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海を越えた梢の花とウィルバートン家の呪い  作者: 高台苺苺
第一章 梢の花は海を越えて富豪と家出
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第30話 命を狙われる理由

 東京の街を一望できるパノラマの大きな窓をバックに、重厚感ある家具に囲まれた木暮雅人が、静かな怒りのオーラを出しながら仁王立ちしていた。


 アニカ達にいきなり部屋に放り込まれてた由華里はそのオーラの圧倒され、ドアの前に呆然と立ち尽くした。こんなに怒っている彼を見るのは初めてだと、由華里は畏怖の目で彼を見た。


 つかつかと勢いよく向かってきた彼に「ぶたれる!」と瞬間子供の様に思い身をこわばらせると、彼は優しく壊れ物の様に由華里を抱きしめた。


「よかった…無事で…」


 心からの安堵の声は疑う余地もなく、先ほどまでの勝手にアパートメントを解約された怒りが、急速にしぼんだ。


「ご・・ごめんなさい」


 ぱっ!と木暮雅人は由華里を離すと、ぱぱぱぱぱ!と全身を確認するように見回しボディーチェックし、無事とわかると再び抱きしめてきた。

 が、安心したのと同時に怒りが再燃したのか?彼は再び目を吊り上げてきた。


「貴女は!!貴女は自分で何をしたのかわかっているのですか!ここにいると約束したではないですか!!なのに何故ここを出たんです?!

 何故!!」


「ごめんなさい…意外と歩けるとわかったら、外の空気をとても吸いたくなって。ついでにと軽い気持ちで…」


「それであのアパートメントに行ったのですか!?ボディーガードの隙をついて!」


「別に隙をついたわけではなく…」


 隙をついたか…。


「何故自覚しないのです!昨日あれだけ危険な目にあいながら!!

 自分が!

 どんなに危険な立ち位置に立たされているのか!!何故わからないのです!!」


「ごめんなさい…でも」


「でも!でも!じゃない!!いい加減自覚をしてください!貴女は危険な立場にいるんです!」


「はあ?!何が危険な立場なのですか?!

 昨日の事は!あれは偶然じゃない!!原因は私には直接関係なかったことでしょう!確かに昨日の今日でこのケガで外出したのは迂闊だと自覚してます!

 でも!」


「何が自分に関係ない話だ!自分の命の事だろうが!

「そうよ私の命よ!私の事よ!プライベートな事よ!貴方には関係ない!」

「関係ある!」

「ない!!貴方に命令される覚えはないわ!!」


 木暮の滅茶苦茶な怒りに、由華里も色々と溜っていた怒りを爆発させた。


「命令だと!?そうだ!あなたは命令しないとこんな馬鹿な真似を平気でする!」

「なんですって!?」


「まさか貴女が昨日の今日で抜け出すなんて思いもしなかった!約束しただろう!!ここにいると!大人しくしていると!!なぜ約束を破ったんだ!なぜここから出た!!

 死にたかったのか!貴女は!!」


「し…死にたい訳なんかないじゃない!何をそんなに怒るの?!なんで!なんでこんな酷い事を言われないといけないのよ!!」


 由華里は怒りで頭が真っ白になりそうだった。だがその由華里の怒りよりも激しく木暮が怒る。


「貴女は軽率すぎる!監視をしていないと、貴女は平気でフラフラと罠に嵌りに行く!

 変な男と会う!

 大体あんな奴と呑気にお茶などしているから!昨日殺されかかったんだ!!」


 木暮のいう事に、由華里はぽかんとした。


 変な男?誰のこと?

 あ…


「田口さん?もしかして田口さんの事を言っているの?彼と昨日喫茶店で話していたのを知っているの!?」


「もちろんです」


 その傲慢な言い方に、完璧に由華里はブチ切れた。痛い足を踏ん張って木暮の顔に平手をかまそうと手を思いきり振り上げた。が、次の瞬間あっさりその手を掴まれる。


「離してよ!」

「離せば叩くだろう!」

「叩くわよ!!貴方も叩いたんだから叩く権利は私もある!!大体!!私が誰と会おうが私の勝手でしょう!?」


「貴女の行動はつじつまが合わない!あの男との縁談が嫌で家を逃げ出したと言うのに、なぜ、もう一度プロポーズを受けたりするんです!?」


 由華里は耳まで真っ赤になるのを感じた。


「聞いていたの!?」

「報告を受けただけです!」


 どっちでも同じだ!


