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海を越えた梢の花とウィルバートン家の呪い  作者: 高台苺苺
第一章 梢の花は海を越えて富豪と家出
18/90

第18話 家出した家で痴話喧嘩


 賑やかな写真撮影の後、レセプションパーティー会場に向かう迎えの車が来たので、アニカ達は賑やかに平野邸を去った。

 それを見送り、由華里はクルリと踵を返すと家の中に入り、ダダダダダダッ!と猛然と客間に戻った。


 そこで涼しげにお茶を飲んでいる木暮雅人を見て呆れて叫んだ。


「どうして木暮さんが、レセプション・パーティーにいかないんですか!?」


 彼は泰然とソファーに凭れて鷹揚に笑う。


「今日のレセプションに私がいなくても問題はありません。私のブレーン達が4人もそろって参加するのですから、先方も文句など無いはずです」


「また仕事をサボるの!?」


「サボリじゃありません。日本の家庭料理と言う物を体験してみたいのです」


「うちでしないで!他ですればいいじゃない!!」


「お母様がご了承してくださいました」


「お母さんは!お客様をもてなすのが大好きだから!社交辞令で言ったの!」


「私はチャンスを逃さないタチなのです」


「何がチャンスよ!!自分勝手なだけじゃない!」


 由華里の剣幕に、ふうと木暮はため息を着いた。


「由華里さん、由華里さんも少しは見習うといいですね。お母様は素敵な大和撫子だ」


 ドカン!と由華里の堪忍袋の尾が切れた。

「今すぐ出て行って!塩まいてやるから出ていって!!」


 ほほう、と、木暮は意地悪気に笑う。

「私は貴女の上司ですよ?そんな口のきき方いいのですか?」


 ぐうっと由華里は言葉を飲み込んだ。むかつく!なんて奴!だが、次の瞬間に由華里は閃いた。


「そうね…いいわよ。日本家庭式のディナーを致しましょう!そう!ディナー!木暮さんとお約束したディナー!これで約束クリアよ!」


 ふふんと木暮は鼻で笑う。

「違います。私達の約束のディナーは、双方で招待してするディナーです。これは、お母様、がご招待してくださったディナーなので、約束はまだ継続中です」


「なんですって!?」


「約束はまだですよ?いい機会だからと、ここで逃げ帰らないでくださいよ?」


「誰が逃げ帰るって言うのよ!!」


「もう一つ約束ですよ?今夜のディナーが終わったら、私と共にFホテルに戻ると」


 木暮の言い方に、由華里は耳まで真っ赤になった。

「木暮さん!少しは物のいい方を考えてよ!!」


「何か変な事でもいいましたか?」


「言いました!!その言い方は、まるで私が貴方と一緒に…!!!!」


 物凄く恥ずかしくなって、由華里は立ち上がると、憤然と客間を出て行こうとした。


「約束ですよ?由華里さん」

「わかってますっ!!」


 バン!と、ドアを閉めると、由華里は反論もバカバカしくなって台所の華代の所に行った。華代は酢の物を盛りわけながら、あきれたように振り返りながら言った。


「まああ!まあ!貴方達の大ゲンカ、ここまで丸聞こえですよ!由華里の怒鳴り声!幾らなんでもお客様に、それも上司である方に対して、あの態度はないでしょう!」


 憤然とエプロンを付けながら「別にいいの!」と、由華里は言った。ちらりと華代は由華里を見てさりげなく言う。


「あの方…木暮正人さんとは、何時、何処でお会いしたの?」


 由華里は指を折り曲げた。

「一昨日、U駅前で」


 華代は溜息を着いた。


「一昨日?そう…U駅前で、田口さんとの事が嫌になり家を出た由華里を捕まえたのが、木暮雅人さんって訳なのね」


 ガシャン!


 由華里はお客様用の美濃焼の茶碗を取り落とした。

 仰天している娘に、呆れたように華代は嘆息する。


「貴女の考えていることなどバレバレです。田口さんとの婚約が嫌なら、そうお父様に仰いなさいな。こんな事をしても、お父様は理解してくださらないわよ?」


「田口さんとは婚約などしていません!!それに…お父さんは…何を言っても理解してくれないわ!私が何度も田口さんにお付き合いを正式に断った事だって!全然聞く耳もたないし!」


「それはそうだけど…」


 と、自分の夫の頑固さと家族に関しての融通の効かなさを誰よりも知っている華代は嘆息した。


「由華里…今回の事は、確かにお父様が強引過ぎると私も思います。貴女が家を飛び出した気持ちも理解できるわ。

 でもね?今のまま、木暮雅人さんのご厚意に甘えていては、お父様を説得できるどころか反論材料にされるでしょう。

 それこそ、自分の足で立つこともできないのか、そんな事なら親の言う通りに結婚をすべきだ!

