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海を越えた梢の花とウィルバートン家の呪い  作者: 高台苺苺
第一章 梢の花は海を越えて富豪と家出
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第31話 ルール違反

 …どういう意味?何を言っているの?


「分からない。木暮さんのそばで働く事で命を狙われるのなら、アニカやウィルさん達も狙われるって事なの?あなたのお仕事はそんなに危険なんですか?」


 途端に木暮は可笑しそうに笑いだした。


「何よ!何がおかしいのよ!」


「貴女はどこまで残酷なんだ!!アニカやウィル達と貴女が同じだといいたいのか?それともそう思いたい馬鹿なのか?!」


 吐き捨てる様に怒気を込めて言う木暮の言葉に、由華里はまたムカッ!として叫び返した。


「馬鹿ですって?!」


 恐らくドアの向こうでアニカ達が、聞いているだろうが構わなかった。


「私はアニカやウィルやデニスやニックとは違うでしょうよ!当り前じゃない!彼らは貴方の大切なブレーンで、私は日本にいる間の貴方の退屈を紛らわす一時しのぎの使い捨て人形なようなものじゃない!

 人形が何をしようが、捨てられた後のことを考えようが勝手でしょう!」


「人形が襲われるのか?」

「襲われたと言いたいんでしょ?」

「貴女は人形などではない」


「人形よ!!あなたは駄々っ子の子供みたいに、その使い捨ての人形が他人の手に渡るのが嫌いなのよ!ただそれだけで屁理屈言っているんじゃない!」


「違う!いい加減に現実を直視しなさい!私がただあなたを退屈しのぎでここに連れてきたというのか?こうして貴女に対して感情ぶちまけて怒るというのか?

 ただの人形に?

 冗談じゃない!私は貴女を!」


 瞬間、それ以上聞いてはいけないと内の中の誰かが叫ぶ。

 誰かがこの場から逃げろと叫ぶ!


 由華里は突き飛ばすように彼から身体を放した。逃げるように。だが、直ぐに引き戻されるように木暮は由華里を抱きしめ離さない。


「離してよ!!痛いじゃない!!」


「離さない!離せば貴女はまた私の腕から逃げて行く!」


「バカ!!痛いから離して!!」


「離さない!!」


「離せ!!」


 叫んで暴れる由華里を押さえつけて、いきなり木暮が唇を重ねて来た。


 頭が真っ白になった。


 田口にいきなりプロポーズをされた時よりも、お台場で彼にいきなりキスをされたあの時よりも、記憶全部が吹き飛ぶくらいに真っ白になった。


 強い口づけに由華里はパニックを起こして暴れる。

 木暮の髪を引っ張ろうともがく腕も、顔を引きはがそうとする手も押さえつけられ、息もできない程強く抱きしめられる。

 顔を逸らそうとしても、その顔を押さえつけられて、更に強く口づけをされる。


 気が遠くなりそうだ。

 息ができない…


 苦しい…


 コワイ…


 顔を歪ませ、力を失う由華里に気づいて、やっと木暮は顔を離した。だが瞬間に逃げようともがく由華里をがんじらがめのように木暮が抱きしめる。


 イヤ!


 深く息を吸い、由華里はいきなり木暮の腕に思いっ切り噛みついた!


「何をするんだ!」


 低く呻いてやっと腕を離した木暮に、由華里はグーで殴り掛かった。木暮は素早くその手を掴み、反対のグーの手も掴んで二人はもみ合うように激しく睨みあった。


「ルール違反にはルール違反で返していいのよっ!」

「ルール違反!?」


「ルール違反じゃない!!貴方の国ではこんな事は挨拶程度なんでしょうが!私は違うのよ!好きでもない男にキスされて嬉しい女なんていないわよ!」


 木暮雅人の目に一瞬動揺が走るのを初めて見た。

 まるで弱い普通の男のような目に、由華里は一瞬ひるんだが、それよりも怒りが先に立った。


「木暮さんは自意識過剰じゃないの!?大きな会社経営して、地位もお金も権力も持っている!

 だからどんな女でも貴方の思い通りになるとか!

 貴方を好きになると思ったら大間違いよ!!

 私は貴方なんか大っ嫌い!!

 最初に出会った時から大嫌いよ!!

 私を縛らないで!ここから出して!!

 いい加減にしてよ!!!

 こんな事をする木暮なんか!!大っ嫌い!

 早く帰って!!帰っちゃえばいい!

 そして二度と日本に来ないで!私の前に現れないで!!!

 あんたなんかに出会わなければ良かった!!

 あなたに出会ってから変な事ばかり起きて!!

 イヤ!もうイヤよ!!命を狙われているだの殺され掛かっただの!!

 

 なんで!?

 どうして!?


 私は何もしていないわ!

 何もしていないのになんで、殺されなきゃならないの!?

 全部貴方が私の前に現れてからじゃない!

 私のせいじゃない!


 貴方の!

 木暮のせいじゃない!!」


 いきなり木暮の掴む手が緩んだ。その反動で由華里は前のめりに木暮の胸に飛び込んだ。震える彼の腕が、ゆっくりと由華里の身体を抱く。


 静かに。優しく。


「離してよ!」


―そうだ…私のせいだ…。


「え?」


―貴女が…二度も殺され掛かったのは…私のせいです…そうだ…


 まるで泣いているかのように、木暮の身体が震える。


「な…泣いているの?」


 木暮は何も言わない。ただ、身体を震わせたまま由華里を抱きしめている。


「木暮…さん?」


 いきなり木暮は唇を重ねてきた。さっきとは違う優しい口づけ。


 静かな声で何かを木暮が囁き、唐突に彼は由華里の身体を引き離すと、無言で部屋を出て行きドアを閉めた。


 茫然としていた由華里は、よろめきながらたちあがり、テーブルの花瓶を持ち上げると、思い切りドアに花事叩きつけて叫んだ。


「バカっ!!大っ嫌い!!!」


 そしてソファーに突っ伏して号泣した。


 何!?今のは何?彼は何を言ったの!?

 なぜ?なぜ…?

 今のはなんだったの?

 なんで?なんで?どうして!


 激しい感情の洪水に由華里は湧き上がる恐怖から逃れるように泣き叫んだ。



 どれくらい泣いていつの間に寝てしまったのかわからない。気づくと、横にアニカが立っていた。彼女は無表情な瞳で由華里を見ろし、静かに言った。


「お顔を洗ってください。支度が整いましたら…行きましょう…」


「どこへ?」


 アニカの目が悲しげに揺れた。


「貴女が望んだ場所にです」

初めての様々な感情に翻弄されるアーネスト。由華里の無事の安堵と心配した怒り、そして離れようとする由華里への怒りに不安にストッパーが外れてしまいます。それに果敢に対抗する由華里。ルール違反にはルール違反で反撃します。だけど由華里の本心の言葉に、彼は自分がそばにいる限り由華里の命が危ない事を再度自覚し決意します。

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