第十七話「もやもやしたまま闇ダンジョンへ」
「嘘だろ……アースの奴が、単身でロックワームを討伐しただって?」
チャールは、ティランズで聞いたアースの情報に頭を抱えていた。
自分達が戦力外だと思っていたアースが、知らぬ間に有名になっていた。
「てか、なによ? あの妖精以外にも召喚できたんじゃない! なに? 私達を馬鹿にしてたの?」
アースが妖精ティナ以外にも召喚できた。
しかも、見たことのない鋼鉄の人形を。気になったマーシャは、こっそりとその鋼鉄の人形―――ロウガを見た。
そして、その異様な姿から強さを感じ取ってしまったのだ。
「マーシャ。その鋼鉄の人形ってのは、そんなに強そうだったのか?」
ブライが問いかけると、マーシャはむっとした表情で口を開く。
「み、見た目だけよ。確かに、狼の兜を被っていたからちょーっと強者感はあったけど」
「ロックワームを単身で……あの、そのアースさんと言うのは」
唯一アースのことを知らないクリントは、アースのことを聞こうとするが。
「知らないわよ!」
「え? あの」
「……追放した奴のことを考えてもしょうがねぇ。俺達は、これから闇のダンジョンに挑み行くんだ。気持ちを切り替えるぞ!!」
チャールは首を激しく左右に振り、指示を出す。
「そ、そうね! 私達は勇者パーティー! というか、私達だってロックワームを倒したことあるし!」
「まったくだ。おい、新人! お前の魔物召喚も期待してるんだからな!」
「は、はい! 任せてください!!」
自分達は選ばれし者。
闇を祓う勇者パーティーだ。世界を救う使命がある。そう言い聞かせ、チャール達は闇のダンジョンへと赴く。
「……はあ」
その背後で、聖女シャルはため息を漏らす。先ほども、考え直すようにと伝えた。しかし、彼らはアースの活躍を受け入れるどころか嫉妬するばかり。
プライド。
それが邪魔をしているのだろうか。一度、戦力外と思い追放した者を強くなったから戻す。そんなことをしたら、自分達が馬鹿だった。見る目がなかった。そう思われるんじゃないか、と。
「アースさん。やはり、このパーティーは」
こんな気持ちで闇のダンジョンへ挑むのは危険だ。
「チャールさん。今日のところは、やめません?」
「なによ、あんた。怖気づいたの?」
「違います。皆さん、アースさんのことでもやもやしています。その調子では、集中力を欠き、いざという時に対応できません」
シャルの言葉に、チャール達は核心を突かれたとばかりに黙ってしまう。
「も、もとはと言えばあんたのせいでしょ! さっきだってアースのことを!」
「……チャールさん」
「む、無視……」
シャルの真剣な眼差しを見てチャールは、思考する。
確かにアースのことで、集中力を欠いている。
これから挑むのは通常のダンジョンじゃない。瘴気により強化された魔物達がうじゃうじゃ現れる闇のダンジョンだ。
こんな気持ちで、挑めば……。
「いや、このまま行く」
「だ、大丈夫なのですか?」
クリントも、なんとなく察したようで心配になり問いかける。
「ああ、もちろんだ。俺は勇者だ。何があっても、俺がどうにかする!」
「お、おお!!」
力強い言葉にクリントは、勇気を貰ったかのように声を漏らす。
「そうね。勇者であるチャールが居れば!」
「そもそも、俺達は一度闇のダンジョンを攻略したんだ。今回も大丈夫だ」
「そういうことだ。シャル」
「……わかりました。しかし、危ない状況になった撤退も考えてください」
「わかってる」
こうして、勇者パーティーは闇のダンジョンへと挑むのだった。