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勇者だったら何をしてもいい  作者: 黄田 望
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 「今日はとっ~~~~~~~~~っても平和!」


 今日は最近毎日訪れる勇者(ストーカー)が来ない日。

 それが分かっただけでも頭痛が全くしない。


 「メイド。 今日は気分が良いから何か美味しいお茶を用意して!」

 「かしこまりました魔王様」


 玉座の背後から出てきたのは執事のような恰好をしたゴブリン族の少女。

 魔王城の外にいるゴブリンのような野性味溢れた雰囲気はなく、品性と知性を持った清潔感のあるゴブリンだ。

 物覚えも魔族全体から見ても優秀である事から魔王がわざわざ出向いて魔王の執事として雇った。


 「はぁ~~~美味しい。 それに良い匂いで心が安らぐわ。 これ何処で手に入れたの? いつものフェニックスの羽からとれるお茶とは別物よね?」

 「はい。 それは人間界で生産されているハーブと呼ばれる葉から入れた物になります。 なんでもストレスを和らげたり心を落ち着かせる効果があるとか」

 「へ~! 流石は人間。 やはり文明的にも魔界の数十年は最先端にあるわね。 ますます支配するべき種族だと認識するわ」

 「はい。 魔王様であれば必ず世界を支配する日も遠くありません」

 「ふふ、ありがと。 それよりもこのハーブと呼ばれるお茶。 どうやって手に入れたの? 人間界に忍ばせた魔族が持ってきたの? あ、これおかわり頂戴!」

 「いえ、それはこちらの方が持ってきてくれました」

 「ん?」


 メイドが指さす方に振り向くと、そこには魔王のお茶のおかわりを入れる勇者が立っていた。


 「!?!???!?!!?~~~ッ」

 「はっはっは! こらこら魔王ちゃん。 いくらボクが淹れたお茶が美味しすぎたからって魔剣を向けるのは良くないな~」

 「な、な、な、なんでアンタがここにいんのよッ!!!!」

 「え? だって君がボクに言ったんだろ?」


 ◆ ◇ ◆ ◇

 時は少し遡り、昨日の話。


 「魔王城の仕事の手伝い?」

 「えぇそう。 どこぞの誰かさんが魔王城を攻めてきたせいで魔王城の従業員の半数以上が負傷して仕事も出来ず、しかも建物の修繕、更には結界魔法の破損などある為仕事は増加。 今や我々魔族は人手が足りない状況なの。 そこで――」


 魔王はテーブルの上に積まれた山の書類を指さす。


 「この仕事の量を一日で終わる事が出来れば私は休みを取れるわ! つまり!」

 「デートをする時間を作れる! と言う事?!」

 「えぇそうよ。 どう? やる?」

 「やるッ!!!!」


 ◇ ◆ ◇ ◆


 そして時は戻り、現在。


 「ま、まだ半日も経ってないわよ! こんな所にいないでさっさと渡した書類の仕事をしなさいよ!」

 「いや~それは―――」

 「――! あぁ、そう。 そういう事ね」

 「え? なになに? どしたの?」

 「アンタがここにいるって事はつまり、仕事をほっぽり出したのね」

 「ん?? いやいやだから―――」

 「言い訳はいいわ! これだから人間は。 約束も守らず平気で自分の欲望だけで行動する下等種」

 「いやあのね? とりあえず話を――」

 「まぁそもそも? あの量を勇者とは言え人間風情が一日で全部終わらせるとは思ってもいなかったし? その内諦めるであろうと思ってはいたけどまさかこんなに早く手を抜くとは思ってもなかったわ!」

 「あの~・・話を・・・」

 「勇者と言ってもやはり人間! 恋だの愛だのと言っても結局は欲望にまみれた存在なのよ!!」

 「・・・」


 そして勇者は壁に向かって頭を付けてしゃがみ込んでしまった。


 「魔王様」

 「メイド! この陰湿な人間を早く外に追い出して!」

 「いえ、魔王様」

 「え! なに!」

 「こちらの方はすべて終えてここにいます」

 「何が!?」

 「魔王様が与えた書類の仕事をです」

 「あっそう! 私の与えた仕事を終えてここにいるの! それがなに?! ・・・え?」


 興奮して憤っていた魔王はピタリと動きを止めてメイドに振り返る。


 「今なんて?」 

 「はい。 この者は魔王様が与えた仕事をすべて終えてここにいます。 更には怪我人の治療、及び魔王城の欠損した建築だけでなく神代に伝わったとされる古代魔法の結界まで張って頂き、魔王城は以前の数倍強固な城と成り代わりました」

 「・・・・・はい?」

 「こちらはその報告書と魔王城にいる従業員の勇者様に対する評価にございます」


 メイドから受け取った書類を見ると、魔王城の再建築された場所から結界の情報が記載されており、数十枚と記入された報告書には魔王城で雇っている魔族からの勇者への感謝と高い評価が記載されていた。

 もはや従業員は勇者が人間から魔界へと乗り換えたかのような話になっている個所も多々ある。


 「い・・一体どうやって!」

 

 魔王が渡した仕事は魔王城全員が行っても一年はかかる再復興の仕事だった。

 例えどんな優秀な人材であっても半日ですべてを終わらすなど不可能のはず。

 だというのにこの男は――


 「え? そりゃちょちょいのちょーいとやって終わらした」


 ――と不思議そうな表情を浮かべて言い放つ。


 「さて、これで誤解も解けたことだし! 魔王ちゃん! デート行こう!!」

 「~~~~~~~~~~~~~ッ!!!?!!!????」


 まとめられた報告書をクシャクシャにして握り絞め、魔王は何でもしてしまう勇者を睨むだけしかできないでのあった。

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