第十一話「光の狼」
「ロックワームって……なんでこんなところに!?」
「これも闇のダンジョンの影響、なのか?」
本来ロックワームは、もっと岩山が多い場所や鉱山などに生息する魔物だ。そして、僕達のような下級冒険者ではほぼ勝てない。
出会った時点で、死を覚悟した方がいい。
岩のような皮膚に、硬いものを嚙み削る円形に生えた多くの牙。
並みの武器、防具などロックワームの前では役に立たない。
戦法としては、魔法による遠距離攻撃。もしくは、唯一柔らかい体内への攻撃だ。
「ティナ! 僕にも強化魔法を!」
「わ、わかったわ! 〈ブースト〉!!」
念のため、僕の身体能力を向上させる。その刹那、ロックワームが正面から堂々と突撃してきた。
「ロウガ!! 正面からの攻撃は避けるんだ! 僕が囮になる! その隙に攻撃を!!」
僕はロックワームの気を引くために魔石ランプを投げつける。
見事に命中したことで、ロックワームは僕を標的とし追ってくる。
「アース!!」
心配するようなティナの声が響く。
大丈夫だ。
君の強化魔法で身体能力は格段に向上している。いつも以上に、僕の足は速い。そして、ロックワームが僕を狙っている。
その隙を―――ロウガが鉤爪で切り裂く。
「ギギギイイイッ!?」
「浅いか……!」
しかし、さすがロックワーム。血が出るほど岩の皮膚を切り裂いたが、消滅までにはいかなかった。
「ロウガ! もう一度」
トドメを刺すように指示をするが、それよりも早くロックワームがすぐ近くの穴に入っていく。
「あいつ、逃げたわ!!」
「……」
静寂に包まれる。
本来なら、どこから来るのかと予想をするところだが。
「ロウガ。ロックワームの位置はわかるか?」
すぐロウガのところへ近づき問いかけると、ロウガはこくりと頷いた。
すると、僕の右腕の甲にある紋章が輝き薄い枠が出現する。
それは、ロウガに備わっている生体センサー。つまりロウガが見ているものだ。そして、この生体センサーによればロックワームは。
「ティナ! こっちへ!!」
「へ? あ、うん!!」
離れた位置に居たティナへ叫ぶと、ロウガは同時にティナの方へ駆け出す。エネルギー結晶部分からカシュ……という音を鳴らして。
ずっと結晶に蓄えられていたエネルギーは粒子となって放出。
「わわ!?」
さっきまでティナが居たところの壁からロックワームが勢いよく現れる。
「ギイイイイッ!!!」
それでも諦めないのか。ロックワームはそのままの勢いでティナへ突撃してくる。が、それを迎え撃たんとする鋼鉄の狼が居た。
放出したエネルギーは身に纏い、鎧と化す。
その姿は、まるで光の狼。
「ギギギギイイイッ!?」
一閃。
ロックワームは、光の狼の一撃で真っ二つに両断された。
攻撃を終えたロウガは、再びカシュ……と音を鳴らし放出させていたエネルギーを止める。
「や、やったの?」
「……みたいだね」
静寂に包まれる中、ぼとりと音を鳴らし、大きな魔石と牙が三本地面に落ちた。
「お、大きい。これがロックワームの魔石」
ティナより一回り大きい。ついでにロックワームの牙に刺さっていたゴブリン数体の魔石も落ちていた。
そして何よりも、嬉しいのはドロップアイテムだ。
魔物は時折、魔石と一緒に己の体の一部を残すことがある。それがドロップアイテムだ。今回落ちたのは、ロックワームの牙、と言ったところだろう。それも三本も。
「ふう……それにしても、まさかロックワームと遭遇するなんて」
「でもでも! おかげでロウガの強さがもっとわかったじゃない! ロックワームをあんな簡単に倒しちゃうなんて!! よくやったわ! ロウガ!!」
と、嬉しそうにロウガの頭をティナは撫でる。
「だね。よし! 予想外のトラブルが起こったけど、本来の目的は洞窟に居るゴブリンの討伐だ。まだゴブリンが居ないか隅々まで確認してから帰ろう」
その後、洞窟内にはもうゴブリンはおらず、ロックワームの魔石と牙三本を持って、僕達は洞窟から立ち去った。