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海を越えた梢の花とウィルバートン家の呪い  作者: 高台苺苺
第一章 梢の花は海を越えて富豪と家出
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第42話 速攻全世界同時婚約発表(退路を断つ)

「大丈夫かしら?」


 イライラと腕時計を見ながら、アニカは隣の特別待合室で、コーヒーカップを何度も持ち上げ、降ろすを繰り返す。コーヒーは一口も飲まれないまますっかり冷たくなっていた。


 同じく、イライラしながら、ニック達も窓の外を行き交う飛行機を見つめていた。


 優雅にキーマンを口運びながら、キャスーンは鷹揚に微笑む。


「大丈夫ですよ。私がニューヨークから運んできた婚約指輪の中で、一番きつそうなのを選びましたからね。アーネストが無事に指に填めさせれれば、指を切らない限り絶対に外れませから!」


 ホホホホと、高らかにキャスーンは笑う。


「アーネストがやっと結婚をする気になったのよ!花嫁を見つけたのですもの。!絶対に!ニューヨークに連れ帰ります!絶対に逃がしませんわ!!」


「キャスーン様がいらしてくれて、本当に助かりました。全く!あの二人はいい歳した大人でありながら、まるでティーンエイジャーみたいな恋をして!!

 ああっ!イライラしましたわ!!!」


 キーッ!と叫ぶアニカを見て、ニック達は笑う。


「パリで会議中にアニカからSOS召集が掛かった時は驚いたよ」


 本当だとデニスも笑う。


「私もフランクフルトの仕事をほっぽり出してまで来いと言われた時は、マジかよと思ったが。イヤイヤ、あのアーネスト様をあそこまで手こずらせる女性を見られるとは!!」


 ウイルも深いため息をついて苦笑する。


「我々4人が掛かってここまで手こずる案件は初めてじゃないか?全く予測不能で参った。アニカがアクロバット的な技を披露してくれて助かったよ」


「ウイルが合鍵を作っておいてくれたから、成功したのよ」

「コルベットを用意した私の功績も忘れないでくれ」

「ビザの手配やなんかの俺の苦労もな」


 一同は大笑いをし、一斉に立ち上がった。


「さあ!二人を迎えに!行きましょう!!」


 特別待合室のドアを恐る恐る開けると、そこには輝く婚約指輪を填めた由華里が、アーネストの横にぴったりと並んで座っている光景が飛び込んできた。


 キャスーンが声にならない感激の声を挙げて由華里に抱き着いた。


「良かったわ!!ああ!由華里!!」


 アニカ達もよしっ!とガッツポーズを交わした。びっくりしている由華里に、アーネストが笑って言う。


「由華里さん、私の父方の叔母にあたります、キャスーン・マーグリット夫人です。前にも話しましたよね?親族の中で、唯一の味方だった父の妹になります。

 キャスーン叔母様、私の婚約者の由華里・平野嬢です。宜しくお願いいたします」


 由華里は輝く笑顔でキャスーンを抱きしめ返した。


「由華里・平野です。よろしくお願いいたします」


 キャスーンはがっちり嵌った由華里の左薬指を見て満足げに頷いた。


「キャスーン・マーグリットよ。アーネストの父親のアーサーの妹になるわ。よろしくね。そして婚約おめでとう!!嬉しいわ!!」


 そして順次、ブレーン達と賑やかにお祝いの抱擁を繰り返す。キャスーンは由華里の手を取り、繁々見ると満面の笑みで笑った。


「まあまあ!やはり、ばっちりだったのね!あの時、指を確認した時、絶対に7以下だと思ったのよ。良かった!」


 アーネストがおかしそうに笑い返し、キャスーンがウインクする。


「さあ!これで安心して帰れるわ。さあ!行きましょう!由華里」


 由華里はきょとんとした顔をした。


「あら、でも私は一緒に行けないわ。だってパスポートを忘れてきているもの。ビザもないし」


 ニックがスーツの内ポケットから、赤いパスポートを取り出し、ひらひらと振った。由華里は仰天して叫んだ!


「それってまさか!!」


 アニカが涼しい顔で言う。


「最初にFホテルに荷物を運び込んだ時に探し出しました。ビザもとっくに手配済みですわ!」


「でも!私、飛行機のチケットが無いわよ?!」


 一同はどっと笑いだした。デニスが恭しく礼を取りながら窓の外に見えるジャンボジェット機の一つを指し示し、そして大袈裟に言う。


「天下のウイルバートン財閥CEOが民間機で移動をするなんて思っていたのですか?ご安心ください。我々も含めての移動なので、急遽プライベートジャンボを準備させました。

