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海を越えた梢の花とウィルバートン家の呪い  作者: 高台苺苺
第3章 いつもと同じ朝を貴方達と共に・・・
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第2話 ガーデンパーティーでの悲劇


 約束通りに由華里は軽い健康診断を受けた。Drシェルダンはにこやかに、軽い疲労が蓄積しているので無理をしないようにと診断を下した。


 ほらね!と由華里は得意げにマークとラーナを見る。

 マークとラーナは絶対安静的な診断が欲しかったので、不服そうに肩を竦めた。


「Drシェルダン、私は今日の午後はオフになりましたの」

「それは結構ですね」

「ですから、気分転換に久ピクニックに行きたいのだけど、もちろんOKですよね?」

「ピクニック?まだ肌寒いですが…まあウィルバートン邸の敷地内なら大丈夫でしょう」


 まあ!と、由華里はおかしそうに笑う。


「いいえ!お外です。最近春らしく暖かくなってきたから、郊外の森にでも行こうかと思うの。いいかしら?」


 Drシェルダンは診察道具を片付けながら、優しい茶色の瞳をにっこりと微笑ませた。


「結構な話ですね。もちろんです。身体を動かされれば、もう少し食が進まれるでしょう。もう少し体重を増やしてください。今日はこれで結構ですよ。

 また明日。由華里様」


「また明日?!明日も診断するの?」

「ええ。それがお嫌ならピクニックはナシですが?」


 まあ!と由華里はおかしそうに笑い、立ち上がり、Drシェルダンにお礼を言い、メイルにランチ・ボックスを頼んでくるわと、メイドのクラリサと共に部屋を出て行った。

 Drシェルダンと助手は帰りの準備をしながら、ドクターバックを閉じてラーナ達を見た。


「それで?その後?…どうですかな?」


 二人は首を振った。

 Drはふむ…と考え込んだ。ラーナが心配そうに、何度も何度も手を組み返しながら尋ねる。


「Drシェルダン…由華里様のあの痩せ方は尋常でない気がします。その…何か…重大な病気とか…」


 それは無いとDrシェルダンは手を振りキッパリと否定する。


「由華里様は大変健康体でいらっしゃいます。あの痩せ方は…

 やはりあの事件による心因性の物でしょう…。

 心因的負担になるようなお仕事はさせていませんよね?」


「ええ、それはもちろん!!ご本人は…不服のようですが…。今週いっぱいの予定もキャンセルして、ゆっくりするようにとのアーネスト様からのご指示です」


「結構ですな。パーティーによる事件ですから、パーティーからは離れた方がいいでしょう。フラッシュバックをさせないように。

 食事はどうですか?今朝の食事は…ちゃんと取られたようだが…やはり量が少ないですね」


 ラーナから手渡されたデーターを見ながら、Drシェルダンは眉根を寄せた。


「厨房の者達がかなり気を使い、少しでもお口にするように工夫しています。なるべくお好きな物を出すように、和食も増やしました。

 日本の華代様のレシピをいただいたり。栄養剤関連も指示通りにジュース等に混ぜ込んで、悟られないように摂取していただいてます。

 なのに…」


 それでも由華里は日々少しずつ痩せていく気がする。


「あの事件から、まだ数か月ですからな。栄養を摂取しても身体が無意識にそれを拒否している可能性がある。今日のピクニックは、いい気分転換になるでしょう。

 いいことだ。

 ただし無理は禁物だから、それは重々承知しておくように。

 こういう事は時間がかかる、

 特に…あの事件はショッキング過ぎた」


 ドクターの言葉にラーナとマークは苦渋の顔をした。


  昨年の6月にアーネストと盛大な結婚式を挙げ、公にウィルバートン夫人として社交界にデビュー(実際はその4か月前に書類上は既に由華里・ウィルバートンだった)をした由華里だった。

 

 誰もが羨む結婚だったが、その後の生活は多忙を極めた。


 長年不在だったウィルバートン夫人としての仕事が由華里にどっときた事も大きいが、資産運用管理維持から、慈善事業、大小さまざまなレセプション、パーティー参加等々。

 その間の上流社交界の様々な教養教養、護身術に乗馬等など…。

 周囲が心配するほどに、由華里は積極的にそれ以上にがむしゃらに頑張った。


 疲れとストレスがそろそろ限界ではないかと、周囲が心配していた時、気軽なピクニック気分でするというガーデンパーティーの招待状が来た。軽い催しと言うこともあり、アーネストの仕事の都合で、マークを伴い由華里一人で出席となった。


