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海を越えた梢の花とウィルバートン家の呪い  作者: 高台苺苺
第一章 梢の花は海を越えて富豪と家出
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第15話 振袖姿を見たい男と着たくない女

 VIPフロアに戻ると、そのややこしい事態の最たる原因である木暮が、既に次のレセプションに向かう為の着替えを済ませ、リビングで優雅にコーヒーを飲んでいた。


 全く涼しい顔をして周囲を混乱させておいて、いい気な物ねと由華里は嘆息した。


 そしてアニカは先程の話を切りだした。

 二つ返事でOKが出ると思っていたが、木暮は少し思案気に由華里を見上げた。


「振袖を着る?二人で、ですか?」


 由華里は肩を竦めてキッパリ言う。


「私は着ません。アニカさんだけです」


「どうして由華里さんは着られないのですか?」


「私?私は着る理由がないので」


「なぜ?」

「なぜ?」


 由華里はきょとんとした。

 なぜと言われても困るけど…。そしてハッとした。そうか!彼も良くいる外国の人達同様に、日本人は日常的に着物を着ているのだと思い込んでいるのかもしれない。


 由華里は苦笑した。不意に木暮が眉間に皺を寄せた。


「何か?おかしなことを私はいいましたか?」


「別におかしなことを仰っていませんよ。その…振袖は普段に切るものではなく、特別な時に着る晴れ着なんです。所謂パーティードレスと同じですね。

 なので、今日は私はパーティーに参加をしませんので着ないという事です」


「特別?たとえばどのような時に着る物なのですか?」


「ええと…スタンダードなのはお祝いの時に着るのが多いですね。

 結婚式、パーティー、成人式、卒業式等のお祝い行事。お正月とか…それと…」


 酷く嫌な記憶を思いだし、少し言いよどみながら由華里は言った。


「あと…お見合いとか…結納とか…」

「結納?」

「ええと…?婚約パーティー?みたいな感じかしら?」


 不意に木暮の表情が険しくなった。


「婚約?由華里さんもその時に着るのですか?」


「えっ!?私っ!?えっと…ええ…まあ…あの…」


「着たのですか?」


 酷く棘のある言い方だ。なんでこんなに不機嫌なんだろうと、由華里はどぎまぎした。

 ちらりとアニカに助け舟を求めると、アニカは部屋の隅の方のマントルピースに手を着いて笑を必死でこらえている。


 なんなの?


「昨日も言いましたけど、私は婚約などしていないので着ていません。着たのは、最近ではお正月にです!」


「その前にも着られましたよね?」


「は?」


 着たっけ?


「お父様から先日お聞きしました」


 お父さん?


 あっ!と、由華里は突然不愉快な事を思い出した。そうか、あの事を話したんだわ!

 今度は由華里がむっつりとした。


「ええ…確かに。食事会の事ですね。確かに特別な食事会などでも着ます」

「特別なお食事会だったのですか?」


 由華里は思い出したくも無い事をほじくられて、更に不機嫌になった。


「別にどうしてそんな事まで木暮さんに言わないといけないの?」


「では、何故言えないのですか?」


 まああ!と由華里はむかっとした。


「だから!今!木暮さんに聞いているのは!夕刻のレセプション・パーティーの為に!私の実家に行って、アニカに振袖の着付けをしてもいいですか?と、いう事で!!私が過去の!何時何処で!どんなふうに振袖を着て何をしていたかの問題じゃないでしょう?」


「そうでしょうか?」


「そうですっ!!とにかく実家に行ってもいいですか?!」


「それは構いません」


「良かった!じゃあ…」


「アニカが振袖を着付けに平野宅を御訪問されるのは構いませんが、その時に何故由華里さんも着られないのですか?」


 しつこい!!


「だからっ!別に今日は私にとって特別な日じゃないからです!」


 不意にアーネストは何か考え込んだ。


「では、特別な日なら着られるのですね?」


「そうですね!パーティか結婚式かそれともそれこそ私の結納でもあればですけどね。でも!今日は別に私がパーティーに同席する訳ではないので着ません!」


「ですが」


「じゃあ!私達はU市に行きます!着付けが終わったら、会場までアニカをお送りしますからご心配なさらないでください!」


「由華里さんはどうされます?」


 由華里は切れそうになった。一体彼は何を言いたいんだろう?!


「私は着ませんっ!!!失礼します!」


 憮然とする木暮を残し、由華里は笑いを堪えるアニカを引きづるようにして、U市の自宅に運転手付きの専属車で向かった。

 車内で憮然としている由華里に、アニカが苦笑して言った。


「由華里、アー…木暮様は由華里の振袖姿を見たいのですよ。それでしつこくああおっしゃられていたのですわ」


「私の振袖姿?そんなの見てどうする気?舞妓とか芸者さんと勘違いしていない?それでも失礼な話だけど」


「…アー…木暮様は、先日のパーティーの折りに、可愛らしいピンク色の振袖姿の由華里の写真を見せていただいたそうです。弟さんと?ご一緒のような?」


 何かを伺うような言い方をするアニカの微妙な言い方に気づかず、由華里は「ピンクの着物」の部分で眉根を寄せた。


 お父さんは!よりによってあの写真をみせたんだ!!

 どうしても外堀から埋めようと言う気なのね!

 不愉快だわ!!

 あの写真は弟とじゃない…


 アニカの言う桜色の振袖の着物を着た時に、一緒に写真に写ったのは…。

 むっつりと黙り込む由華里に、アニカが優しく言う。


「木暮様は由華里の着物姿を褒めていらっしゃいましたよ」


「外国の方は着物が好きですものね。でも、今日のレセプションは私は参加しなくていい話しだし、それに例え参加しても秘書が振袖を着ていくなんておかしな話で普通はあり得ません」


「そういう意味ではなく…」


 アニカが何かを言おうとした時、車は由華里の実家の前に停まった。


 伝統的な二階建ての日本家屋の引き戸の門があき、若草色の着物姿の母親の華代が出迎えた。


 数日前にこの家を出たのに、またこうして戻るなんて…変な感じ…。


 そう複雑な思いで由華里は降り立ち、華代と挨拶を交わしてアニカを紹介した。

着物を着ると聞いて、由華里の着物姿を見たいアーネスト。それを理解しない由華里。実は最近着物を着た場所で不愉快なことがあり、それであまり着たくないのですが…。アニカは由華里に着物を着させることができるでしょうか?

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