第一話「召喚士、ロボットを召喚する」
「もう! むかつくー!!」
「ま、まあまあ」
「アースもアースよ! なんで言い返さなかったの!?」
パーティーを追放された後、僕とティナは公園へと訪れていた。
今後について話し合うために。
「事実だからね……」
「……まあでも、正直よかったのかもね」
「え?」
さっきまでぎゃーぎゃーと騒いでいたティナは、急に落ち着く。
「だって、アース。完全にチャールの奴隷みたいな扱いだったんだもん。いつもいつも荷物を持たされたり、野営の時は一人で寝ずの番をさせられたり……」
「僕は、僕にできることをしていただめだよ。今の僕は、召喚士。剣士を辞めてからはずっと色んな知識を得るために本を読み過ぎて、視力が悪くなった」
と、僕は丸めがねのレンズに触れる。
あの時の僕は、世界を救う勇者のパーティーメンバーとして役に立ちたかった。ティナを召喚できた瞬間から、僕は剣士じゃなくて召喚士になるべきだったんだって。
だから、もっと色んなものを召喚できるように知識を詰め込んだし、修行を積んだ。けど、結果は御覧のあり様だ。
「僕にもっと力があれば、こんなことにはならなかったんだ」
「じゃあ、アースはこれからどうするつもりなの?」
「どうしよう、か」
勇者パーティーから抜けたとしても、戦いから抜けたわけじゃない。たとえ弱い僕でも、どこかで役に立てるかもしれない。
「ギルドに行ってみよう」
「冒険者に戻るの?」
勇者パーティーで戦うようになってから、冒険者として依頼を受けてはいない。ずっと闇のダンジョンの攻略を目的として旅をしていたからだ。
勇者パーティーだと言えば、資金も食料も苦労せず手に入っていた。だけど、今の僕はその勇者パーティーから追放された身。
「うん。ティナの強化魔法があれば、冒険者達の役に立てるはずだ」
「そうね。それじゃあ、ギルドに行きましょう! ほら! 置いてっちゃうわよ!!」
「ま、待ってよ。そんなに急がなくても」
・・・・
冒険者ギルド。
多くあるギルドの中でも、危険な依頼を率先して受ける冒険者達の統制機関。冒険者達は、雑用から魔物討伐まで依頼をされればなんでもやる。
ただし、依頼にも難易度があり全員が同じ依頼を受けれるわけじゃない。
階級は、下から下級、中級、上級、超級の四段階。
僕は、その内の一番下である下級冒険者だ。
冒険者になってさほど立たずにチャールが剣の勇者の称号を授かったことにより、僕もそのまま。
だから、ほとんど冒険者として活動をしていないため階級は上がっていないんだ。
「ここがティランズの冒険者ギルドか」
「結構大きなところね」
なんていうか……赤い。赤いレンガで作られたところだ。
僕が冒険者として登録した場所は、木材を使った落ち着きのある建物だったけど。ここは壁が凄く赤い。建てた人のこだわりだろうか?
「ちょっと目に悪いわね……」
「でも、ここの人達は見慣れてるって感じだね」
両目を細めているティナと共に、僕は冒険者ギルドへと入っていく。
「中は……普通なのね」
「そうみたいだね」
赤いのは外装だけだったようだ。中は、意外と普通。白、黒、茶など様々な色と素材で構成されている。
入口から入ってそのまま真っすぐ進むと受付があり、左には冒険者達が情報交換をする場所が。
そして、右には素材などを換金するための換金所があった。二階もあるようだけど、おそらくそこはギルドマスターが居る。
「ん? お前。勇者パーティーの奴じゃねぇか」
「お? そうだ! いっつも妖精を連れてるめがねじゃねぇか! おいおいどうしたんだ? こんなところに」
やはりすぐ気づかれる。とはいえ、僕はもう噂の勇者パーティーのメンバーじゃない。このことは、まだ広まってはいないようだ。
とはいえ、時期に広がってしまうだろう。
「まったく羨ましいぜ! 勇者パーティーってだけで、苦労せず金も食料も手に入るんだからよぉ!!」
「あー! 俺も勇者パーティーに入りたかったぜ!!」
「あ、あいつら……!」
酔っているのか。二人の男冒険者がぎゃはははとギルド内に響き渡るほどの声量で叫んだ。それに対してティナが飛び掛かりそうだったので、僕は落ち着くようにと宥めつつ依頼書が張られている掲示板へに向かう。
「とりあえず、僕は下級だから。採取依頼から」
ティナの機嫌もどうにかしたいし。採取のついでに散歩をするのも良いだろう。
そう思った僕は、下級冒険者定番の回復薬に必要な薬草採取の依頼を受注した。受付嬢は、僕が勇者パーティーのメンバーということで、受けさせて大丈夫なのだろうか? と迷っていたけど、僕は「皆さんの役に立ちたいんです」と言って半ば無理矢理受注させた。
素直に勇者パーティーから追放されたと言えば良いものを……やっぱ、僕自身まだ執着しているのかな。
依頼を受注をした僕はティナと共に東にある森へと訪れていた。
闇のダンジョンは、逆側の西にある。
闇のダンジョンは通常のダンジョンと違い、瘴気に満ちている。そのため普通に入れば、体が瘴気に蝕まれる。
瘴気を防ぐ方法はいくつもあるけど、僕達勇者パーティーの場合は、チャールが授かった勇者の称号の力によって守られている。
だから瘴気を気にせずにダンジョンに潜ることができる。
「薬草採取ねぇ。簡単過ぎなんじゃない?」
「僕はまだ下級なんだ。しっかり積んでいかないと」
「……ねえ、アース」
「ん? なに?」
さっそく目的の薬草を見つけた僕は、それを摘み取る。
「ごめんなさい」
「ど、どうしたの? 急に謝って」
急に謝ってくるティナに僕は焦る。
「私がもっと役に立ってたら」
……そういうことか。
「違うよ、ティナ」
僕は、立ち上がりしょぼくれているティナの頭を撫でる。
「ティナはちゃんと役に立ってた。役立たずだったのは、僕の方だよ」
「アース……」
「だから謝れないほしい。僕は、ティナに凄く感謝してるんだから」
「ま、まあ……それなら、良いけど」
照れくさそうに頬を赤らめ、両手を後ろにもじもじとするティナがとても可愛らしく僕は思わず笑顔になる。
「さて、薬草採取を続けよう」
「そうね! ……ん? ねえ、アース。あそこに落ちてるの何かしら?」
ティナの指差す方を見ると、手の平サイズの輪っかが落ちていた。
「これは……」
それに触れた刹那。
「うわあ!?」
輪っかは輝きだし、僕の右手に吸い込まれていく。
「ぐう!?」
「アース!?」
右手が熱い……!
「ち、近づくな!」
何かの罠? 迂闊だった……いや、これは。
足元を見ると、見覚えのある陣が展開されていた。
「これは、召喚陣!?」
だけど、ティナを召喚した時と違う。いったい何が召喚されるって言うんだ……!
なんとか召喚陣から離れた僕は、ティナに心配されながらそこから出てくる存在を目にする。
「……鎧?」
「なんか違う気がするけど」
召喚されたのは鎧。灰色の外装に胸には青い宝石が埋め込まれていた。
「―――ロボット」
「え? アース。今なんて?」
頭に……頭に情報が流れ込んでくる。ロボット……そう僕が召喚したのはロボットだ。