第十六話「赤好きのギルドマスター」
受付嬢の案内で、僕とティナは冒険者ギルドの二階を移動している。
しばらく廊下を進むと、明らかに他のドアとは違うドアが目に入る。
そう、赤いドアだ。
「ギルドマスター。冒険者アースさんをお連れしました」
一度、ドアをノックし受付嬢が中に居るギルドマスターへと呼びかける。
「おう、入ってくれ」
「どうぞ、中へ」
中から返事が聞こえると、受付嬢は赤いドアを開ける。
僕は、そのままティナと共に中へと入った。
「よっ、お前がアースか。そんで、隣に居るのがティナだな?」
中に居たの真っ赤な長い髪の毛の女性だった。
テーブルの上にどっかりと腰掛け、鋭い目で僕達のことを見詰めている。胸元、へそ、足などをこれでもかというほど晒しており、獣の、犬の耳と尻尾が生えていた。
「亜人?」
「ん? なんだよ、亜人がそんなに珍しいってのか?」
「あ、いや」
「まあ、とりあえず好きなところに座れよ」
亜人。
この世に魔素が誕生したことにより起こったのは魔力や魔法と言ったものだけじゃない。彼女のように、人の姿をしながらも獣耳や尻尾と言った普通の人とは違った部分を持って生まれた者達が居る。
それが亜人だ。
彼女のようなに獣耳や尻尾が生えた者は、身体能力が特に高く、獣の特徴なども備わっている。
「ふんふん……ほほう?」
「あの」
言われた通り、椅子に座ったところなぜか体をまさぐられてしまう。
シャツの隙間から手を入れられ、胸板、腹筋と確かめるように。それと同時に、匂いまで嗅がれる。
「こ、こらー! なにしてんのよ! あんたぁ!?」
「おっと……悪い悪い。元勇者パーティーのメンバーで、単身ロックワームを倒した男がどんなもんかと思ってなぁ。お前、召喚士だったよな? にしては、結構体鍛えてるじゃんか」
にしし、と悪戯をする子供のような笑顔で身を引くギルドマスター。
「これでも、元剣士なので。召喚士になってからも、体は鍛えてるんです」
「へえ、そうだったのか。っと、そういえば自己紹介がまだだったな。あたしは、ロメリア。ティランズの冒険者ギルドのマスターだ。見ての通り獣型の亜人だけど、そういうの気にする派か?」
「いえ。特には」
「そうか。なら、このまま本題に入ろうじゃないの」
ロメリアさんは、僕達の前の椅子にどかっと座る。
「知ってるだろうが、東の森に新しいダンジョンが生まれた。ほんで、その調査をしようと思ってさ。本来ならこういうのは中級八位以上の冒険者達を向かわせるんだよ」
冒険者の階級は大まかに下級、中級、上級、超級だが、そこから細かく十位から一位と分けられる。
ちなみに、僕は下級五位だ。
「つーわけで、ギルドマスター権限でお前を中級八位に格上げする」
「え?」
「そ、そんなことしていいの?」
「いいに決まってるだろ。あたし、ギルドマスター。それに、ちゃんと理由はある。あんたは、単身でロックワームを、それも無傷で討伐した。そんな奴をいつまでも下級五位のままにはしてられない。ちゃちゃっと上の階級に上げて世のため人のために働いてもらうべきだ。な?」
にっと笑みを浮かべロメリアさんは、ティナに顔を近づける。
「た、確かに……」
「というわけなんだが、どうだ? 召喚士アース」