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海を越えた梢の花とウィルバートン家の呪い  作者: 高台苺苺
第一章 梢の花は海を越えて富豪と家出
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第6話 華やかな会場で

 豪奢なロールスロイスの中で、由華里は緊張の面持ちで封書を抱きしめ、過ぎゆく街並みをていた。


 昼過ぎに家を出たのが…

 何故?今こんなドレッシーなドレスを着て?

 こんな高級車に乗り込んで?

 パーティー会場に行こうとしているのか????…


 由華里はなんだか駅前の勧誘女性よりもとんでもないことに巻き込まれているような気がしていた。


 いや…巻き込まれているんだってば…。


 ははあ…と嘆息し、自分の人生は常にこうして何かに大きく巻き込まれて流されている気がする。だからその流れを変えたくて家を出たのに…


 早々変わらないのね。

 

 少しがっかりとしたような、人助けをしているのだからと慰める自分と、非現実的な現状に少しわくわくしている自分に困惑していた。


 車はやがて都内の一等地に建つ由緒あるホテルの大会場のエントランス前に停まった。ドアマンがドアを開け、降り立つ由華里に笑顔を向けると会場の方に案内をする。


 早春の日本庭園を模してレイアウトされた華やかな会場には、まさしく別世界が広がっていた。シックだが華やかにドレスアップした世界各国の男女でひしめき、笑い声と熱気と物凄いパワーが渦巻いていた。


 由華里は、シャンと背筋を伸ばして木暮雅人こぐれ まさとを探した。案内人が中央から少し外れたテラス寄りの一団を指差した。


 居た。


 いかにも老練ろうれんそうな企業家顔の紳士や華やかな女性達に囲まれて、少し無表情な笑顔を張りつけた木暮雅人こぐれ まさとが、グラスを片手に誰かの話を聞き入っていた。


 後ろから回ろう。

 

 由華里は壁沿いに人を避けながら歩いていく。

 数人の男性に声を掛けられたが、にこやかに返して木暮雅人の後ろから、そっとそばに寄った。

 タイミングを見計らい、なんの話かは分からないが、話が切れた所で彼の肩を軽く指で突叩いた。


 無表情に振り向いた彼の目が、由華里を見ると驚きに見開かれ、思わず両手を広げようとした。エレベーターの事を思いだし、反射的に下がる由華里に彼は少し苦笑した。


「由華里さん!驚きました!ここで一体何をなさっているのですか?」

「アニカさんに頼まれたの」


 由華里は脇に挟んでいた書類の封書を軽く見せた。彼は眉根を寄せて怪訝な顔をした。


「アニカからですか?」

「ええ。大事な書類を」

「書類?」

「はい。今日中に今直ぐにどうしても渡さないといけないとお願いされました」


「で?そのアニカはどうしたのですか?」

「アニカさん?アニカさんは私を送り届けてくださった後、お仕事に行かれましたけど」

「仕事?」


 由華里を怪訝な顔で見ながら、木暮雅人は差し出された封書を開き、中の書類にざっと目を通した。そして不意に微笑み、成程と頷いて封書を脇に居た男性に渡した。 


 そのぞんざいな扱いに、なんだか由華里は拍子抜けして少し心配そうに尋ねた。


「あの…大丈夫ですか?」


「ええ。大丈夫です。ありがとうございます」


 晴れやかに微笑む木暮雅人に、少し納得しかねない気持ちも過るが、まあいいかと笑い、由華里はじゃあねとウィンクすると、会場の出口に向かいだした。


 ガッと、また腕を掴まれる。


 またか…と苦笑して振り返る。

 彼が笑っていた。彼は無言でテラスの方を目線で示す。

 仕方ないかと、由華里は彼の腕を取った。木暮雅人は至極上機嫌な顔で笑いながら優しく言う。


「まさか帰るつもりですか?」


 由華里はきょとんとした。


「ええ。もちろんよ。私のお役目は終了したんですもの」


 木暮雅人はおかしそうに笑った。周囲の人々が驚きの顔をする。その様子を訝しそうに見ながら由華里はまっすぐに木暮雅人を見上げた。彼は嬉しそうに微笑む。


「ドレス、よくお似合いですよ」


 有名デザイナーの黒のシックなドレスに、シンプルなダイヤのアクセサリーのみのドレスアップした由華里は、数時間前に駅前で大立ち回りしていた女性とはまるで別人のようだった。

