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海を越えた梢の花とウィルバートン家の呪い  作者: 高台苺苺
第一章 梢の花は海を越えて富豪と家出
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第43話 速攻結婚準備と梢の花は海を越えて行く

 数十分前に婚約を承諾したばかりなのに、もう結婚式の日取りがほぼ決まりの話しに仰天する由華里。

 だが、アーネスト達は当たり前の顔でスケジュールを打ち合わせている。


「結婚式!?それどういうこと?さっき私は」


「「「「「婚約したばかりですよね!」」」」


 4人は同時に言い、キャスーンとアーネストがおかしそうに笑う。


「ですから、私達の出会いと同時に準備は進められてました」

「だから何故!?」


「「「「アーネスト様のスケジュールが分決まりだからです」」」」


 また4人同時に困ったように言う。


「まあ、調整はいくらでもできますけどね」

「由華里様の気が変わらないうちにどんどん進めないと!!」


 またそれを言う…と、由華里は苦笑した。


「で?婚約した直後に結婚式の話しなの?」

「そうですね。搭乗時間までまだ時間がありますから、決められることは決めましょう」


 てきぱきとアニカはデーターを全員に送る。由華里も支給されていたパッドを取り出しスケジュールを見る。本当にびっちりとしたアーネストのスケジュールだ。それに合わせて、全員のスケジュールも重ねられる。


「凄いわね…と、言うより、みんなのスケジュールをこうしてみられるなんて…なんだかうれしいわ」


 アニカは由華里が昨夜言っていたことを思い出し、手を伸ばしてぎゅっと由華里の手を握りしめ微笑んだ。


「これからはずっと共有です」


 アーネストも由華里を抱きしめて言う。


「そうです。ずっとスケジュールは共有です」


 幸せそうに微笑む由華里達に、アニカ達も嬉しそうに笑う。


「ところで、オーソンってどなた?」


 その場のほのぼの空気をぶった切る、由華里のド直球質問に一同は大きく笑う。


「オーソンは当家の執事です。父の代から働いてくれています」

「執事!?」


「はい。代々引き継いだ屋敷なので、管理統括するものが必要なのですよ。もちろん、女性のマキーソン夫人もいます。古めかしい言い方ですが、メイド長と呼ばれてます」


 アニカはぱぱっ!と、ピシリとした上品な白髪頭のスレンダーな執事服の老人を、同じくピシリとしたシンプルなブルーのワンピースを着た白髪の少しふくよかな老女の写真を見せた。


「メイド長!?…ビクトリアン時代みたいね。ピンとこないわ…」

「当家はイギリスからの移民でしたからね。おいおい慣れてください。今後はウィルバートン家ではこの二人が、結婚に関するすべてをサポートします」


「私もよ」と、キャスーンもにこにこして言う。


「このオーソンより現在時点できている連絡事項です。まず、正式婚約発表とパーティーの日程。これはNYに戻り次第すぐにですね。

 教会側とのスケジュール調整のうえでの結婚式の日取り。ジューンブライドなので幸せな花嫁になれますよ、由華里様」


 由華里は真っ赤になった。


「同じく結婚披露パーティー…オーソンは披露パーティはウィルバートン家で開催してほしい意向ですね。と、いうかもう準備は日締めているのかもしれません」


「オーソン達が可能というのなら構わないだろう」

「了解しました」


「それと、由華里様付きの専属秘書の選考と手配の終了。近日中に第一選考をするそうです」


 ぶっ!とコーヒーを吐き出しそうになった由華里はぽかんとした顔を向けた。


「私の専属秘書!?私もウィルバートングループで働くの?!木暮みたいに?」


「もちろん、そうい事も可能です。貴女もウィルバートングループの一員になるのですから。一臨時社員ではなく、役職者としてね。

 ですが、それは貴女は望みませんでしょう?」


「ええ…と、言うかできる自信はないわ」


「まあそういうと思いましたし、貴女をこれ以上ウィルバートンのごたごたに巻き込むのは私の本意でもありません。なるべく呪いの作用は少ない方がいいでしょうし」


 いきなりその場の空気が緊張感に包まれる。

 それを感じて、アーネストの言うウィルバートン家の呪いが現実で、ここにいる全員が認識していることなのだと改めて実感した。

 夢も物語でも眉唾な話でもないのだ。


「そうね。それに由華里にはウィルバートン夫人としての仕事もあるし、そっちまで手は回せないわよ」


「ウィルバートン夫人としての仕事?」


「ええ。セレスティーン…アーネストの母親のセレスティーンがしていましたけどね、主に慈善事業のようなものかしら?彼女の死後はそれを受け継ぐ者がなく、財団を作り管理維持継続しているようだけど…その辺も後で説明しましょう。いいわね?アニカ?」


