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海を越えた梢の花とウィルバートン家の呪い  作者: 高台苺苺
第一章 梢の花は海を越えて富豪と家出
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第41話 愛している

 由華里はアーネストの嵌めた婚約指輪を外そうとしたが、がっつり嵌って外れそうにもない!


「外れないわ!!」


「当たり前です」


「うそっ!冗談でしょ!?」


「冗談じゃないです。私はきちんとプロポーズをし、貴女はちゃんと指輪を受け取ったのですから、婚約成立です」


「木暮が勝手に填めたんじゃない!!」


 アーネストが呆れたように由華里を見る。


「何を子供みたいな事を言うんですか?まさかこんな所で婚約破棄しようなんて、バカな事考えていないですよね?」


 由華里は踵を返した。何がなんだか混乱しまくっている。


「ええっと!!ごめんなさい!!私…一端、帰るわ!それであのこの話は落ち着いてからまた!と、言う事で…」


「由華里さん!!」


 由華里はその場から逃げるようにドア向かおうとした瞬間、腕を掴まれた。

 その相手が誰だかわかっていて振り返る。あの金茶の不思議な瞳が真っ直ぐに見つめてきた。 


 彼は優しく笑う。

 由華里も微笑む。


 ああそうだ…初めて出会った時からわかっていた。

 この不思議な色の瞳から…逃げられないと。


 アーネストは由華里を引きよせると、しっかりと抱きしめた。


「離しません。もう絶対に。逃げてももう無駄です。わかっていますね?」


 やっといろんな事が繋がり、突然の事に由華里は震えだした。


 私は…またうっかりと、一歩を踏み出してしまったの?

 ううん違う…

 そう…またこの人が強引に腕を引っ張ったんだ。


 こっちにおいでと。

 私の腕を掴んで、離さないと、また私を捕まえたんだ。


 一人になって泣いている私を…。


 だから…

 私もその手をとったんだ。無意識に。


 由華里は急に涙がこぼれてきた。

 悲しいのではなく、いろんな感情がないまぜになった涙が、止めども無く流れ落ちる。


 その由華里に優しくアーネストが口づけをする。震える手で、由華里は彼の腕を掴んだ。


 本当は、ずっとこうしていたかった。


 暫くして顔を離すと、由華里は繋いだ手の先まで真っ赤になっている。アーネストは嬉しそうに笑う。


「あのロータリーで貴女を見た瞬間から、私は貴女を愛してしまった。貴女が誰なのかもわからない、ただ私の声に気づき、真っ直ぐに振り返って私だけを見てくれた。それだけで十分だった。


 私のそばで…笑って、怒って、真っ直ぐに私だけを見て感情をぶつけてくる貴女が愛おしかった。


 誰にも渡したくはない。渡さない。愛している。貴女だけを愛している。貴女がいればそれだけでいい。


 愛している。

 愛している。

 愛している。


 人生の中でこんなに激しい思いで人を愛した事はない。

 あなたが逃げるのが離れるのが怖くて、どんなに見苦しい真似でもしても構わなかった。

 ただそばにいて欲しい…

 貴女だけが…私が失い切望している物を与えてくれる、だだ一人の大切な人なのだとわかった。


 だから…だからこそ…

 貴女にだけは生きていて欲しいと願った。


 例え…貴女が私のそばに居なくても…

 手放しても…生きていて欲しい。

 どこかで生きていてくれさえすればいい。


 ウィルバートンの名が…貴女を奪うくらいなら、

 貴女を永遠に失うくらいなら、


 貴女が他の男のそばにいようが…

 笑って生きてい居てくれればいい…


 それだけが私の願いになった」


 だから、さよならを言った。あんなに悲しい瞳で。


「由華里さん。ウイルバートンの名は余りのも残酷だ。

 貴女の命を私の両親の様に…容赦なく奪うかもしれない。

 それでも…私のそばにいてくれますか?