「私が!!誰と結婚しようが!!プロポーズ受けようが!何処に行こうが!貴方には関係ないでしょう!木暮さんは!ただの上司じゃない!」


 一瞬、木暮が言葉を呑み込み、視線をそらした。


 あれ?


 思わぬ木暮の反応に由華里は面食らい戸惑った。


「田口…田口さんは…父が勝手に決めた縁談相手なだけだって説明したはず…です…。その…父と彼とで勝手に盛り上がって話を勧めただけで…別に彼と結婚しようとか、彼が好きとか!そんな感情は全くありません!

 だけど、そんな私の気持なんかお構いなしにあの二人はどんどん縁談を進めるから…それが我慢できなくて!

 だから家を出たんじゃない!!」


 何を言い訳しているんだろうと、由華里は混乱した。

 

 関係ないじゃない。こんなプライベートな話。

 そうよ。なんでこんな言い訳しなきゃならいの?

 木暮がいきなり田口の話を出すからこんな変な言い訳しないといけないんじゃない!!


「大体!今回の事件と田口さんは関係ないし!」


「ある。あの男が貴女を引きとめなければ、貴女はきちんと時間通りに行動をしていた。奴らに掴まる事もなかった」


 由華里は馬鹿馬鹿しいと顔を顰めた。


「奴等?!私が何かの組織にでも狙われているとでも言いたいの!?アクション映画の観すぎじゃありませんか?!」


「そういう発言自体が物事を理解していない!だから自分からのこのこ襲われに行くような愚行を犯す!」


「まああああ!なにそれ!私が迂闊だとでも言いたいの!?」


「迂闊だろう!?実際、その為に死にかけた!」


「またそれ!?私の周りで何か物凄い陰謀計画でもあるっていうの!?バッカみたい!私はただの民間人で、ここは日本なの!!あなたの住んでいるお国とは全っ!然!!違うのよ!」


「同じだ!!」

「違うわよ!」


「その能天気な考えも大概にしろ!でないと本当に殺される!事実に今!貴女は殺されかかった!!ビルの踊り場から放り出された事実が分からないのか?!」


 瞬時に由華里は蒼白になった。

 


 真下に落下していく、まるで枝葉のような自分の松葉づえ。

 そうだ。

 物凄い素早さで自分は抱き上げられ、踊り場からビルの外に放り出されたんだ!


 途端に恐怖がぶり返し、由華里は足を身体をガタガタ震わせた。呼吸がうまくできない。



 怖い。

 怖い!!!


 瞬間、木暮雅人が由華里を落ち付かせるように、震えを抑えるように抱きしめてきた。


「由華里さん、落ち着いて…そこに座って。いいから、座って!」


 言われるままに、木暮に抱きしめられたまま由華里はソファーに座った。それでも震えがとまらない。あの落下していく松葉づえが頭から離れない。


 怖い…。


「これを飲んで…いいから」


 言われるままに差し出されたグラスの液体を一口飲んで、由華里は顔を顰めた。


「マズっ…ウィスキー?」

「ブランデーですよ。落ち着きましたか?」


 そう言われれば少し落ち着いた気がする。由華里は深く深呼吸をして少し濃い琥珀の液体を飲んで、グラスをテーブルに置いた。


「大丈夫ですか?」


 由華里は頷いた。

 暖かい彼の手のぬくもりと、抱きしめる暖かい体温に、由華里は徐々に平静を取り戻した。

 一回深く深呼吸して恐怖を吐き出した由華里に、彼はほっとした顔をした。


「すみません。迂闊でした」


 そして由華里をもう一度抱きしめた。


「由華里さん…真面目に聞いてほしい。昨日と今日の事は偶発的な事故ではない…。貴女は…命を狙われているのです。それをきちんと理解してほしい。その上で行動して欲しい。

 でないと…私は…貴女まで奪われることになる」


 何の事?


 少し震えの収まった由華里は木暮を見上げる。彼は泣いているかのような顔で由華里を見下ろしている。


「私が?私が誰にどうして?命を狙われる覚えなんかないわ」

「貴女の責任ではない」


「私の責任でないのなら…なぜ?なぜ、あの人達は私なんかを殺そうとするの?おかしな話じゃない」


「おかしくは無い」

「おかしいわよ」

「おかしくはない!私が貴女を…!!」


 木暮はさらに由華里を強く抱きしめた苦悶に顔を歪ませ、吐き捨てる様に言った。


「私が!!……私が私の意思で貴女をここに連れてきた!

 ここに貴女をとどまらせた。


 私のそばにいてほしくて…

 だから、

 だから貴女は命を狙われるのです!!」

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