タイムマシンに乗って
西暦3300年 日本 さくら小学校6年2組
「今日の社会の授業は、タイムマシンに乗って、2010年の日本を見に行こう。」担任の小林は言った。
「やったー!ようやく2000年代に突入だね!」社会が得意なキラリは喜んだ。
「毎回、言っているが、万が一、乗り物から出て、過去の人間に見られたら、その瞬間に君たちの体は消滅してしまうので、気を付けるように。」小林は付け加えた。
現在、歴史の授業は、単なる年代と事象を暗記する科目ではなく、約250年前に開発されたタイムマシンに乗って、過去を実際の目で見て学ぶという科目になっている。最新のタイムマシンは、過去の人間からは見えない透明な乗り物になっている。
タイムリープは、タイムマシンのメーターを行きたい年代に合わせるだけだ。タイムマシンに乗り込んだ生徒たちは、一瞬の内耳がゆがむ感覚があった後、窓の外は過去のそれとなっていた。
「さぁ、これが、2010年の日本だよ。この時代は、まだ男と女に明確な区別があり、それに違和感を関じる人たちが声をあげるようになり、ようやくトランスジェンダーという言葉が生まれたころだよ。」
「たしかに、みんな見た目で、男か女か区別できるね。」学級委員のカオルが言った。
「今では、男も化粧をし、スカートをはくのも普通だから、見た目では分からないよね。昔は、男は男らしく、女は女らしく、なんて言葉もあったんだよ。この頃の日本は、先進国の中では遅れていて、同性同士では結婚できなかったし、性転換手術も海外に受けに行ってたんだよ。今のように、誰でも生まれてから二回まで性別が変更できるようになるまで、とても時間がかかったんだ。」小林は、過去の人間を指さしながら説明した。
「あ!太っているわけではないのに、お腹が大きな人がいるよ!あれが、こないだ保健の授業で習った妊娠ってやつ?」キラリが叫んだ。
「そうだよ。現代では、卵子が受精に成功した時点で、受精卵はお母さんのお腹から取り出され、病院で、お母さんのお腹と完全に同一の環境が再現できる機械の中で10か月間、育てられるよね。この時代のお母さんは、10か月間、自分のお腹で子供を育てなければならなかった。その間、つわりというひどい吐き気に悩まされ、寝込むことも多かった。しかも産むときの苦しみは、よく「鼻からスイカ」という風に例えられたんだよ。」
「えー!!鼻からスイカ!!!信じられない!!!!」子供立ちは、驚いて声をあげた。
「さあ、タイムリープはこれでお終い。教室に戻って、今日、学んだことを復習しよう。」
小林が、メーターを3300年に戻した。
地球から二億光年先の星プーナリア
「この間、見つかった銀河系にある、知的生命体いる星の調査は進んでいるかい?」プーナリアの高度生命体のラドンは、仲間に聞いた。
「超高機能望遠鏡で観察していたんですが、タイムマシンの開発までは進んでいるようです。外観も、青くとてもきれいな星ですね。」仲間は報告した。
「では、実地調査に、我々の仲間を数名派遣した方がいいと思うかい?」
「いや、超高速コンピューターで未来をシミュレーションをしたんですが、温暖化による海面の上昇がかなり進んでおり、陸地も全盛期に比べると半分に減少しております。近いうちに陸地をめぐっての細菌戦争が勃発し、生物は滅亡、地球も生命体が住める環境ではなくなるでしょう。実際に見に行く価値はないと思います。」
「そうか、残念だな。しかし、同種族間で殺しあうような、非生産的な行為をする低レベルな生命体の調査は、これ以上、時間の無駄だ。知的生命体のいる星はまだ無数にある。きっと我々と対等に交渉できる生命体が見つかるはずだ。」ラドンは、自分に言い聞かせるように応えた。