 なので、席はどこでもお好きな場所をお選びください、由華里様」


 唖然とする由華里に、ニックが機内図を見せて説明を楽しげに始める。


「ここが座席で、ここがダイニング兼会議室にもなります、ここが…」


「ニック!それは後にしてくれ!そろそろ婚約発表のニュースが流れる時刻だ」


「婚約発表??」


 ウィルの言葉に驚いて振り向く由華里。ウィルが室内に設置されている巨大モニターをオンにした。


 映し出された日本のニュース番組の上部に緊急速報のテロップが流れだし、アナウンサーが慌ただしく新しい原稿を受け取っている。


 次の瞬間、アーネストと振袖姿の由華里が並んだ写真がデカデカと映しだされ、由華里は仰天し叫んだ。


「この写真!!この間、うちで撮った写真じゃないの!?」


 白い花びらが舞う効果満点の中で幸せそうに笑う二人の写真の上に、緊急婚約発表の文字が躍り、アナウンサーが世紀のシンデレラと題打ち興奮して二人の婚約発表を読み上げる。


 ウィルはその映像に満足げに頷いた。


「うんうん。よし!まずまずの出来だろう」

「凄いじゃないウィル!よく間に合わせたわね!」

「当然だよ!広報課の総力を尽くしたんだ。これは日本のマスコミだが…」


 パッ!とCNNに変えると、同じ写真がいきなり画面いっぱいに写り、興奮したアナウンサーが更に大きな声で二人の婚約を捲し立てている。


 ABC、CBS、BBC、ZDF、CBC、FT、TF1…世界中の番組が同じ写真をトップニュースで流し、滅茶苦茶興奮したアナウンサー達が速報を流す。


 由華里の顔から、サーッと血の気が引いた。


「ど…ど…どういうこと?あの…私がOKしたのは数分前なんだけど!?何故こんなに早くマスコミに流れているの?!!」


 婚約した数分後の全世界に向けての婚約報道に仰天し、泡を喰ったように狼狽える由華里だが、アニカ達は大喜びでいる。

 広報を担当したウィルを、アニカ達がやんややんやと称賛し拍手喝采する。


「他にもネット配信、SNS配信でも、凄まじい勢いで拡散させています」


 ウイルはそう言いながら画面を変えてネット配信、各SNSを得意そうに映し出す。その怒涛の数に由華里は唖然としたが、他の者達は満足そうだ。アーネストも満足そうに笑う。 


「待って!だから!!私は、ついさっき!木暮からのプロポーズを受けたばっかりなのよ!?なのになんでこんなに早く物事が進んでいくの!?おかしいじゃない!!」


 一同は顔を見合わせる。そして怪訝な顔で由華里を見る。


「何を仰るんです由華里様?当たり前じゃないですか」


「そうです。アーネスト様が由華里様を見つけた瞬間から、我々は準備にはいりました」


「は?あの時点では私がプロポーズを受けるかどうかなんてわからなかったでしょう!?なのに何故準備を始めるの!??」


 4人は怪訝な顔を見合わせ、同時に大笑いしだした。


「アーネスト様がやっと!結婚する気になってくださった方を!…我々が逃すとでも?」


 そんなことナイナイと手を振るニック。


「そうです!大体アーネスト様も最初から拉致同然にNYに連れて行く気満々でしたし!GOサインでましたし!」


 イエーイ!と親指立てるデニス。


「あ~ら!私はアーネスト様があのロータリーで由華里様を捕まえた瞬間から、全てのセクションにこの婚儀の為の準備指示を出しました!」


 得意げに言うアニカ。


「大体、あの写真みたら間違いありませんしね」

「写真!?」

 

 ウィルはニコニコと1枚の写真をパッドに表示させた。


 それは由華里とアーネストが、Uロータリーの前で初めて出会った瞬間の写真。

 真っすぐに互いの目を見つめあう写真。

 まるで純愛映画の中のヒロインとヒーローが恋に落ちたと思わせる写真だった。


 由華里は悲鳴を上げた。


「こんな写真をいつの間に!!!」


 アニカが親指立てて得意げにポーズをとる。アニカか!!!


「あの時点でアーネスト様の車の周辺は私達で固めておりましたのを、由華里様、お気づきでなかったでしょう?


 最新カメラ機能付きの携帯電話の使い方をマスターしておいてよかったです!!私の最高傑作です!これを関係者一同に一斉配信しました!」


 ほほほほほと高らかに笑うアニカに、一同がやんややんやと拍手喝采する。


「ですから私達は一致団結して!こうして準備をすすめていたわけです!」

「もう逃げられませんね」

「困るよ逃げられては」

「冗談じゃない」


「そうですよ、ああ、アーネスト様、オーソンから連絡があり、教会などとスケジュール調整をしたところ…やはり6月初旬が結婚式になりそうです」


「結婚式!?しかも4か月後!?」


 仰天する由華里に、アーネストは笑って言う。


「正確には3か月弱ですね」


「そういう事じゃないでしょおおおおお!!!」


 由華里の驚愕の絶叫の声が特別待合室に響き渡った。

昨日は諦めていた感じでしたが、全然諦めていなかったアーネストサイド。その様子はアーネスト視点の話で。


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