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海を越えた梢の花とウィルバートン家の呪い  作者: 高台苺苺
第一章 梢の花は海を越えて富豪と家出
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第37話 田口との対決

 突然、FホテルのVIPフロアに現れた田口崇史は、あっという間にセキュリティーの者達に押さえつけられ、後ろ手に座らせられる屈辱を受けても、それでも、由華里を助けに来た!と、不法侵入を堂々と正当化して叫んでいる。


 木暮雅人もといアーネスト・ウイルバートンやそのブレーン達は、田口の言動に激怒しているし、由華里は泣きたい気分で、空気を読まない田口を向かい合うことにした。


 この猪突猛進の平行線思考の男に…どうやって壮大な勘違いを認識さえればいいのだろうかと悩みながら。


「田口さん、私を救出したかったお気持ちには感謝をしますが、その行動と方法は完全なる犯罪行為であり、しかもあなたが救出する為にさっき言われた理由は、完璧なる誤解です!木暮…えーと??ウィルバートンさん?」


 どっちの名前で呼ぶべきか迷う由華里に、後ろからアーネストが「お好きなように呼んで下さい」と、笑いながら言う。由華里は肩を竦めた。


「じゃあ、慣れている木暮で。

 えーと…田口さん。彼は、田口さんが邪推しているような方ではありません。

 昨日、あなたも言っていましたよね?父から説明を聞いたんですよね?私がここにいる理由を?」


「はい!」


「では、私は、ここで、仕事でいるんです。臨時秘書として!」


「ですがそれは!」


 待て!と、手を翳す。田口は口を閉ざす。


「それ以前に!先ほど言われた「大勢の女性と共に宿泊」ってところなんですけど!

 誰からのどこの情報か知りませんけど!何を勘違いしているんですか!?

 それ!私達に対して、大変!!失礼な言動だと認識しています??!」


「は?」


「は!?じゃありません!その女性達って多分、まずはブレーンのアニカでしょ?」


 背後でアニカが冷ややかに手を上げる。怒りの目を田口に向けながら。


「メイドのクラリサやマギーや他のみんな」


 リビングルームの隅で冷ややかな目を向けていたメイド達が一斉に冷ややかに一礼する。


「それと私ですよね?呆れて物が言えないんですけど!大変侮辱的で不愉快です!謝って下さい!!」


「え?」


 突然の由華里の怒りの言葉に驚愕の田口。アニカ達が怒りのオーラを向ける。

 慌てて田口はその場で謝罪をした。その軽い謝罪が(本人は自覚していない)さらに女性陣達の怒りを増幅させるのにも気づかない。

 由華里は深く嘆息した。


「大体、田口さんはいつもそうですよね?何か夢中になることがあると一点突破で周囲の意見とかを全く聞かないし見ない。相手の事も気持ちも考えないで、無神経になんでも言うし、行動する。

 私が!

 それで今までどんなに不愉快な思いをしてきたか!わかりませんか?!」


「え?不愉快?何がですか?」


 ぶん殴りたい。

 グーでこいつの顔面を殴りたい!

 

 と、一瞬、由華里は思った。


「由華里さんの方こそ勘違いをしています!」

「私!?」


「そうです!こう言っては失礼に当たるのは重々承知です!

 ですが!

 由華里さんは知らない!ウイルバートン氏の女性遍歴がどれだけ華麗で!凄いのか!!世間知らずで初心なあなたがなんて、赤子の手を捻るより簡単に騙されます!

 貴女を救うため!奪還するためにここに来たんです!!

 それが不愉快だというんですか?なぜ!?」


「だから、それが誤解…(由華里は後ろを振り返った)誤解ですよね??」


 一同は一斉にアーネストから視線を外し、アーネストだけがにこやかに言う。


「先ほどもいいましたよね?今はフリーですよ?」


 ん?と何か突っ込みたい気分になったが、由華里はそれは後にしようと置いておくことにした。


「だから誤解しています。勘違いをしているのです」


「ではなぜ!?昨日の事件でケガをされているのに、家に戻らず、未だにここに居続けるのですか!?」


「ここの方が安全だからです」


 ぶっ、と後ろでアーネストが苦笑した声が聞こえた。由華里はむかっとして、じろっと睨むと、彼はおかしそうに笑う。それに田口が目を見張るように驚愕の顔をした。


「安全?ここがですか?」


「そうです。ここはVIPフロアで他の階とは完全に隔絶されています。

 それに木暮さん達の情報操作のお陰で、昨日の事件で私が巻き込まれケガをしたことは、マスコミに漏れていません。

 これ、父の立場からすれば、大変重要な事だとわかりますよね?」


 田口は由華里のいつもと違う剣幕に目を白黒させている。


「はい。わかります」


「ここにいる限り、マスコミは絶対詮索できません。

 ですけど、私がケガした状態で家に戻った場合、何がどういうふうに流れてバレるかわからない事も、理解できますよね?その場合の騒動。家族やM商事も巻き込まれるリスクも」


