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冬の夜、父親になりました

作者: 苔虫

ノリで書いた、とは言い切れませんが、とりあえず、めちゃくちゃな文章になっていると思います。

それでも、楽しんでいただけると幸いです!


 ある仕事帰りのことだった。残業で疲れた俺は、コンビニで軽いつまみと酒を買い、自分の家を目指していた。帰り道には、河川敷があり、冬の冷たい風が草むらを揺らしている。俺自身も、その寒さに身を震わせていると、草むらに寝転んでいる人を見つけた。寝転んでいること自体は不思議ではない、ここから見える景色はそれなりに綺麗で、たまにではあるが、眺めに来る人はいるのだ。


 しかし、そこに寝転んでいた人は、眺めに来る人たちと、少しだけ違った。季節は冬で寒いのにも関わらず、その人が着ているのは、ぼろぼろになった半袖と短パンだけだったのだ。靴は履いておらず、髪はボサボサ、間違いなく「訳あり」の人間だと分かった。


 俺は、見て見ぬふりをしてそこから去ろうとしたが、その前に、向こうがこちらに気が付き、目があってしまった。こちらを見つめる目は、虚無、まるで世界そのものに興味をなくしたかのような目をしていた。


 それを見た俺は、境遇は全く違うはずなのに、なぜか思ってしまった。


 「あぁ、俺と同じだ」と。


 そして、俺は、近づき、手を差し伸べる。向こうは、一瞬、戸惑った顔をしたが、俺の手に、()()()手を重ねる。まだ成人もしてないであろう幼き()()の手を握り、再び、帰路に就いた。


ーーーーーーーーーーーーーーー


 家に着いた俺は、ひとまず、風呂の準備をする。そして、これまで一言も発していない少女に声をかける。


 「お風呂、入るか?」


 少女は、目を見開き、こちらを見てくる。おそらくではあるが、あまりお風呂に入ることが出来てないのだろう。


 「流石にお風呂には入りたいだろ?」


 少女は無言で、激しくうなずく。年相応の姿を見て俺は、内心、微笑みながら、準備をする。しばらくして、準備が出来たので、俺は少女に「入っていいよ」と伝える。少女は無言で頭を下げ、お風呂場へと向かった。


 少女が向かったのを確認した俺は、パソコンを開き、『行方不明』と調べる。万が一、少女の親、またはそれに連なる者が彼女のことを探していたら、連絡しないといけない。


 それから、三十分が経過したころ、少女が風呂からあがってきた。少女は先ほどと変わらない服装をしていたが、ボサボサだった髪は綺麗に整っており、顔色も出会った当初より、少しだけではあるが良くなっていた。


 「少しはさっぱりできたか?」


 少女は、先ほどと同じようにうなずく。お風呂が余程気持ちよかったのか、目は少し閉じかかっている。このまま寝かそうとも思ったが、この季節に半袖、短パンで寝るのは健康上よくないと思った俺は、少女がお風呂に入っている間に用意していた長袖と長ズボンを渡す。戸惑っている少女に俺は告げる。


 「その恰好だと、風邪を引く可能性があるからな。それを着てくれ」


 それを聞いた少女は、一度、お風呂場の方へ戻り、少ししてから、俺が渡した服を着て、自分の服を手に持った状態で戻ってきた。


 「その服は俺が後で洗濯するからその辺に置いといてくれ」


 俺は、置いてもらったら、寝かそうとおもったが、少女は服を置かず、俺の隣に座ってきた。そして、俺を見つめてくる。予想外の行動に困った俺は、少女に問いかける。


 「なんで横に座るんだ?」


 問いかけても、少女は反応なし。いたたまれなくなった俺は、中断していた行方不明の有無を再開した。すると、袖を横から引っ張られる。袖を引っ張るような存在は、現在、この家に一人しかおらず、俺は、再度、少女の方を見る。


 「......」


 しかし、少女はこちらを見つめるだけで、何も話してくれない。やはり気になってしまう俺は、少女に話しかける。


 「なぁ、何か俺に伝えたいことがあるのか?」


 それに対して、少女は俯く。そして、意を決したのか、こちらの顔をしっかりと捉え、口を開く。


 「......私、行方不明、じゃない。......捨てられた」


 「そうか......」


 少女が俺に伝えた事実に対し、正直に言うと、予想通りではあったが、やはり驚きは隠せなかった。その後、少女は自分の身の上の話をしてくれたのだが、まとめるとこうだった。


 少女に父親はおらず、母親と二人きりで生活していたのが、ある日を境に母親が家に帰ってこなくなった。そして、今日、遂には家賃を払えなくなり、住んでいた家を追い出されたという。結果、俺と河川敷で会い、今に至る。


 ......参ったな。これは、完璧に捨てられたとはいいがたい。あまりない事例ではあるが、たった一人の親が事故にあい、結果、子供を一人にしてしまうということがある。どうするべきか悩んだ俺は、ひとまず、明日、警察署に向かい、少女の母親の捜索を要請しよう。その間、少女をどうするかは相談して決めよう。......おそらくではあるが、少女が俺から離れたがらないだろうから、今の内にある程度、考えておこう。


