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海を越えた梢の花とウィルバートン家の呪い  作者: 高台苺苺
第一章 梢の花は海を越えて富豪と家出
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第16話 家出した家で振袖騒動

由華里の実家に戻ると、既に20畳ほどの広々とした和室には呉服屋と着付け師がスタンバイをしており、色とりどりの仕立て上がりの振袖が広げられていた。


 アニカは歓声を上げて、次々と羽織ってはクルリと回って裾を翻して少女の様にはしゃいだ。嬉しそうなアニカに、由華里も嬉しくなった。


 着物や小物を華代と呉服屋のアドバイスで選ぶと、アニカは由華里の振袖は?と聞いてきた。

 由華里は苦笑し、自分の部屋から数枚の振袖を持ってくると、ばさりと広げた。


「これは成人式の時、これとこれがお正月の時、13参りに時、それと…」


 最後の一枚を広げて、由華里は少し顔を曇らせた。

 そうだ。この可愛い蝶と桜が舞う桜色の振袖は「彼」…田口との会食会で着た物だ…。


―婚約?その時に…由華里さんも着たのですか?


 不意に木暮の言葉が思い起こされ、由華里はドキンとした。考え込むように振袖を見ている由華里に、アニカが笑って言う。


「由華里、一緒に着ましょう」


「え?アニカまで木暮さんみたいな事を」


「いいではありませんか。記念です。一緒に写真を取りたいです」


 燥ぐアニカに由華里は苦笑した。記念。そうか…それならいいか…。由華里は微笑み、わかったわと笑って言った。


「これがいいです」


 アニカは鮮やかな桜の花が金糸の波に散る優雅な朱の友禅染の振袖を手にした。まあと母親の華代が目を細めた。


「それは成人式の時にと、亡くなった私の母が用意しておいてくれたお振袖よ。そうね、それが一番由華里に似合っているわ。それにしなさいな、由華里」


 母親の華代がアニカの着付けの準備を手伝いながら言う。そう言われながら由華里はそっとその優雅な古典的柄の豪華な振袖を撫でた。


 そうね…私もこの着物は好き。


 それに、これは「彼」も好きそうな柄だから、着たらきっと喜ぶかもしれないと、由華里は微笑んだ。


 そしてはっとした。「彼?」誰?


 不意に木暮の笑い顔が浮かび、耳まで真っ赤になる。なんで!?なんでここで木暮の顔!?由華里は狼狽える気持ちを振り払う様に勢いよく立ち上がった。


 ばっかみたい!!


