第十二話「夢の中の少女」
ゴブリン討伐で洞窟へ赴いた僕達だったが、予想外のトラブルが起きロックワームと遭遇してしまった。
ロウガの力で倒すことができ、ゴブリン討伐の依頼達成報告と同時にロックワームのことを冒険者ギルドへ報告した。
最初は信じられない、と言った反応だったが、持ってきた魔石と牙を調べた結果。ロックワームのものだと判明し、冒険者達は大騒ぎ。
僕は僕で、ロックワームを単身で倒したことで大騒ぎ。とはいえ、まだ僕が勇者パーティーを追放されたことが知られていないようで、さすが勇者パーティーのメンバーだ、と言う者達も居た。
ちなみに、ロックワームの魔石と牙三本は冒険者ギルドへ提供した。
その分の資金を貰って。
さすがロックワームの魔石。一つで、今回のゴブリン討伐依頼の三倍もの報酬金が手に入った。それに加えて牙三本も結構な値だった。
突然の追放、冒険者再開、新たな召喚、予想外のトラブル。
濃い一日を終えた僕とティナは、ベッドに入るとすぐ夢の中へ落ちた。明日は、どんな一日になるんだろうと思いながら。
「―――ここは?」
ふと、何かの気配を感じ目を開けると、謎の空間に僕は立っていた。
そこは鋼鉄の壁に囲まれた細い道。
僕は、なんだろう? と思いつつ歩を進める。
「……」
どれぐらい進んだだろう。そう思っていたところ、ようやく終わりが見えた。
「あれは」
そして、その終わりで見たのは……一人の少女だった。ただ様子がおかしい。鋼鉄の板、鋼鉄の管、そんなものが裸の少女に取りつけられている。
まるで融合しているかのように。
黒い長髪の少女だ。なぜだろう……どことなくティナに似ているような。
「あ」
ぼーっと少女のことを見ていると、目を覚ました。
僕に気づいた少女は、僕のことを見詰め返しながら何かを言おうと口を開くも声が出ていない。なんだ? 何を伝えようとしているんだ?
もっと近くに行けば聞こえるかもしれない。そう思った僕は自ら近づいて行こうとするも。
「え?」
突如として、少女の背後から赤い筒のようなものが現れ、僕の体の中に入っていった。
「……」
「ま、待って! 君はいったい!」
遠退いていく。これは夢から覚めるんだ。必死に僕は手を伸ばすが、届かない。僕が最後に見たのは、少女の微笑みだった。
「―――今のは……本当に、夢、だったのか?」
視線の先には僕が泊っている宿の天井。そして、耳に届くのはティアの心地よさそうな寝息。
窓の方を見ると、カーテンの隙間から漏れる日差しが見えた。
「あの子はいったい……」
ティナに似ていた子。僕は、隣で眠っているティナの方へ顔を向ける。涎を垂らして、無防備な表情だ。思わず笑みが零れる。
「……」
身を起こし、僕はふと右手の甲が気になり目を向けた。
僕が召喚できるようになったロボット。あの少女は関係あるのか? そういえば、あの時……彼女から何か貰ったような。
赤い筒のようなものが体内に入っていった。
「……まさか」
体の内から感じるこの感覚。
ティナが起きたら、試してみよう。
「アースぅ……」
「どんな夢を見てるのかな」
ティナが自然と起きるまで、外の空気を吸おうと思いベッドから立ち上がる。
「ん?」
そこで、部屋の隅から視線を感じ、顔を向けると。
「……」
「おはようございます、アースさん」
なぜかシャルが膝を抱えながら座って居た。
「お、おはよう。シャル」
「いつもより十五分早い起床ですね。何か嫌な夢でも見られたんでしょうか? あっ、散歩へ行くのであれば、私も同行します」
そう言って立ち上がり、笑顔を向けてくる。
「はい。めがねのレンズは、ぴかぴかに磨いておきましたよ」
「あ、うん。あ、ありがとう」
どうして部屋に居たの? とか。どうして部屋の隅に居たの? とか色々聞こうと思ったけど、結局聞くことができなかった。
そして、そのまま二人で、早朝の散歩をするのだった。