 と、言われるに決まっています。

 どういう経緯で、木暮雅人さんの秘書をすることになって、あの方と同じホテルに宿泊することになったのか…」


 ガチャン!


 古伊万里の取り皿を、由華里は床に落とした。


 正子さんが、苦笑しながら、全身真っ赤になっている由華里の足元に散らばる皿を片付け始めた。


「おか!お…おか!おかああさん!!なな、なななななんて事を言うの!!!その言い方!!」


 華代は怪訝な顔をした。

「事実でしょう?」


「事実だけど違います!!木暮さんはFホテルのVIPフロア全室を借り切っていて!そこは要するに、個室が10部屋程あって!その一つに私と木暮さんは別々に宿泊していて!!違う!そうじゃなくて!

 同じフロアに、アニカさんも、ボディーガードの人達も全員宿泊していて!多分、今日の他のブレーンの人達も泊まるはずよ!!」


「でも、貴方達二人が、同じホテルの同じフロアに宿泊しているのは事実でしょ?」


 あぐっ・・・と由華里は言葉を飲み込んだ。反論できない。


「由華里がどう言い訳しようが、世間は「そういう風に」取ります。解った?だから、直ぐに、明日にでも、あの方が用意してくださったホテルを出なさい」


「え!?」


「あなたが契約したアパートメントの不動産屋さんは、お母さんの友人が経営しているの。情報は全部こちらにきていますから」


 あまりにも衝撃的な華代の発言に、由華里はショックで固まった。


 お母さんの知り合いの不動産屋!?

 しかも情報駄々洩れ!??


 虚脱しそうになった由華里に、華代がじろりと睨む。


「倒れるならリビングに行きなさい。着物を着たまま台所で倒れないでちょうだい。邪魔です!

 それと、アパートメントの契約を来週に変更したみたいだけど、彼女に頼んで早めてもらいました。貴女をいつまでもあそこに置いておくわけにはいけませんからね」


「お母さん?」


「いいから、とにかく言うとおりにしなさい。

 由華里?人生にはね、勢いや流れと言う時期があるの。

 一つの事が起こると、連続していろんな事が怒涛の様に起こるのよ。

 その立ち位置に気づいていないと、でないと…

 貴女は…どんどん自分を追い込むわよ」


「追い込む?」


 華代は嘆息した。

「由華里はね、小さい頃から大事な事をポロポロ見落としがちなの。貴女達はお互い3日分の事しかしらないのよ?」


 由華里は変な顔をした。


「お母さん?変な勘違いしていない?木暮さんと私は上司と部下の関係よ?大体、あんな変な人!全然趣味じゃないわ」


 華代はもう一度嘆息した。


「趣味とかそういう問題じゃありません。…貴女は…」


 何か言い淀み、華代は少し悲しげに微笑んだ。


「由華里は、木暮さんの事をどう思っているの?」

「だから!」

「いいから答えなさい」


 はあ、と由華里は嘆息した。


「…そうね。困ったところを助けてくれた人。結構強引。自分のペースに乗せるのが上手。我儘。身勝手。紳士な割には、失礼な事をポンポン言う人。偉い人なんだかなんなんだか、訳わかんない人。

 いつの間にか私の上司。

 少し寂しがり屋なところがあって、でもなんか時々怖い感じのする人。

 ミステリアス?不可解。変な奴。むかつく。あ…段々腹が立ってきた!」


 華代は額に手を当てて嘆息した。


「はあ…ハイハイ、わかりました。ええ、わかりました。とにかく…明日早急にFホテルを出なさい。いいですね!」


 華代の剣幕に由華里は狼狽えた。こういう雰囲気の時の華代はかなり怒っている。由華里はしゅんとうなだれた。


「その…ごめんなさい…色々心配かけて。確かに…ホテルの件は、まずいとは最初から思っていたわ。何度も固辞したんだけど…気づいたらみんなで強引に引き留めてそのままずるずると…」


