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海を越えた梢の花とウィルバートン家の呪い  作者: 高台苺苺
第一章 梢の花は海を越えて富豪と家出
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第7話 父と対峙

父親の泰蔵も軽く掌で転がす木暮雅人の謎が深まる由華里。でも危機感ゼロの能天気のままです。

「如何されましたか?」


 にやにや笑う彼を見上げ、由華里は口に指をあてて「しーっ」と言った。


「知っていて聞いているんでしょ!!木暮さん、父の事を知っていると言っていましたよね!」

「ああ…確かにそうですね。周囲の方達もご存じですか?」


 由華里は父親の平野泰蔵を取り囲む一団に目をやった。

 殆どが泰蔵の部下や同列他会社の関係者ばかりだった。


 渋々由華里は端的に説明する。

 木暮雅人は感心した目を向けていたが、それに気づかず、ちらりと由華里は疑いの目を向けてきた。


「あなたがこの会場に呼んだのではないのですか?」


「違います。私は招待客の一人で、主催ではありませんからね。でもまあ、M商事関連の方達もいらしているとは思っていましたが…あなたのお父様が来るとは知りませんでした」


 彼は真っ直ぐに平野泰蔵の一団をみた。

 恰幅のいい如何にも日本男児たる風貌の男性が、数人の若手社員達を従えて、別の企業の者達と談笑をしている。


 そして後ろで狼狽えている由華里を見て、静かな笑みを口元に浮かべ、彼は軽く指を上げるとボーイを呼び寄せ素早く何か耳打ちした。

 ボーイは一礼し、直ぐに泰蔵の所に向かった。


 ゲッ!と、木暮の後ろから様子を伺っていた由華里の肩を抱いて横に立たせると、彼は由華里の耳元に囁くように言った。


「こんな所でこそこそしているのをお父様に見つかるのと、正々堂々とお父様にここにいる理由を述べてご挨拶をするのと、どちらがお父様のお怒りが大きくなると思いますか?」


 こんの野郎!と心の中で毒づきながら、由華里は木暮雅人を睨んだ。

 そんなの分かりきっているじゃない!ぎりっと唇を噛んで由華里は呟くように言った。


「こそこそしている方です」


 彼はその答えに高らかに笑うと、由華里の腕を取り組み、泰蔵達の方に向かって歩きだした。


 なんでこんな事に!父にばれないように家を出たのに!!

 その父とこんな場所で対峙することになるなんて!!


 がっくりとした気分で項垂れながら由華里は半分引きずられるように彼と共に父親の方に向かった。


 涼やかに笑いを浮かべる木暮雅人を見上げると、彼の目が笑い、何も言わないようにと、軽く口に指を当てた。由華里は渋々頷いた。


 平野泰蔵達は木暮雅人からメッセージを託された者から何かを聞き、途端に驚いたように慌ててこちら向かってきた。みたこともない、にこやかな笑顔で木暮雅人に挨拶をしてきた。


「これは…Mrウ…」

「初めまして、Mr平野。木暮雅人です」


 厳とした声で言う木暮に気圧されたように泰蔵が怯ひるんだ姿に、由華里は驚愕した。


 怯む父親など初めてみた!!


 平野泰蔵は怪訝な顔で、どう対処していいのか判断をしかねている。


「は…ああ…ええと…??」

「木暮、雅人です」

「Mrコグレ?でも…あの…その?」


 彼はおかしそうに笑いながら口元に指を当てる。

 戸惑った顔の泰蔵達は何かに気付いたように苦笑した。

 周りの者達も何かに気付いたかのように顔を見合わせ、そして同時に目配せしあい笑みを浮かべた。


「わかりました。Mr木暮、先程は素晴らしいお話をお聞かせいただき光栄至極に御座います。また当社に対しての(ちらりと泰蔵の目が木暮雅人の横の女性に目が向いて彼に視線が戻った)…

 その…あ!?ああああああっ!!!?」


 突然、泰蔵は由華里を凝視し素っ頓狂な声を挙げた。その声の大きさに、会場中の人々が一斉に振り返った。

 衆目にさらされて由華里は耳まで真っ赤になり、なんて声を挙げるのだと非難めいた目で泰蔵を睨んだ。泰蔵も狼狽えながら、交互に由華里と木暮の顔を見て、何かを言おうとして口をパクパクさせた。


 木暮雅人だけがおかしそうに笑いながらも、真っ赤な由華里を抱き寄せるように側に寄せ、そして静かに由華里を見つめて笑い掛ける。


「由華里さん?私にご紹介していただけませんか?」


 由華里は渋々、泰蔵達へと顔を挙げた。


「はい…。Mr木暮。こちらはM商社専務の平野泰蔵氏です。

 …その…

 私の…

 父です」


 どよっとざわめきが起こり、驚愕の視線が由華里と泰蔵に交互に向けられる。


 だからこういうの嫌なのに!