 もちろんですとアニカは微笑む。


「他にも社交界等、今後は広範囲に活動が増えますので、個人でのスケジュール管理は不可能です。ですので専属秘書の必要性があるのです。

 ま!当分の間は、私が!由華里様の専属秘書をさせていただきます」


 ずるい!汚い!自分の方ができるという、3人の男性ブレーン達に、アニカは意地悪く笑いながら言う。


「なにせ、私はお二人の出会いから立ち会っているので当然よ!!」


 一斉に起こるブーイングを完全無視してアニカは話を続ける。


「また、ウイルバートン邸は、明日から新婚夫婦用に内装の改修に入るそうです。なので、お二人は暫くの間、どこかでバカンスを楽しんでいただきます。由華里様のお怪我の静養もかねて。

 とりあえず、ロンボク島の会員制コテージ風ホテルでのんびりしていただこうかと。素敵なホテルですよ!」


「は!?」


「それと…由華里様の結婚式のドレス等のリスト、招待客リストをバカンス先のホテルに送ると、オーソンとメイド長のマキーソン夫人から連絡が来ておりますね」


「アニカ、記者会見要請と取材の申し込みが数社のメディアからきている」

「お二人連名のパーティー等の招待状がもう既に届いているらしい」

「マスコミ関連はウイルでさばいて」

「OK」

「パーティー関連は…」


 キャスーンがすちゃっ!と細い金の眼鏡をかけると、アニカに資料を見せてと手を出す。


「あらまあみんな速い事。まあまあ、これは由華里のウィルバートン夫人教育を早めないといけないわね」


「バカンスは無しですか?由華里様はお怪我がまだ完治していませんので無理はさせたくありません」


「いいえ。休息は必要ね。アパートメントで確認しましたけど、由華里は既に4ヶ国語は使えるようだけど、完璧にするための講師を手配して。バカンス先でスケジュールを組みましょう。それなら足には負担はないわ」

「OK、Mrsマーグリット。エステの予約も入れました」


 私達も、と、アニカはウインクし、キャスーンも満足げにうなずく。


「アニカ、その語学レッスンに中国語も入れてくれ。Y大の教授の従兄弟から今OKが来た。スケジュールを送る。調整してくれ。私も手伝う」


「OK!ありがとう、ウイル」


「中国語!?」


「基本会話くらいはできるだけできると便利ですので。私はスウェーデン語、スカンジナビア語を。マギーがアレキサンドリアに住んでいたのでアラビア語を。ウィルが中国語を。Aiでも学習していただきます」


 驚愕する由華里。


「ダンスはアーネストと踊っている映像をみた感じでは、NYに戻ってから特訓しても間に合うわね」

「え!?」


「グッドタイミングでウエディングドレスのデザインが送られてきました!デザイナーはこちらで数名選びました。由華里様、どれがいいですか?」


 簡易プリンターでプリントアウトされた数枚のドレスのデザイン画を、キャスーンと由華里とアーネストに手渡す。


「お気に召さなければいくらでもデザインさせます!」


 どんどん進む結婚準備の話しに追いつかない由華里は呆然とするばかり。その時、由華里のバックの中の携帯電話が振動し、取り出した由華里は仰天した。


「木暮!!お母さんからだわ!!お母さん達に婚約の話をしていないじゃない!!さっきのニュースを見て怒って電話してきたのよ!!」


 慌てる由華里と反対にアーネストは落ち着いた笑顔を向ける。

 この余裕は何!?


「大丈夫です。まあ…多少は怒られるでしょうが、お義母様でもMr平野でももうこの婚約は私達の結婚は覆ませんからね。

 私が先に出ますか?」


 手を出すアーネストに、由華里は首を振り、恐る恐る電話に出た。


―由華里ーーーーーっ!!!!


 耳をつんざく華代のヒステリックな声み、由華里は携帯電話を耳から離した。


「お、お母さん!?」


―由華里ッ!?だからお母さん言ったでしょう!!自分の立ち位置を確認しなさいって!!!とんでもないことになりますよって!! ああっ!もう!!こっちらはもうもの凄い騒ぎですよ!!

 駅前では貴女達の婚約の号外ビラが撒かれてるのよ!!

 信じられないわ!!!

 家の前に何台のTV局やマスコミのカメラがあると思っているの!

 お父さんの会社の前にも凄い報道陣が押しかけていてお父さんも会社から身動き取れないでいるのよ!!!朝から家の電話も携帯電話も鳴りっぱなしで!!!