「でしょうね。あちらの方が上手ですもの」

「え?」


「いいからその盛り付けを続けて。そのサラダが終わったら焼き物の皿を出して。で?それで?」


「その、アニカさん達も全員あそこにいるから、問題ないと言われたけど…確かにおかしな話だわ。なんか私も少し感覚麻痺しているのかもしれないわね。

 でも、木暮さん達もそろそろ日本を離れるでしょうし、私もホテルを出るから心配しないで」


 華代は驚いた顔で由華里を見た。


「日本を離れる?なぜそう思うの?」


「なんとなく…なんだろう…。どんどん木暮さんの周りに、木暮さんの近しい人達が集まってきているでしょう?それに…今日来たあの3人とアニカさんと木暮さん…今までと凄く違う感じがする。

 彼等は…木暮さんを連れに来た感じがするわ」


 少し悲しげに目を伏せ、サラダを盛る由華里を心配そうに華代は見つめる。


「だから…私もあそこを出ないと。住む世界が違うから。早く出ないと」


 そうしないと逃げ出せない気がする。


 思って由華里は訝しがった。


 何から?

 何から逃げられないの?


 由華里は頭を振った。


「だから本音を言えば、不動産屋さんの事はありがたいわ。私も切っ掛けが欲しかったし」


「そう?それならいいけど。必ず明日には行きなさい。できれば今日中に行って欲しいけど…あの調子じゃ木暮さんは貴女を離そうとはしないでしょうしね」


「変な言い方しないでよ!お母さん!!」


「ハイハイ。ごめんなさいね。ですけど傍から見るとそう取られます。貴女ももうイヤでしょう?自分の与り知らない所で進められる縁談話とか。お父さん以外にも、そう言う風に仕向ける者も出てきますよ?今のままだと。わかるわね?」


 由華里は少しむっつりとした顔で頷いた。

 確かにもう自分の知らない所で自分の運命を人生を決められるのはまっぴらごめんだった。


「絶対、明日不動産屋さんに行くわ」


 華代から受け取った住所の紙を袂に入れると、由華里は大丈夫よと笑った。


「田口さんとの事も、ちゃんとするから。心配ばかりかけて、親不孝娘でごめんね、お母さん」


 華代は呆れたように嘆息して娘を見た。


「由華里…」

「何?」


 成人式の時の振袖を着た美しい娘を見つめて、華代は少し寂しげに目を伏せた。


「…なんでもないわ」


 子供が大人になるのは早い。

 自分達の手を離れて行くのも。

 そして、この子は本当に目の前の大切な物に気づかない。

 でも…今回はそれがいいのかもしれない。

 気づかない方が。


 正子と共にダイニングテーブルのセッティングに行く娘の後ろ姿に、華代は逡巡とした思いで心の中で呟いた。


 由華里、あの方はあの沢山の反物の中から、真っ先に見つけたのよ。

 貴女に一番似合う物を。


 その光景を目の当たりにした時の、客間で真っ直ぐに目を見て言いあう二人の姿を見た時の、あの湧き上がる不安を…


 自分の大切な娘がいつの間にか抗えない大きな渦に巻き込まれている事を直感した華代は、ぎゅっと両手の中にその恐怖を握りしめた。


 由華里…お願いだから気づかないで。

 その芽生えた気持ちに気づかないで。

 そしてお願い。

 お願いだから…このまま私達親子をそっとしておいて…。

 私達の大切な大事な娘を…貴方達の世界に巻き込まないで…。

 私達の大切な一人娘を…


 遠くに連れていかないで…。



 ピンポーンとインターホンの鳴る音に、はっと華代は現実に立ち戻った。


ああそうか、今日は泰蔵が早く戻ってくると言っていたのだった。久しぶりに由華里が自宅で夕食を取ると聞いて、予定を切り上げて帰宅すると。


 ふっ…と華代は苦笑した。娘の事が一番可愛くて愛しているのに…どうしてこう男の人は大切な物を頓珍漢に縛りつけようとするのかしら。


 縛れば縛る程、由華里は逃げるのに。

 私達の子なのだから…。


「あ!」


 と、華代はもう一つの大事な事に気づいた。そうだ、まだ言っていなかった。予定外のお客様のいる事を。

 だが、華代が台所を出ると同時に、泰蔵の凄まじい悲鳴が家中に響き渡った。


「うわああああああああああああああっ!!!」


 素っ頓狂な絶叫を挙げ、自分の家にいるはずもない人物の姿に仰天し、泰蔵は腰を抜かしてリビングの入り口にへたり込んだ。


 その父親の姿にびっくりしている由華里の後ろで、木暮雅人が必死で笑いを堪えていた。

なんだかんだ言いながらも仲良く痴話げんかをする二人。よくある恋人同士のそういう触れ合いを楽しむアーネスト。どんどん取り込まれていく娘を心配する母親。そして実は似た者同士の娘と父親。

楽しい?宴が始まります。

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