「わかります」


「ですから、私はここにいるんです。両親も承諾済みです。事実、今日、母が私の様子を見にここまで来てくれました。両親が詳細を言えなかったのは、木暮達が関わっているからです」


「では!何故私に隠すんですか?私と由華里さんは常務公認の婚約者です!家族になるんです!なら話してくれても…」


 由華里はむかっ!とした。昨日のその件で、散々木暮、もとい、アーネストに邪推されて散々な目にあったというのに!!喧嘩の原因になったというのに!!


「田口さん、いつ?私が?それにOKを言いました?

 私は、一言も、あなたとお付き合いしますと言っていません!!」


「え!!?」


「こんな場で言うのも変ですけど!

 あなたがここに乗り込んできた原因が、私とあなたが婚約しているとか付き合っているとかの誤解の延長線でもあるし!

 他の皆さんも巻き込んでいるので、ここではっき言わせてください!


 私は!

 1度もあなたを婚約者としても!

 男性としても!

 結婚相手としても見たことはありません!!

 父の部下のお一人としか見ていません!」


 部屋の中がしーーーーんと静まり返った。

 あんなにぎゃあぎゃあ喚いていた田口も唖然とした顔で言葉を出せずにいた。


「私は何度も言いましたよね?

 あの婚約は、私は承諾していなかったと!

 昨日も言いましたよね!

 婚約の話はなかったことにしてくださいと!

 言いましたよね!!」


「は…はい…ですが!!」


 黙れ!と、由華里は手を翳す。田口が黙る。


「なのに、田口さんは昨日も私の話は聞かないで!

 勝手に自己完結して満足して喫茶店を出てしまうし!

 そのせいで!私!

 夕べは木暮に邪推されて延々文句言われて大変だったんです!!

 違うと何度言っても聞かないし!!

 しつこいんだから木暮は!!」


 言って、由華里は真っ赤になった。


 今!自分は何を口走った!?


「ゆ…由華里さん???」

「すみません…」


 こほんと咳払いし、一旦気持ちを落ち着けてから由華里は冷静に言う。 


「とにかく…

 私は田口さんと共に生きていく未来図を描くことができません。

 あなたは確かにいい人ですが、私とは相性が悪すぎます。

 いつも平行線で私の話を聞いても理解もしてくれない。

 私を置いてけぼりにする。


 そういう関係性の夫婦なんて私は絶対に嫌です!無理です!!


 なので…本っっ当に!!私との結婚の話は諦めてください!

 100%あり得ません!

 それが嫌で!!私は家を出ました!」


「は!?」


「母も知っています。いつまでもあの家にいては、いつまでも父に子供の様に扱われ、今回みたいにまた独断で私の人生を勝手に決められてしまいますから。

 そんなの…もう嫌なんです!

 ちゃんとアパートメントも契約して(じろりとアーネストを睨む)そこに近々に移動するはずでした」


「聞いていません!!」

「ですから!あなたに言う義務も!義理も理由もありません!

 きつい…言い方ですけど…私とあなたは無関係なんです!!」


「ウイルバートン氏はご存じなのですか?」


「「「「「は??」」」」」


 その場の全員が田口の質問に怪訝な顔をした。何故、突然ここでアーネストの話が出てくるんだと。


「ウイルバートン氏は、由華里さんが家を出て自立する話を、ご存じなのですか?!」

「田口さん!やめてください!」


 アーネストは静かに冷ややかに返す。


「知っていますよ。雇用主ですからね。

 ですが…あのアパートメントはセキュリティーが甘いのでキャンセルし、別の部屋を用意してそちらに移動していただきました。

 もちろん、今回みたいに君が侵入しないようにセキュリティーを更にあげてもらうつもりだがね」


 まるでブリザードの様なアーネストの返答に、由華里は身震いした。

 怒っている~~~!今にもブチ切れそうなほどに怒っている!!


 だがそんなブリザードの声にもめげずに、田口はアーネストを睨み上げ、さらに由華里を見て言う。


「由華里さん…ウイルバートン氏なら、貴女の話を気持ちを考えてくれると言うのですか!?ウィルバートン氏となら共に生きていく未来を描けるなど度、妄言を言えるんですか!?彼と貴女は生きている世界が全く違う!違い過ぎる!」


 由華里は田口の明後日の方向の思考に、眩暈を起こしそうになった。

 今までの話から!どこをどうとったらそういう話しに向かうのかがさっぱりわからない!!

田口…悪いが私もぶん殴りたくなってきた。

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