 髪も違う形に美しく結い上げられていた。


 ふふっと由華里は嬉しそうに笑う。


「凄いでしょ?アニカさんが貸して下さったのよ。彼女のドレス…じゃないわよね?…これは私にぴったりですものね?どうしたのかしら?これ?」


 エレベーターを飛び出した由華里を抱きとめたアニカを思いだし、木暮雅人は苦笑した。


―成程なるほど。あの時か。


 流石と呟き、心の中でアニカを賞賛し、カクテルを運ぶボーイを呼ぶと、シャンパングラスを二つ取り一つを自分の横で微笑む由華里に渡し満足げに彼女を見つめた。


「このようなパーティーには、慣れているご様子ですね?」


 シャンパンを口にして、由華里はにっこりと微笑んだ。


「ええ。M商事勤務時代に、何度か付き添って参加した事がありますし。両親の仕事関連でも参加したことがあるので。でも!こんな凄いドレスやアクセサリーを身に着けるのは初めて!少しドキドキしてるわ」


 彼は優しく笑うと、由華里のイヤリングにそっと触れた。


「よく似合っていますよ」

「ありがとう」

「次のパーティーでも是非着けてください」


 きょとんとする由華里に彼は苦笑した。


「プレゼントしますと言っているのです」

「いりません」


 キッパリと言う由華里に、木暮はテラスの手摺に肘を付いて溜息まじりに苦笑した。


「本当に貴女は頑固な方ですね。普通の女性はこういう時は喜ぶものじゃないですか?」


「そうかもしれませんね。でも、こんな高価な物、たかが書類届けのお礼にいただけません。分相応と言う物がありますから。私には不似合いです」


「似合っていますよ」


「ありがとう。でも、これは高価すぎます。対価に見合いません」


「そうでしょうか?」


「そうです!それに、お礼ならホラ!夕食をご一緒する約束をしていたじゃない。私から木暮さんに。今回のは木暮さんから私に。それでお互い相殺になるでしょう?もちろん割り勘で!」


彼はおかしそうに口元を押さえ笑いをかみ殺した。由華里は少しむっとして彼を睨んだ。


「何ですか?」

「私に割り勘で…食事を…といったのは、ははははは!貴女が初めてです」


「それは失礼いたしました!でもいい案でしょ?お互いこれで貸し借りなしですっきりです。で?今夜は何時頃に戻られます?ホテルのレストランでいいわよね?予約しておきます」


 途端に木暮雅人はゲラゲラ笑いだし、少し離れて様子を見ていた人々がぎょっとした顔をした。


「もお!なんなんですか?みんな見ていますよ。そんな馬鹿笑いしないでください」


 涙目を拭きながら、小暮雅人は真面目な顔を向けた。


「由華里さん、私達は今、パーティー会場にいるのですよ?」

「?ええ。そうね?」


「貴女はパーティーから帰った後に、ディナーを取られるのですか?」


 木暮雅人の言っていることがわからず、一瞬ぽかんとしていた由華里はハッ!と気づいた。そうよ!そんなことするわけないじゃない!


「待って!じゃあ!今日はできないから明日以降になるという事!?」


 彼はおかしそうに笑いながら、グラスを由華里に掲げた。


「デイナーは明日以降にいたしましょう。約束ですよ?ディナーをご一緒するまで、逃げないでくださいね?」


 嵌はめめられた!!!


 愕然とする由華里は、力の限りに手すりを掴んで歯ぎしりした。涼しげな顔で笑う木暮雅人を睨みつけるとぶるぶる震えた。 


「ここで…貴方を殴っちゃまずいわよねっ!!!」

「まずいでしょうね。ほら、M商事の方々もおみえですよ?」


 彼が言う方向を振り返り、その一団を見て由華里はゲッ!!と叫んで、彼の後ろに隠れるように回った。

アニカの策略でパーティー会場に送られた由華里。彼女が持参した書類は実は…。

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