 あああああっ!

 もう!!

 本当にあんたって子は!


「お…お母さん…あの…」


―言い訳はもう結構よ!もういいかから!いいから…


 華代は一息の間を置き、優しい声で言った。


―アーネストさんと一緒にNYに行きなさい。


「お母さ?あの…まさか…こうなる事を知っていたの?」


―もちろん知っていました。アーネストさんが我が家にいらした時から…この方は由華里を連れて行く満々なんだとわかっていたから、田口さんの事を持ち出していたんじゃないの!

 でも…アーネストさんはそんなのお構いなしで貴方と結婚する気満々でしたからね…。

 丸の内事件の電話報告でも…。

 だからもうとっくに諦めて…アーネストさんには、貴女の事をお願いしておきました!!

 だからこそ、せめてと、あなたの状況確認と周囲の皆様にホテルにご挨拶に伺ったんです!


「うそっ…」


 アーネストは可笑しそうに笑っている。


「酷いわ!!木暮!!最初っから仕組んでいたんじゃない!!私を自由にしただのなんだの!全部ウソ!?」


「嘘ではありません。いいましたよね?折角自由にしたのに…ここに来たと」

「来たんじゃなくて!!」


 でも…と、アーネストは由華里の腰に腕を回して引き寄せた。


「誓ってくださいましたよね?」

「な…何を!?」


「私のそばにいると。一緒に歩いて行くと。例え…ウイルバートンの名が…貴女を殺そうとしても…決して死なないと」


 真っ直ぐにアーネストは由華里を見る。その手をしっかりと握りしめて。


「約束したわ…」


 アニカ達は微笑みを交わしあい、静かに二人を見守る。華代はとっくに電話を切っていた。

 周囲を気にせずにアーネストは言う。


「した約束は必ず守って下さるんですよね」


 由華里も彼を真っ直ぐに見上げて言う。きっぱりと。


「するわよ」


 アーネストは幸せそうに微笑み、由華里にキスをして抱きしめた。


「それに…ディナーがまだでしたね」


 由華里はポカンとした。


「ディナー??」


「お忘れですか?夕べのは由華里さんの手料理ですので由華里さんの約束はクリアです。私が言っているのは、私の奢りのデイナーですよ?」


「あの…それ…一生言うつもりじゃない?」

「なぜですか?」


「だって!この調子で行けば、今日は自宅での夕食だから奢りのデイナーじゃない。今日は記念日のディナーだからこれも違うとか何とか言いまくる気でしょう!?」


「アハハハハハ!!それはいい考えですね!」


「冗談で言っているんじゃないんだけど!」


 高らかにアーネストは笑う。幸せそうに笑う。由華里も幸せそうに微笑む。仕方ないなと言う風に微笑み、その由華里をアーネストは抱きしめ、そしてキスを返す。


 そして二人は背筋を伸ばして向き合い、アーネストが由華里の腕を取り、その腕を由華里がしっかりと掴む。 


「では?行きましょうか?由華里さん?」


 一同も笑顔を浮かべ、デニスがドアを開ける。アニカとウイルとニックが二人に一礼をする。由華里はその新しい未来に続くドアを見つめた。


 このドアを出たら…もう二度と今の自分に戻る事は出来ない。

 多分…想像を絶する苦しみや悲しみが待っているのかもしれない。

 いや、必ず待ち受けているのだろう。


 だけど怖くは無い。


 自分で選んだ道だから。

 自分で選んだ人と歩く道だから。

 絶対に大丈夫。


 由華里はしっかりと顔を挙げて、アーネストを見上げて微笑み返した。


 「ええ…行きましょう」


  そして、ドアを出た。


  一歩を踏み出した。


 二人で共に、海を越えて…未知の巨大な世界に向かって歩き出す為に。

 後ろを振りかえずに、アーネストと彼を支えるブレーン達と共に。


 由華里は自分の意思で、海を遠く遠く遥かな世界へと飛び立って行った。



 だが、それはまだ前章にもならない。


 由華里はまだ知らない。自分の前に新たな身も心も張り裂けんばかりの悲しい恋が待ち受けていることを。


 神のゲームに抗う事を覚悟を持って決めたアーネストも知らない。自分が乗ったそのゲーム盤の上で、自分のかけがえのない愛する者達が自分がまきこまれる過酷なゲームを。


 多くの人々を巻き込んでいく、残酷な神の掌の上で狂い広げられるゲームは今始まったばかりだったことを、


 まだ誰も知らない。

第1章は ここでEndです。続いて、あの後の田口さんの話と、数年後の「アーネストおごりのディナー」がどうなったかのおまけの話しです。

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