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海を越えた梢の花とウィルバートン家の呪い  作者: 高台苺苺
第一章 梢の花は海を越えて富豪と家出
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第34話 ウィルバートン家の呪い

 背後に遠くまで広がる瞬く大都市の明かりを背に、木暮雅人は静かに話し始めた。


「昨日、今日。立て続けに貴女は命の危機に遭遇した。それを貴女は自分には関係ない事件だと言い張りますが、違います。

 昨日の事件は偶発を装った、完全なる貴女を標的にした事件です」


「あり得ない」

「黙って聞きなさい」


 木暮の威圧的オーラに由華里は口を閉ざす。さっきまでの弱気と全然違うじゃないとぼやきながら。


「貴女が標的である根拠は複数あります。

 一つ目。ナイフを振り回した犯人は、警官達に取り押さえられた後、歯に仕込んでいたらしい青酸カリで死亡しました。」


「え!?」


「今現在判明していることは、外国籍であること。だがそれすらも怪しく何一つ判別していません。もちろんマスコミなどには公表されていません。恐らく今後も公表されることはないでしょう」


「木暮達で抑え込んでいるの?」


「もちろんです。貴女が関わった時点で様々な方面に手配を出しています。

 ですが、同時に他からもなんらかの圧力なりの力が作用している気配があります。つまりは、この事件はそれだけの《《力のある者》》もしくは組織が関係している可能性があります。

 それが根拠になる二つ目。

 単なる白昼テロではなく、明らかに目的を持った事件であると我々は判断しています」


「警察は?」


「白昼テロとして処理したようですね」

「違うと断言できるのはどうして?」

「本国の様々なプロの判断です」

「そう・・・」


 由華里はなんだか巨大な陰謀の渦の一端をのぞいたような気がしてぞっとしてきた。


「ですが、昨日の事件の時点では、ターゲットが不明確でした。

 我々グループ全体へのダメージを狙ったものか?

 私個人への私怨なのか?

 もしくは貴女自身への私怨?

 それによりこちらの対応も変わって来るため、情報を集めていた。


 貴女がターゲットである可能性も否めないので、まあ・・・貴女は怒りますが医師にもお願いして過剰な診断を出していただいて、ここで安全にいていただく予定でしたが・・・」

 

じろりと睨む木暮に、由華里はしゅんと頭を下げる。


「すみません」


「起こってしまったことはもうどうしようもないです。幸い、無事でしたし。

 ですが、貴女がここのホテルにいること、

 貴女がここから出た事を知り得て、

 貴女があのアパートメントを賃貸契約しそこに移る事を知り得る者でなければ、

 今日の事件は起きていません」

 

 彼は一瞬由華里をみて言い淀む。由華里は大丈夫と頷く。


「もう、勘違いとは言いません。分かってます」


 彼は頷いた。


「目撃者や失敗も考慮せずに即行動に出た性急性・・・。因みに、その犯人も昨日と同じ手段で死亡したそうです」


 由華里は真っ青になった。その由華里を彼はまっすぐに見た。


「ですから、由華里さん。我々は今回の事件は全て、貴女がターゲットであったと判断しています」


「でも何故?何故私なの?」 

 

 由華里は納得できない顔で彼を凝視する。

 その反応に彼はやれやれと嘆息し、由華里を引き寄せると唇を重ねた。優しく抱きしめて。

 

 顔を離しても、突然の事にポカンとしている由華里に彼はため息を着く。


「こういう事です。本当に貴女は無警戒で不用心ですね。今日の昼の事をもう忘れたのですか?」

 

 途端に由華里は彼にねじ伏せられたのを思い出して、耳まで真っ赤になり叫んだ。


「今!何をしたの!?」

「キスです」

「なななななななな!!!!!」

「いい歳した女性が無防備無警戒すぎます。私が紳士で良かったですね」

「どこが紳士なのよ!!!」


 ああそうだと思い出したように彼は立ち上がり、デスクの引き出しから分厚いファイルを取り出し由華里に渡した。中身を見て由華里は激高した。


「なにこれ!!私の身辺調査じゃない!何時こんなの手に入れたの!?」

「由華里さんが私の額に手を当てた夜です。貴女がパーティーに運んできたじゃないですか。その身辺調査書を」


「え?あ!ああああああ!!!アニカに頼まれた大事な書類!!」

 

 そうそうそれですよと彼は笑った。


「確かに大事な書類を受け取りました。貴女から」

「なんてこと!あ!酷い!成績表!きゃあああ!スリーサイズに健康診断結果まであるじゃないの!レントゲン写真まで!!」

「成績表よりスリーsizeやレントゲン写真の方が嫌ですか?」


「当たり前でしょう!!これ!昨日の検査ね!妙に綿密にやると思ったら!これが目的だったのね!!」

「はい。アニカが、結婚前の健康診断にちょうどいいというので」


「結婚前!!誰がそんな事を許可したのよ!本人の意見は無視なの?フェアーじゃないじゃない!汚いわ!酷い!みんなでグルだったなんて!」


「ぎゃあぎゃあぎゃあ、相変わらず貴女はよく喚きますね」

「なんですって!?誰のせいだと思っているのよ!」

「わたしのせいですよ」


 やれやれと彼は立ち上がり、別の引き出しから封書を取り出し由華里に渡した。さっきのよりもぶ厚い封書を胡散臭げに見る由華里に彼はにっこり笑って言う。


「私の身辺調査書です。フェアーではないので由華里さんにお渡ししましょう。見て下さい」


 げ!と、由華里はテーブルに置いた。


「見ないのですか?」

「見たらとんでもないことになりそうじゃない」

「罠も仕掛けもありません」

「そういう問題じゃないの!!」


 ハハハハハとアーネストは笑い出した。


「まあそういう事です。

 Uロータリーで貴女に偶然会い、瞬間、私は貴女に一目ぼれしました。その後、ホテルに戻るまでの間の会話で・・・・私は貴女を妻にすることを決定した。

 あの時、貴女も私に一目ぼれしたと確信したのですけどね?」


「はい?!」


「ですが、貴女は本能的なのか?それともご両親のご教育の賜物なのか?実に鈍感で頑固でこちらのアプローチにも気づきもしないシーラカンスで…。

 ああ…まあそれはいいとして…。

 

