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「やぁ魔王ちゃん! 今日も変わらず可愛いね! 結婚しよう!」
「・・・」
「ん? どうしたんだい? ハッ! まさか風邪をひいたのかい?! 待ってて! 今すぐに万能の薬と呼ばれる蓬莱を城から奪いに―――」
「ちょっとまって???」
「はい!」
「・・・頭痛くなってきた」
「やはり風邪かい!」
「アンタの言動と存在のせいよ」
「それは困った。 言動はどうにかなるとして存在を消してしまったら君と結婚ができない」
「じゃあ今すぐに私の城から・・いいえ、魔界そのものから消えてくれない? そうすればすぐに頭痛も消えるから」
「分かった!」
「そ。 じゃあとっととかえっ――」
「それじゃあ今すぐに結婚して君も人間界に行こう!!」
「・・・はぁ」
――頭痛がする。
勇者と名乗る男が私のいる玉座までたどり着いてからもうすぐで1ヵ月が過ぎようとしていた。
何度追い返しても何故か宿敵であるはずの私に結婚などという戯言をアピールしてくる勇者が鬱陶しくて仕方がない。
「いい加減にして。 私は魔王。 いずれ世界を支配してすべてを我が物とする王である。 貴様のような人間風情が私と婚姻だと? バカバカしい。 もっと自分の顔を鏡で見てこい痴れ者が」
「なるほど。 つまりボクの顔は君のタイプではないということ?」
「全く持ってその通り。 理解しているのならば早々に我が城から立ち去れ人間」
「分かった! じゃあ顔を変えてくる!」
「そうか。 ならば疾く消えるが―――今なんて?」
「『 セット 』」
勇者が右手を前に出して目を閉じると足元から魔法陣が浮かび上がる。
「『 我が身体は神への賜物 されど今この時 この瞬間 他を惑わす偽りの存在を我が身体へ降ろし給え 』」
勇者の顔は整ったイケメンとなった。
「どうだい魔王ちゃん? これで君もボクに一目惚れしただろ? さァ子猫ちゃん。 ボクのお嫁さんになっておくれ」
「お断りします」
「ホワットッ!!? どうして!? 人間のみならず亜人にも人気のフェイスだよッ!」
「親からもらった自分の顔を偽ってまで結婚を迫ってくる時点で論外。 言葉使いキモイ。 キラキラ眩しい。 あと単純にタイプじゃない。 以上」
「正論という暴力がボクのハートを殺しに来てる!?」
「そのまま死んでしまえ」
「それは断る!」
勇者は魔法を解除して元の顔に戻る。
先ほどまでのふざけた雰囲気とは裏腹に真剣な表情を浮かべている。
思わず気を取り直していつでも戦闘出来る態勢を取った。
「死んでしまったら、二度と君と会えないから!!」
すぐ戦闘態勢を崩した。
「はぁ、もういい。 もういいから今日は本当に帰って。 私も暇じゃないのよ」
「む。 仕方ない。 確かに体調が悪そうだ。 ・・・もしかして生r―――」
「ぶっ殺すわよ」
「はーい。 失言でした。 かえりまーす」
勇者は振り返ると一瞬でその場から姿を消した。
「・・・転移魔法」
それは神代と呼ばれた大昔に存在したと呼ばれる古代魔法。
その名を口にするだけで御伽噺だけの存在だと誰もが知るフィクションな存在。
しかも無詠唱でそれをいとも容易く行い実際にやってのける勇者に思わず言葉漏らす。
「勇者だからって何をしてもいいと思わないで」
それは魔王である私が宿敵である勇者に対しての嫉妬であった。