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海を越えた梢の花とウィルバートン家の呪い  作者: 高台苺苺
第一章 梢の花は海を越えて富豪と家出
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第29話 落下と救出

 解約されたマンションにいても仕方ないので、ホテルに戻ろうとした由華里は、エレベータに向かう廊下を塞ぐように立つ異様な雰囲気の男性に眉根を寄せた。


 誰?


 彼は無表情な薄い水色の瞳で由華里を見る。


 なんだろう…嫌な感じがする。


 由華里はにじり下がる。男が同じくらいに歩数を詰める。

 

 ぞっとした。その存在も不確かな雰囲気にもぞっとするが、まるで自分の動きに呼応するかのような動作が一層恐怖をかき立てる。


 怖い…

 なんだろう…この気配…

 凄く冷たくて…


 どこかで…

 どこかでこの気配を…


 知っている気がする…


 由華里ははっ!とした。

 昨日、自分の背中を押した者のあの手の気配に似ていることに気づいた。

 瞬間、全身の毛穴が泡立つような恐怖が走った!


 ばっ!と後ろ向きざまに由華里は走りだした。だが、足を痛めているのを忘れ、上手く松葉づえを突く事が出来ずにふらついた。身体を支えるように廊下の通路側の壁に手を着いた瞬間、


 急に体がふわりと浮いた気がして、慌てて壁を掴もうとした。


 が、天井と廊下が真逆に回転したような錯覚に、由華里は悲鳴を上げた。


「キャアアアアアアッ!!」


 何かを掴もうとしたが掴む物が無い。


 嘘!なんで!?

 何が起こっているの!?


 いつの間にかマンションの真下の駐車場が、まるでミニチュアの様に色とりどりの車が並んでいるのが見えた。


 そこめがけて由華里の松葉づえが、まるで小さな枝葉の様に舞いながら落下していくのが目に飛び込んだ。


 いやっ!!誰か!!


 自分が10階の踊り場から下への空間に放り出されようとしているのだと由華里は瞬時に理解した!!恐怖に腕を足をバタバタ動かそうとしたが動かない!!


 誰か!助けて!


 助けを呼ぼうとした次の瞬間、物凄い力がいきなり由華里の腕と身体を掴み、引き寄せられる感覚に由華里はけたたましく悲鳴を上げた。


「きゃああああああああ!!!」


 同時に誰かが由華里の身体を抱きかかえる。驚いて見上げると、昨日2度助けてくれた男性が由華里を抱き上げながら、一気に非常階段に向かい駆け下りだした。

 同時に、階上の方で怒声と何か重い物が倒れ込むような音が繰り返され、恐怖に由華里はぎゅっと目を閉じた。


 階下まで降り切ったボディーガードは、マンションの前に停車していた緑色のBMWの後部ドアを開け、由華里を抱えたまま素早い動作で乗り込んだ。

 運転席の男性がほぼ同時に急発進させた。


―頭をあげないで!


 後部座席で、由華里はボディーガードの男性が上から庇うように身で覆い、頭を押さえられ声も上げずに震えていた。


 何が起こったのか何がどうしているのか全く訳が分からないまま、車はすさまじい勢いで走り続けた。



 車はFホテルに到着したらしいが、いつもと違う地下出入り口に停車した。ドアが開けられると、そこで待っていたアニカが急いたようにガードの者達を押しの中に入り込んできた。


―由華里様!!!


 悲鳴に近い声でアニカが叫ぶ。やっとボディーガードが身体を離し、アニカが抱きかかえるように急いで由華里を降りたたせたが、ガタガタ止まらない震えに由華里はよろめいた。


―あああ!神様!!


 何かに感極まった様に絶句しながらアニカはきつく抱きしめてきた。


―なんて無茶な事をなさったのです!!

―ア…アニカ…


 やっと出た言葉はがちがちに震えてまともな言葉にならなかった。デニスが後ろからボディーガードから何か報告を受けて、蒼白な顔でアニカに囁く言った。


―彼等が間に合ったから良かったものの!!!なんてことをしたんです!彼等の到着が少しでも遅れていたら今頃は!!


 ガタガタ震える由華里を抱きしめるアニカは、泣いているかのようだった。


―ごめん…ごめんなさい。アニカ…


 アニカは無言で体を震わせ由華里を抱きしめ続けた。デニスがそっとアニカに諭すように言う。


―アニカ、アーネスト様が心配なされている。


 デニスの言葉に、アニカは我に返ったように、無言で由華里を車から降ろすと、毛布のような物を掛けてニックと共にそっと大事な物を抱えるようにエレベーターに向かった。


―お怪我はないですか?足は?他に何かされていませんか?


―大丈夫…少しびっくりしただけ。


―後でドクターをお呼びしていますから診察を受けていただきます。


―大丈夫。


―受けていただきます!!


 アニカの権幕に由華里は「ハイ」と頷いた。見かねたデニスがまた言う。


―アニカ、落ち着いて。由華里様は無事だったんだから。少し深呼吸しろ。


 アニカはすーはーすーは子供みたいに大きく深呼吸した。そしてまた由華里を抱きしめ、むせび泣くように体を震わせた。


―由華里様、アニカもですがアーネスト様も死ぬほど心配なされたのです。無事でよかったが、こんな無茶はもうしないでください。


―ごめんなさい…。まさかこんなことになるなんて。


―とにかくアーネスト様がお待ちです。


 何時ものフロアに戻ると、ウィル達がソファーから一斉に立ち上がり、由華里の無事を確認し、へたりこむように安堵の声を上げた。そして、由華里が与えられていた部屋の方を目で示す。


 一同は深呼吸し頷きあい、まだ震えている由華里を守るように囲むと、木暮雅人の部屋に向かった。

 そしてアニカが木暮雅人の部屋のドアをノックし、ドアを開けると由華里を中に問答無用で押し込んだ。


 部屋には仁王立ちの木暮雅人が待っていた。

ウィルバートンの呪い第二弾が由華里を襲いますが、由華里はまだ理解していません。まさかあの足で無断外出するとは思わず油断していたボディーガード達は、真っ青になり駆け付け危機一髪で由華里を救出します。そしてホテルで待つのは怒りと心配マックスのアーネストでした。


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