 一緒に…

 生きてくれますか?」


 由華里は瞳を閉じ、そして開くと真っ直ぐにアーネストの泣きそうな目を見つめた。 


 もう迷わない。


 由華里は可笑しそうに笑う。

 真っ直ぐにアーネストを見上げ明るく笑う。

 彼の周りを覆う重く苦し物を粉々に砕き去った、あの笑顔で笑う。


「はい」


 感極まった様にアーネストは叫び再び抱きしめる。

 折れそうなくらいに抱きしめる。

 絶対に離さないと抱きしめる。


「いいんですね?」


 アーネストの声は震えている。


「はい」


 由華里は笑って言う。


「私のそばにいるというだけで、貴女は出会っ直ぐに二度も殺されかけた!それでも…私のそばにいてくれるのですか?」


「私…生きているわ。それに、私、死なないわよ?」

「え?」


「だって…私が死にそうになると、木暮はもっと死にそうな顔をして苦しむんだもの。だから…貴方が苦しむなら、悲しむのなら…私は絶対に殺されない。


 木暮が…私を愛していてくれるのなら…絶対に大丈夫。


 あのね…あのね…


 私…」


 今まで胸の奥に封じ込めていた思いが溢れてくるのに震えながら、由華里は言う。

 

「私ね…あのロータリーで木暮が車から降りてきたとき…目が合った時…捕まっちゃったと思ったの」


「え?」


「私は田口さんとの結婚が嫌で、誰かに捕まるのがイヤで逃げ出したのに、逃げ出したその日に…木暮に捕まってしまった。でも縛られるのが嫌で、また閉じ込められるのが嫌で、逃げたくて何度も逃げようとしたけど…


 そのたびに木暮が私を呼ぶの。


 呼ばれると、私、振り返ってしまうのよ。

 行けなくなるの。


 何故だろうなぜなんだろうと何度も考えようとしたけど、考えると逃げられなくなるから考えなかった。


 だけど…木暮が…」


 あの遠い瞳で遠くを見つめるアーネストの姿が思い浮かぶ。そしてさよならと手を差し出す彼。


 あの手を思い出すたびに胸が締め付けられる。

 息ができない程苦しくなる。


 由華里は思わず涙をこぼした。その涙が止まらず、声が震える。


「私…気づくのが怖かった。自分の気持ちに気づくのが怖かった。

 私も…出会った瞬間から…貴方を愛したのに気づくのが怖かった。

 そばにいるのが当たり前で、

 声を聞いているのが当たり前で、

 笑ってくれるのが当たり前なんだと感じる自分が怖かった。


 木暮が…悲しい顔をしているのが…

 なんでこんなに苦しくてイヤなんだとか、

 こんなに辛いのか…


 幸せそうにしてくれている木暮を見たときに自分も嬉しくなるのがなぜなのか…

 気づくのが怖かった。


 だって…私達は住む世界が違う。

 余りにも違う。


 だから気づかないようにしていた…


 だけど…気づいてしまった。

 私はあなたと一緒なら何も怖くないんだと。

 どんなことにも耐えて行けるんだと気づいてしまった。


 だから苦しかった。

 本当はとても苦しかったの。


 さよならと差し出されたあの手を握り返すのが死ぬほど苦しかった。


 木暮が…私のそばからいなくなることがこんなに身体がバラバラになりそうなほどに苦しいんなんて…思いもしなかったの…。


 だから一緒に行きたい…


 私を置いて行かないで…」


 絶句に近い声を挙げてアーネストは由華里を強く抱きしめた。その胸にしがみついて、由華里は嗚咽を堪えた。


「わかっていますよね?私の生きる世界は非情で残酷だ。だけど来てくれますか?私と…生きてくれますか?」


 由華里は苦笑する。何度も確認するアーネストの不安を理解し力を込めて言う。


「大丈夫。怖くない。木暮のそばなら怖くない。私…絶対に死なないから」


 驚いた顔をアーネストが向ける。由華里は笑う。事もなげに笑う。


「貴方が悲しむのが嫌だから…貴方が泣くのを見るのは嫌だから…だから…絶対に殺されないわ。約束する」


「そんな約束をしてもいいのですか?」

「いい」


「どんな苦しみが貴女を待っているかわからないのですよ?」

「いいわよ。木暮と一緒に居られるのなら、絶対に耐えてみせる」


「由華里さん…」

「なあに?」


「愛しています」


 由華里はおでこをくっつけてふふふっと笑う。


「偶然ね、実は私も…木暮を愛しているの」


 強くアーネストは抱きしめる。折れるほどに抱きしめて、強く口づけをする。由華里は瞳を閉じて、彼の腕を強く掴んだ。

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