 ガーデンパーティーを主催した夫妻には一人娘がいた。

 上流社交界ではよくありがちな、人を見る目を養えなかった娘はいわゆる「ごろつき」の様な男と恋をし、子供を身ごもり結婚した。

 双方がそれなりの家柄であり、力があった為、最初は平穏な生活を送っていたが、御多分に漏れずに直ぐに結婚生活は破局した。


 それはそれで良くある話しだったが、男の親は息子に愛想をつかし、出来の悪い息子を切り捨て、孫である息子の子供と嫁を取ることにした。


 それが男のプライドを激しく刺激した。


 冬晴れの晴天の気持ちのいいそのガーデン・パーティーに、男はごく普通に現れ、少し元妻と言いあいをしたあと、まるでキスをするかのように、ごく自然に銃で元妻の頭を吹き飛ばした。


 大勢の客の前で。


 悲鳴と怒号と逃げ惑う招待客で会場は大混乱に陥った。

 間が悪い事に、飲み物を取りにマークが由華里のそばを離れた数分間の間の出来事。しかも由華里のいた目と鼻の先の凶事。

 逃げ惑う人々に押されて転んだ由華里を、その男は盾にした。 


 だが、それは数秒の出来事。由華里が掴ってから1分も経たない間の事だった。


 突然、自分を羽交い締めした男が銃を弾き飛ばされ、のけぞり、肩を打ちぬかれて吹き飛ばされた。同時にマークが駆け寄り、由華里を抱き寄せ一切を見せないように目を覆い、その場から連れ出し他の逃げ出す客達に乗じてウィルバートン邸に戻った。


 それは事態を察知したマークの俊敏な反撃と行動で、由華里は無傷。完璧な救出劇だった。ウィルバートン邸にはマークの連絡によりドクターが呼ばれており、外傷やメンタル対応など完璧な事後処理だった。


 事件は、妻側の実家で開催されたガーデンパーティーで、離婚を不服とした元夫の凶行と言うことで事件は幕を閉じることになっていた。

 

 が、

 その事件にウィルバートン夫人が一時的にでも拘束され、被害者になったことがリークされた。その家の使用人がそのマスコミに流したのだ。

 ウィルバートン財閥の夫人が殺されそうになったと言う話が尾ひれを付けて一気に流れ、翌朝には凄まじいゴシップとなり、その洗礼を由華里は頭から浴びる事になった。今まで羊の皮を被っていた狼たちが、貪欲に貪るように由華里の心に襲い掛かった。


 運が悪いことにアーネストやブレーンなどが国外にいた事も拍車を掛けて悪夢のように後手後手になった。アーネスト達が事件の報告を聞き、即刻屋敷に戻ったが、怯えきった由華里は部屋に閉じこもり、発作的なヒステリーを起こすまでに追い込まれていた。


 すぐさま迅速な対処がなされ、騒ぎは直ぐに鎮静したが、由華里の心に大きな傷を追わせた。

 自己防衛本能だろう。由華里は高熱をだして数日寝込んだ後、事件の一切を記憶から消していた。


 それからだった。


 微妙に由華里の様子がおかしくなりはじめ…

 少しずつ…少しずつ痩せはじめた。

 まるで命を削るかのように…。


 怒りにマークは身体を震わせた。

 あの時、少しでも由華里のそばを離れるのではなかったと、激しく後悔をした。


 完璧なセキュリティー下の敷地内でのガーデンパーティーだった。少し窮屈を感じていた由華里に、自由にのびのびさせたくて、ほんの一瞬、由華里が頼んだ飲み物を取りにテーブルに向かったその一瞬を突かれた。


「マーク、あなたがそんな顔をしていると、由華里様が気になさるわ。ホラ、笑って。あなたのお蔭で、由華里様は傷一つ負わずに済んだのだし、あれ以上の事は誰にもできなかった。マークが由華里様付きのボディーガードで…本当に良かったわ…」


 ラーナはマークの背中を叩いた。


「ピクニック、いってらっしゃい。楽しんでね。私はいつも通りに渋い顔でお小言言いながら見送るわ」 


 二人は苦笑しあい、鼻歌を歌いながら戻ってくる由華里の気配に顔を挙げた。


 今日にピクニックで良い方に向かえば…。

 そう誰もが切に願っていた。 

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