「由華里、貴女も美容師さんに髪の毛を巻きなおしてもらいなさい」


 華代の言葉に由華里はハイハイと言いながら隣の部屋にいる美容師に髪を結いなおしてもらった。

 普段から長い髪を三つ編みにしたのを頭の上に巻いているヘアースタイルでいるので、そのままでも着物は着れるが、記念写真を撮るなら確かに一からやってもらった方がいい。


 綺麗にヘアーセットをしてもらい、着物に似合う髪飾りまでしてもらった。

 着つけを一人で手際よく着付けをしていると、銀糸のボブを綺麗にセットしたアニカがやってきて感嘆と羨望の声を挙げる。


 由華里は襟を合わせながら微笑んだ。

「ありがとう。基本的な着付けはできるんだけど、帯は無理。振袖の帯は特殊だから」


 着付け師の手により、由華里の金色の帯がしゅるしゅると巻かれ、さらに可愛らしい小物が重ねられて美しい形に結ばれていく。

 まるで折り紙の様だと感嘆の声を上げて、ビデオを撮ればよかった!とアニカは後悔をした。


 あっと言う間に由華里は振袖を着て、袖を持ち、くるりと回ると、また大袈裟に驚嘆の歓声を挙げ、携帯電話で盛んに写真を取り出した。


 わいわい賑やかにアニカの着付けをしていると、ピンポーンと玄関のチャイムが鳴る音がした。お手伝いの正子さんが玄関に向かう足音が聞こえた。

 が、しばらくして、パタパタと戻ってくると、すっと襖を開けて困惑顔をのぞかせた。

 華代が呉服屋と着物をたたみながら、怪訝な顔を向けた。


「お客様?今日は予定はないはずだけど?」


 お手伝いの正子はそわそわと困惑の顔で華代と由華里を交互に見る。


「それが…由華里お嬢様に…外国のお客様がお見えになりまして…」


 ああ!と、由華里は頷いた。


「アニカを迎えに来た方ね。後で迎えの車がまた来ると言っていたから。いいわ。私が出るから、正子さん、お母さん達を手伝ってあげて」


「由華里お嬢様、お客様は客間にお通ししています」


 客間?変だな?と思いながら、由華里はパタパタと廊下を小走りして客間に向かった。

 引き戸のドアをノックし、カラリと開けると、和風テイストの応接ソファーに4人の男性がゆったりと座っていた。


「あれ?」


 と、ドアを開けた由華里は、由華里を見て驚き立ち上がった木暮雅人を見て驚いた。

 彼も振袖姿の由華里を見て驚いた顔をしている。


「木暮さん?まあ!どうしたんですか?この時間はN企業の方と…」


 いきなり木暮は立ち上がり、由華里の側くると、きょとんと見上げる由華里をいきなり抱きしめてきた。


 息も付けない程の力で彼の胸に由華里を押し付けた。


 ぎゃっ!と叫んで、由華里は木暮の腕の中でもがいた。振袖を着て外国の方と会うと、よくこういう感激した挨拶を受けるので、由華里はさして驚きもしなかったが、あまりの力の強さに仰天した。


「ちょっ!ちょっと!!こぐ…木暮…くる…死ぬ!!息!息…!!息できない!!」


 バンバン腕を叩く由華里に、ハッとして木暮は由華里を抱きしめる腕を緩めた。


「す…済みません…あまりの美しさに驚いて…」


「知ってる!!外国の人ってよくコレするもの!でも!木暮さん力強すぎ!!」


 クスリと木暮は笑う。


「着物の事じゃなないですよ」

「えっ?」


「貴女がとても綺麗だといているのです。着物…とても似合っている…素敵です」


 耳まで赤くなりながら、由華里は襟等をシュッと直した。


「あ…ありがとう…あの…えーと、こういう柄、お好きでしょう?」


 木暮は顔をほ綻ばす。

「ええ、好きです。とても貴女に似合っている。私の為にこの着物を選んでくださったのですか?」


「はあああっ!?え!?なっ!!なんで!?」


「なんで狼狽えるんですか?手まで真っ赤ですよ?」


 握りしめている由華里の手を見ながら、木暮が不思議そうに言う。半分図星を指された気がして、由華里は面食らっていた。


 この人は本当にもうっ!!!