 由華里は他の見知ったM商社の人達も淡々と紹介を続けた。

 一通りの紹介と挨拶が終わると、何故ここに娘が居るのか理解できない状態で、怒りにも似たオーラを必死で抑えながら、泰蔵が由華里を睨んできた。


 まあ…そうなるわよねと、由華里は泣きたい気分で嘆息した。


「あの…Mr木暮、大変不躾ながら、いつ、娘とお知りになったのかお聞きしもよろしいでしょうか」


 まあ、そう聞くわよね。一般的な父親としては。


 でも平野泰蔵としては、このイレギュラーな場面の現状把握と情報収取だろうが。

 木暮雅人は涼しい顔で説明した。


「構いませんよ。別に隠し立てすることではありませんので。

 実は今日はプライベートでO市方面にドライブに行っていたのです。ですがその帰り道で道に迷いましてね。ナビゲーションの指示通りに走ったのですが、どうにもこうにも。この国の道路は複雑で難解ですね」


 嘆息して言うアーネストに、アハハハハと一同は頷き笑う。


「O市からハイウエイで都心に向かっていたのが、気づけば何故かU市のロータリーに迷い込んでしまいました。位置がわからず困惑していた時に、偶然に由華里さんに出会い、英語の堪能な彼女が不慣れな道を案内してくれたのです。

 素晴らしいお嬢さんですね!」


 「U市の」と聞いて、泰蔵の自宅を知っているもの達は一斉に、二人の出会いに成程と得心した。勿論、泰蔵も理解したようだった。


「成程…あの周辺で道に迷えば確かに、またハイウエイに戻るのは難しいでしょう。よく、娘が案内できたものです」


「ああ、車の運転は下手とはお聞きしましたが、運転と案内は別ですからね」

「運転が苦手な話もしたのですか!?娘が!?」


「ええ。それにM商事勤務だったきき、驚きました。我グループとM商事は浅からぬ縁がありますからね。本当に奇遇でそしてラッキーでした。ね?由華里さん」


「は?」


 全然話が見えていない由華は露骨に変な顔をして木暮雅人を睨んだ。


「なぜラッキーなんですか?あれは貴方が私を無理やり…」

「由華里さん。貴女は何故、あのロータリーにいたんでしたっけ?」


 意地悪く笑いながら言う木暮雅人に由華里はぎょっ!とした。


「ええ!!!とってもラッキーでしたわ!Mr木暮の手助けができましてわたくしも光栄に存じます」


 おほほほとワザとらしく笑う由華里に、木暮雅人トは嬉しそうに微笑む。

 周囲の者達も「それは当然だ!」と、父以外の者達が同意に頷く。

 由華里はその反応を不思議そうに見まわし、そして怪訝な顔で彼を見上げた。


「ですから、こうしてこのパーティーに参加できましたのもお穣さんのお蔭です。しかもこうして私のパートナーも務めてくださいました」


「は!?」「え!?」


 父娘は同時に素っ頓狂な声をを挙げ驚いた顔で木暮を見上げた。


 な!?何を言い出すの?!この人は!?

 何時!?

 誰が!

 あなたのパートーナーになった!?


 だが、何も言うなと言うように木暮雅人の回した腕の力が少し強くなり、由華里は瞬間に微笑み浮かべてにっこりと周囲に愛想を振りまいた。

 だが心中は、後で覚えていらっしゃい!と彼を睨んだが、彼は涼しい顔でスルーする。


そして、


「Mr平野。お願いがあります。実は私の秘書が社用で来日するのが遅れております。それで、彼等が来るまでの間、お穣さんの由華里さんに、私の秘書代わりをしていただきたいのです。お許しいただけますでしょうか?」


 ざわっと一同が顔を見合わせた。泰蔵はどっと汗を吹き出した。


「そ…それは光栄なお話ですが…ですが娘は…今現在はM商事を退職いたしまして家事見習い中ですので…」


「M商事の秘書課の方をお借りすると言う話しでは無く、平野由華里嬢を個人的に私の日本滞在中の臨時秘書として雇いたいと申しています」


 ザワザワと周りの者達が顔を見合わせる。泰蔵の顔色は少し青ざめた。


「由華里さんには宿泊先のホテルまでの案内をしていただいた間に、色々と東京の事や日本の作法などを教えていただきました。

 残念ながら、今の私のブレーンの中には、彼女程日本の事に通じている者がおりません。

 日本滞在中に私に色々と忌憚なく教えていただける者が欲しいと思っていました。

 M商事の秘書課に勤務されていたなら語学も堪能ですよね?

 簡単な通訳兼、そして文化的なことなどの案内人として、お嬢様をお預かりさせてください」


「あの、ですが娘は」

「Misアニカ・オーウエンも同行しておりますし」


 泰蔵ははっとした。


「Misオーウエンが?」

「ええ。それに今回私は数名の女性スタッフも連れてきています。由華里さんのお世話は彼女達がします。他のブレーン達ももう間も無くここに集まると思いますので。 

 それまでの間です」


 最初は何か穿った目で伺っていた周りの者達ですら、木暮雅人の説明に急に態度を変えた。

 渋る泰蔵には断る言われは無いだろうと言うように何か囁きかける。泰蔵は苦渋の顔で渋々承諾し、頷いた。


「Mrウ…Mr木暮…その…ふつつかな娘ですが……どうぞ宜しくお願い致します」


 頭を垂れる泰蔵に木暮は晴れやかな笑顔を見せ、そして大袈裟に泰蔵の手を両手で握りしめました。


「もちろんです!!お義父様!大事な御嬢さんを、私が責任を持ってお預かりいたします。また後日に必ずきちんと正式な形で御挨拶にお伺いさせていただきます。

 では行きましょう、由華里さん?」


「え!?ええっ!?」


 何か言いたげな泰蔵が、粗相をするなと言いたげに必死にオーラを出して睨みつけてくる。

 泰蔵達を後にし、木暮はとても楽しげに会場のど真ん中を通って出口へと堂々と向かった。

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