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海を越えた梢の花とウィルバートン家の呪い  作者: 高台苺苺
第一章 梢の花は海を越えて富豪と家出
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第17話 満開の梅の花が舞う中で


 由華里のピンク色の振袖を手にしたウィルは、とても柔和な笑みを華代に向けた。


―Misヒラノ、これは綺麗な着物ですね。私のワイフへのお土産に是非譲っていただけませんか?


 え!?と、と突然の話に由華里は驚いたが、先に華代があっさりと承諾した。


―まあ、お気に召されたようで嬉しいですわ。どうぞ、お持ちになってくださいませ。


「お母さん!?」


―由華里、英語で。その振袖はもう着ないつもりでしょう?それに、外国の方は着る為に着物が欲しいのではなく、飾る為に欲しいのよ。


 華代は流暢な英語を話しながら優雅に微笑む。ウィルが感嘆の笑顔で頷いた。


―譲っていただけるのですか?Mrs平野?


―ええ。由華里は幾つも振袖を持っていますし、それにもうすぐ振袖は着なくなるでしょうから。どうぞ、奥様のお土産にお持ちになってください。正子さん、振袖と帯を畳んで、それに合わせた小物と一緒にお持ちしてあげて。


 ウイルから振袖を受け取り、正子は下がった。アニカは華代を真っ直ぐに見つめて不思議そうに尋ねた。


―Mrs平野、先程、由華里はもうすぐフリソデを着なくなると仰いましたね?それはどういう意味ですか?そういえば…ホテルで由華里も、着物には色々なルールがあると言っていましたね?その事と関連しているのでしょうか?


 綺麗な姿勢でソファーに座り直した華代は、優雅にアニカに微笑み返した。だが、華代はなぜか木暮を真っ直ぐに見て言った。


―ええ。着物にはドレス同様に様々なルールがあります。特に振袖は、未婚の若い女性が着る物です。ですから先程申しました意味は、由華里は…もうすぐ、結婚するかもしれないと言う事を言いたかったのです。


「お母さん!?」

 ガタン!と由華里は立ち上がって華代を睨んだ。それを遮るように華代は真っ直ぐに木暮雅人の金茶の瞳を見据えて言う。

 きっぱりと。


―なのでもう由華里は…その振袖を着る事も無いのです。なので、ご懸念なくその振袖はお持ち下さいませ。


 にっこりと背筋を伸ばして微笑む華代の凄味のある笑顔に、3人のブレーンの男性は小さくヒユーッと口笛を吹いて木暮雅人を見た。

 彼はとても楽しそうに笑みを浮かべ、動じていない余裕のある態度で笑みを返す。


―お心遣い、ありがたく存じます。


―お母さん!!何もこんな場所でプライベートな事を言わなくったっていいじゃない!木暮さん達に失礼だわ!


 キッ!と華代は由華里を一瞥して黙らせた。


―貴女は黙っていなさい、由華里。こういうものはきっちりとしておかないといけないんです。


―私は結婚しないわよ!あれはお父さん達が勝手に決めた話じゃない!私はちゃんとお断りをしたはずよ!


―田口さんとのお見合いだけでなくとも、貴女はもう結婚してもいい歳なのです。他にもお見合いの話はあります。つまり、貴女はそういう立場なのだと、上司である木暮さんにもきちんと理解をしていただかないと、貴女の体面に傷がつくのです。

 Mr木暮、娘はそういう立場であるという事を、上司である貴方にもご理解していただきたくて失礼を申しました。非礼をお詫びいたしますわ。


 頭を優雅に下げる華代に、木暮は頭を挙げてくださいと言う。


―私も日本の慣習に不慣れな為、お母様にはご不快な思いをさせてしまったようです。お母様、大丈夫です…大事なお嬢様だと重々承知しております。ご心配、ご懸念に及ばれる必要はありません。

 何度も申しますが…責任を持って大切な御嬢さんをお預かりさせていただきます。


 ハッと華代は木暮を見る。彼の真摯な瞳を真っ直ぐに見て、一瞬、泣きそうな顔になった。


―いえ…こちらこそ失礼を申し上げて…。


―お母様、先程の部下がいただきました振袖ですが、お礼といらぬご心配をおかけしました非礼のお詫びに、私から由華里さんに一つ着物をプレゼントさせて頂けませんでしょうか?

 幸い、呉服屋がこちらに来ているようなので。選ばせていただけますと嬉しいです。


 華代は少し引くつくように笑った。


―お気になさらないでください。こうして外国からいらしたお客様に、お着物をプレゼントすることは良くあることのなのですから。


 木暮は真っ直ぐに華代を見て言う。


―お母様、私に、恥をかかせないでください。


 木暮の断固とした態度に、華代は一瞬固く目を閉じ、いいでしょうと立ち上がった。そして、先程由華里達が着替えていた和室に案内をした。


 既に振袖は片付けられ、大きな廿楽から、幾つもの反物と帯が出されて広げられていた。由華里は苦笑した。

 

 お母さんったら、ついでに新しい着物を作ろうと持ってきてもらっていたのね。

 美しい無地や小紋の反物を取りながら、由華里はくすっと笑った。


 木暮は呉服屋と何か話し、いくつかの反物を取り出すと、その中の一ツを選び、由華里の肩にかけた。

 綺麗な桜色の地に春の花々が金糸銀糸の風に可憐に舞う、美しい反物だった。彼はにっこり笑うと、また由華里をぎゅうっと抱きしめた。


 またか!!