「違います!後でアニカと記念写真撮るんだから!それで…この着物にしたんです!それより、なんで木暮さんがここにいるの?確か、今はN企業の方と、」


「キャンセルしました」

「は!?」


「アニカから、由華里さんが美しい着物姿になるとメッセージを貰いましてね。それで…」


「ばっ!!!バカじゃないの!!?そんな事で仕事をすっぽかしたの!?」


 木暮は眉根を寄せてむっとした。


「何が馬鹿なのですか?」


「バカはバカでしょう!?私が着物を着るからってだけで、仕事をキャンセルするだなんて!聞いたことない!」


「貴女に私のビジネススタイルをとやかく言われたくはないですね」


「あ!何!その態度!本当に木暮さんはいちいち!!」


「Miss Hirano?」


 綺麗なキングスイングリッシュに由華里は怒声を止めて振り返った。優雅な物腰のアジア系の男性が会釈する。


「我々が、キモノを見たいと申したのです。それに仕事は別の者が担当しておりますので、アー」


 ごほん!!と、黒人の男性が咳払いをする。彼は、ああ…と苦笑した。


「こ…木暮様がいらっしゃらなくても大丈夫なのです。ご心配をいただきまして痛み入ります」


 ソファーから立ち上がった男性3人が、にやにやしながら木暮と由華里を見ていた。木暮は少し気まずそうに咳払いをして彼等を紹介した。


「由華里さん、私のブレーン、

 ウイル・グローネンバーグ(アジア系の男性が笑う)、

 ニック・セルウイン(白人男性がやあと手を挙げる)、

 デニス・ウエルフォルド(黒人男性がにこやかに会釈する)です。

 みんな、その…彼女が…由華里・平野嬢だ」


 由華里は三人と握手を交わしながら、ぽかんとした。 


「木暮さん…秘書が何人いるんですか?」


「彼等は秘書では無く、私のブレーンです」


「ああ!そうでしたね。アニカを含めて4人のブレーン。えっと…じゃあ?私は誰と交代するのですか?」


「ですから、彼等は秘書ではありませんので、由華里さんと交代の秘書はまだ来ておりません」


「は?」


 不意に全員が一斉に立ち上がりドアの方を見た。その余りに素早さにびっくりして由華里も見ると、そこには母親の華代が蒼白な顔で立っていた。


「お母さん?」


 木暮達が一斉に華代に会釈をする。由華里の手を握りしめたままの木暮を真っ直ぐに凝視しながら、上ずった声で華代が由華里に尋ねた。


「由華里…こちらの方達は…どなた?」


 由華里は慌てて木暮の手を離すと、一同を華代に紹介した。


「お母さん、お父さんから聞いているでしょう?一昨日から臨時秘書をさせていただいている、今の私の臨時上司の木暮雅人さん。木暮さん、私の母の華代です。それと、木暮さんのブレーンの皆様よ」


 ウィル達はにこやかに華代と握手をしていく。最後に木暮が手を差しだし、優雅な物腰で華代に挨拶をした。


―初めまして。平野夫人。お嬢様の由華里さんには大変お世話になっております。木暮雅人と申します。今日はきちんとした御挨拶に参りました。御夫君の平野泰蔵氏から経緯などお話はお聞きと存じますが?


 華代はに鷹揚な笑みを浮かべた。


―ええ…聞いております。由華里の臨時上司の木暮雅人様。そうですか…貴方が。ご丁寧ご挨拶を痛み入りますわ。


―大事なお嬢様をお預かりする身ですから。こうして直接お伺いしてお母様にもご挨拶をするのは当然です。


 木暮と華代は何か含んだような笑みを互いに浮かべ交わした。


―こちらこそ不束な娘が大変お世話になりまして、お礼の申しようも御座いませんわ。あの…どうぞお坐りになって。もうすぐアニカさんの支度も出来上がりますから。


 一同はソファーに銘々腰を降ろした。由華里は蒼白な顔の華代の側に寄って囁いた。


「お母さん、どうしたの?顔色悪いわ」

「大丈夫よ。少し驚いただけです。それより由華里…随分と木暮さんとは親しいのね?」


 由華里は奇妙な顔をした。


「え?そう見える?実際にはかなり辛辣で厳しい事をずばずば言う上司よ」

「本当に?」

「ええ。今だけ愛想よくしているのではなくて?」


 由華里の言葉に、不意に華代は可笑しそうに安堵したように苦笑した。


「お母さん?」


 廊下の方からバタバタとした足音が聞こえ、ドアが開くと、コバルトブルーに桜が金糸銀糸色に派手に舞う豪奢な振袖を着こなしたアニカが現れた。

 手にはなぜか由華里の振袖の一つを片手にして、「はーい!」と、ポーズを取った。


「おおおっ!!」


 と、デニス達はアニカの周りに集まり、やんややんやと絶賛する。アニカは得意げにポーズを何種類もしてみせ、更に場は盛り上がる。由華里はその異常なテンションにぽかんとした。


 アニカは手にしていた由華里の蝶と桜の薄紅色の振袖と、合わせてあつらえた帯を木暮に掲げて見せる。


 途端に木暮の顔が不快に歪む。


 ウイルがそれを手に取り、「これか…」と、デニス達とにやりと顔を見合わせた。

アニカ、由華里に着物を着させるの成功しました。そして他のブレーンもアニカ招集で集まり、いよいよ全員で由華里を追いこんでいきますが…危機感ゼロ。ですが母親の華代はいち早く彼らの思惑に気付きます。母は凄い。

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