このままだと……」
そういうことか。闇のダンジョンからは、瘴気が漏れ出している。その量が増えたということは、いずれティランズにも。
「今は教会から派遣されている者達が結界を張って防いでいますが、あの勢いでは長くはもたないかと」
「ん? そういえば、そのクリントって奴はどうしたんだい?」
ロメリアさんの言葉に、僕もそうだ、とシャルに視線をやる。
「……クリントは、新たな階層主として闇のダンジョンに残っています」