 ふがふがもがきながら、ガスッ!と木暮のむこうずねを蹴飛ばすと、やっと彼は由華里を離した。


「だから!!これ!禁止!!まだ写真を撮っていないんだから着崩れしちゃうじゃない!木暮さん何回言えばわかるの!?」


 怒る由華里に、木暮は可笑しそうに笑いながら謝った。


「それと!こんな高価な反物!」


「こういう物は値段ではないでしょう?無粋な事をいわないでください。私が、貴女に一番似合うと思ったものを選んだのに、何が不服なのです。じゃあ、あの若草色のも」


「なんで増えるんです!!」


「お礼ですからね」


 これ以上ぐちゃぐちゃ言っていたら、どんどん反物が積み上がりそうなので、由華里は慌ててにこりと微笑んで感謝の言葉を言った。


「ありがとうございます。とても嬉しいです」


 由華里の言葉に、にやっと木暮雅人は笑うと、呉服屋に目くばせした。呉服屋はにこにこ最上級の笑顔を見せながら、帯、小物、襦袢の反物等々、どんどん積み上げていく。さっきの若草色の反物とそれに合わせた物も。


「木暮さん!!ストップ!!そこまで!!」


 そしてぐいっ!と、腕を掴んで引き寄せると「いい加減にして!!」と、耳元で怒りの声で囁いた。

 彼は大きな声で満足げに笑いだした。


「木暮さん!!」


 笑い続ける木暮に抗議する由華里を、アニカ達はにやにやしながら、華代は蒼白な顔で見つめていた。


 結局、木暮雅人からプレゼントされた反物等は、由華里が持っている着物の中で最高額の物となった。由華里は溜息を着いた。これを着て行く場所なんてあるのかしら?と。


 正子が写真屋が庭での撮影の準備が整った事を伝えに来た。

 リビングから窓を開け放ち、大小の下駄やサンダルを並べていく。下駄をつっかけ、和風庭園に出たデニス達は盛んに感嘆の声を挙げる。


 池の錦鯉に竹の生け垣に飛び石に、いい枝ぶりの植栽に、いちいち「おおおっ!」「素晴らしい!」「素敵だ!」と叫んでいる。まるでどこかの観光庭園に観光しにきているようだと、由華里は苦笑した。


 華代がぱんぱんと手を叩き一同の気を向けた。


-皆様!写真撮影のお時間は決まっておりますから、写真撮影の後に見学を存分になさってくださいませ。時間がもったいない!


 デニス達は慌てて縁側に戻った。

 流石お母さん。由華里はその遠慮ない手腕に感嘆した。


 まずアニカと由華里が、紅白の梅の目に並び写真を撮る。

 次いでアニカが一人で。

 次にデニス達が加わり、由華里と木暮を引っ張り込んで撮る。


 賑やかな光景に、縁側から華代は楽しげに笑う。一通りの撮影が終わり、縁側に行こうとした由華里の手を後ろから誰かが掴む。


 またか。


 由華里は苦笑して、振り返る。満開の梅の花の木の真下で、木暮が優しい笑顔で笑っている。由華里は苦笑して、何も言わずに彼の横に並んだ。


「木暮さんは本当に強引よね。もう諦めました」


「何がですが?」


「そんなに、振袖姿がみたかったのですか?」


 木暮は由華里を見おろし、金茶の瞳を春の日差しの様に笑わせた。


「ええ。見たかったです。貴女のあの桜色の振袖姿の写真を見た時から…同じように写真を撮りたかった」


 あの写真か。由華里は苦笑した。


「田口さんとの写真ですね」


「誰?ですか?」


 由華里はくすっと笑った。あんなに拘って隠し通していたかったのが、急に馬鹿馬鹿しくなってきた。由華里は木暮を真っ直ぐに見上げて言った。


 ウソ偽りの無い気持ちで。


「私…実は夕べはウソを言っていました。ごめんなさい。

 多分、木暮さんがみた写真は…田口さんと言う方とのお見合いの席で撮った写真だと思います。でも!言い訳でもなく、私はその会食会がお見合いの席だと聞いていなかったの。だから…彼とは今現在も結婚する気も、婚約する気も全くありません。

 なので…夕べあの時、私は…」


「いいんですよ」


 はっと、由華里は木暮を見上げた。彼は白い花びらが舞う青空の下で、なんだかとても満足そうに微笑んでいる。とても幸せそうに微笑んでいた。

 その満願の笑顔に、由華里はまた耳まで真っ赤になった気がして、慌てて目を逸らした。


 なんだろう?なんでこんなに胸がドキドキするんだろう?


「こちらを向いてください、お二人とも!」


 写真師の声に、由華里は笑い、その由華里の肩を抱いて、木暮も幸せそうに笑った。


 後ろの白梅の花びらが、まるで雪の様に風に舞い上がり二人を包み込んだ。


 写真師はその絶好のシャッターチャンスに連続でシャッターを切った。

能天気由華里も自分の気持ちに気付き始めます。でもそれはしてはいけない恋。そう思いやはり見なかったことにしようとしますが…

この時に撮った写真が後に大騒動を起こします。

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