 要は、その時点で問題が二つ浮上しました。

 

 その一つが、貴女を妻にするべくと周囲に知れると、貴女を排除しようとする者達から貴女を守り切る準備が出来上がっていない事です。」


「排除!?」


「そうです。私の妻の座を狙う輩は大勢いますからね。婚姻により得る利権を考えれば、排除可能なライバルは排除するのが当然でしょう」


 由華里は絶句した。


「そういう世界です」


 アーネストは少し悲し気に目を伏せる。


「さて?貴女ももう理解しているでしょうが、貴女には本当に!危機意識も察知能力も管理能力も全くない!

 いくら我々警告しても、貴女は我々からすれば無謀な行動を起こすばかりでしたからね。

 ですから、貴女を守る準備が整うまでの間は、貴女を単なる一社員、私の臨時秘書として周囲に周知することにしたのですが…

 まあ…アニカ曰く、私の言動でバレバレでだったようで失敗でしたね」


「そう言えば、いつになったら木暮の秘書は来るの?遅すぎない?」


 はあ・・・とアーネストは嘆息する。


「秘書は現時点ではマグガードです」


「彼はボディーガードでしょう?」


「ボディーガードを兼ねた秘書です。私は大勢でぞろぞろ移動は嫌いですのでね。時に今回は私の休養を兼ねたプライベートな移動でしたから。マグガード一人で事足りています」


「では!私の交代秘書なんていくら待っても来なかったのね!!」


「ええ」

 

 絶句する由華里の手を軽くぽんぽんとたたき、彼は真面目な目を向ける。


「話を続けてもいいですか?」


 頬を引きつかせながら、由華里は頷く。


「もう一つに問題は…当家に纏わる呪いです」


「今度はいきなりオカルト?!本気で話している!?」


「ええ本気で説明しています。多くの代を重ねた家には、大なり小なりどの国でも何かしらの因縁めいたことが起こりえると、見聞きしたことがおありではないですか?」


「ええ…まあ…確かに因縁めいた話がある系譜の話も聞きますけど…」


「では、それと同じと理解して聞いてください」


 急に淡々とした態度と口調になったと由華里は思った。つまり、こちらの方が本題なのだと、何故か心の奥から忌避するような震えが起きていた。それを抑え込んで、由華里は彼の金茶の瞳を見た。


「当家は、イギリスの元々は伯爵家出自の爵位のない末子の、その移民の系譜です。継げる爵位がない多くの者がチャンスを掴む為に、新天地を目指してイギリスから渡ったその中の一つです。


 なので、イギリス時代の系譜をつなげれば、かなり古い家系ともいえるでしょう。

 ですので…いつから《それ》》が言われるようになったのは定かではありませんが…当家には一つの暗黙の呪い…認識があります。

 

 当家に嫁してきた女性は…少子出産。

 多産でも結果的に生き残るのは1人か2人。

 そして、必ず…ウィルバートン夫人となった者は

 35歳までに悲劇的に死亡する。


 必ず。例外はありません」


 由華里は彼の説明に息をのんだ。


「偶然ではなく?」


「ええ。統計的に立証されています。

 祖母もまた若くして命を落としている。曾祖母もその前も。後妻で入った者もです。ああ、愛人と離婚した者以外は全てですね。

 私の両親が幼少時に亡くなった話はしましたね?」


「え、ええ。事故でご両親共々亡くなられたと…」


「私が5歳の時。バカンスで家族で訪れた個人所有の孤島。夕日を見に出たクルージングの海上で…船は爆破され沈没しました。現在も船は発見されていません。今もカリブ海のどこかの海底で眠っています。

 証拠の船と両親と大勢の同乗していたスタッフと共に。

 

 母は当時、32歳でした。

 

 事故ではなく、故意に仕掛けられた大量の爆薬で爆破されそれで命を落とした。父も。二人ともウィルバートンの呪いで命を落としたのです」


「うそ…」


「当家に嫁してきた女性は…少子出産。

 多産でも結果的に生き残るのは1人か2人。

 そして、必ず…35歳までに悲劇的に死亡する。

 必ず。例外はない。


 そして…パートナーへの愛が深ければ深い程に…その悲劇と死は苛烈を極める。

 両親はウィルバートン一族の中では、かなり例外的に仲のいい夫婦だったそうです。


 だから…幸せの絶好調の中で、一人息子を残して海上で爆破事故で殺された。


 貴女が今回こういう事件に巻き込まれた理由。


 それは、

 私が、貴女を愛し、パートナーにと望んだ故・・・

 貴女に呪いが降りかかったのです

 まだ、貴女はウィルバートンの人間となっていないのにも関わらず。


 呪いは…貴女を排除に周囲を動かし始めたのです」

 

 由華里は驚愕に大きく目を見開いた。その先で、木暮雅人は静かに笑みを浮かべている。

 遠い遠い笑みを浮かべて。

ウィルバートン家の呪いをアーネストが語りだします。

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