 それはそうと、もう夜も遅いので、少女は寝かしておくべきだろう。


 「眠いか?」


 「......少し」


 「なら、先に寝ていてくれ。俺はもう少しやることがあるから」


 「......いや」


 「いや、って言われても」


 「お兄さんも寝るなら、寝る」


 「......会ったばかりの男を信用しすぎじゃないか?」


 「......もし、手を出したら、分かるよね?」


 「はいはい、なら、お前は、向こうの部屋にある俺のベッドを使ってくれ」


 「お兄さんは?」


 「俺はそこのソファーで寝るよ」


 「ん、悪くない案。じゃあ、お兄さんが寝たのを確認したら、私も寝る」


 「そこまでしなくても......」


 「いいね?」


 「はい......」


 おそらく、俺が、もう少し調べるため起きると考えての提案だろう。ここで俺が渋っても意味がないと思ったので、おとなしく寝ることにした。


ーーーーーーーーーーーーーーー


 翌朝


 窓から差し込んだ穏やかな朝日に目を覚ました俺は、ソファーから体を起こし、固まった体をほぐす。そして、自分の部屋で寝ているはずの少女を起こしに行く。


 「おい、起きろ~」


 「......いやだ」


 「頼むから起きてくれ、今日は警察署に行くんだから」


 「もしかして、追い出す?」


 「いや、そういうわけでは......」


 「あぁ、もしかしてお母さんを探すの?」


 「そうだけど、よく分かったな」


 「ん、万が一に備えてでしょ?」


 「そんだけ理解できるなら、最初から警察や児童養護施設に行けばいいものを......」


 「警察には行く意味ないし、養護施設は色々と面倒。それにあの時は早く死ねればいいのに、って思っていたから」


 少女の独白に、胸が苦しくなる。子供だからとかではなく、一人の人間が『死ねればいいのに』、と思ってしまうことが、たまらなく悲しい。かつての俺も、こんなことを言って、両親を悲しませていたのだろう。しかし、少女の言葉に、違和感を感じる。


 「警察に行くのが、無駄、っていうのは?」


 「お母さんは、男を作ったの。仕事で仕方なく作ったんじゃなくて、自分の意志で、自分のために作ったの。そして、私を残して、どこかへ消えた」


 「......なるほど、つまりお前は、母親が蒸発した、と言いたいんだな」


 「うん......」


 俺は考える。それが本当であれば、警察には行かず、養護施設にて対処すればいいだろう。しかし、少女の思い込みであれば、余計な混乱を生むことになる。様々な可能性を考慮した俺は、


 「よし、やはり、一度、警察署には行っておこう」


 「えー、なんで~?」


 「年のためだ、もし、お前の親が出てきて、誘拐だ!って訴えられたら困るからな」


 「分かった、じゃあ、そうしよ」


 そうして、警察署に向かうことにした俺たちは、適当に朝食を済ませ、着替える。その際、会社には、休むことを伝えた。それを聞いた上司は、「ふざけるな!」と怒っていた。これ、しばらくは、何があっても休めないな~。まあ、そこそこブラックな会社だから仕方ないね。心の中で悲しんでいると、


 「ん、早く行こ」


 Tシャツにジーパンといった、いかにもラフな格好をした少女が声をかけてきた。ちなみに、俺の服である。


 「オッケー、そんなに遠くない場所だから歩いていくぞ」


 「ラジャー」


 ......うん、今更だけど、お前、キャラ変わりすぎじゃね?少女のあまりの態度の変化に一人、突っ込みをいれながら、俺たちは警察署に向かった。


ーーーーーーーーーーーーーー


 少しして、警察署についた俺たちは、捜索届が出ていないか再度、確認し、なかったため、警察官に事情を説明。すると、


 「そうですね、やはり、養護施設で一時的に預かるべきだと思います」


 「やっぱりそうですね......」


 警察官の答えは予想通りのものだった。しかし、


 「いや」


 こちらも予想通りというべきか、明確な拒絶を示した。警察官のほうを困った顔をして、こちらを見ている。とりあえず、理由を聞いてみよう。


 「どうして、いやなんだ?」


 「もしかすると、知らない人に引き取られるかもしれないから」


 ......なるほど。おそらくではあるが、少女は恐れているのだろう。再び、あの悲しくて、つらい日々を。幼いころの記憶は残りやすいのかは分からないが、少なくとも彼女にとって、幼いころの記憶は、トラウマになっているのだろう。怖がらなくても大丈夫、とは言えない。人の心に根付くものは、そう簡単に取り除くことはできないのだ。だが、


 「お前の気持ちは分かる。けど、このままだと、お前はまた一人になってしまうんだ」


 「どうして?お兄さん、一緒にいてくれないの?」


 少女が、俺を見つめる。その目は、多くの諦めと、かすかな期待が宿っている。頭の中で必死に考える。こんな顔をしている子を引き離すのは心苦しい。しかし、一方で、ここで、彼女を迎い入れてしまえば、少女が成長する機会を失い、決して楽ではない道ばかりが現れるだろう。俺が決めきれないでいると、


 「でしたら、里親制度などはどうですか」


 「「里親制度?」」


 知らない単語に、俺たちは首をかしげる。それをみた警察官が説明してくれる。


 「里親制度、というのは、ほぼ、養子縁組のようなものなのですが、強いて言うなら、法律上の親子関係が存在しないこと、が特徴ですね」


 「親子関係が存在しない?」


 「はい、形は様々ですが、養子縁組は基本、法律上の親子関係を築けます。一方で、里親制度は、18歳までの子供を一時的に預かり、育てる制度でして、こちらは主に、実親が養育できない場合、一時的に、別の方に任せる、といった感じです」


 「なるほど」


 「仮に、母親が何かしらの理由でこれなかった場合、里親制度なら、警察沙汰にならないと思いますよ」


 「お兄さん、私、それ()()いい」


 「でも?」


 「うん、欲を言えば、お兄さんと家族になりたい。けど、甘えすぎは良くないとも思ってしまう」


 子供らしくない考えをしやがって......、まぁ、そういう奴だったな。賢いこいつはそんな風に考えてしまうのだろうが、俺から言わせてもらえば、まだ子供なんだ、少しぐらい我儘を言ってもいいと思う。それに、


 「なぁ、一つ、聞いていいか?」


 「......何?」


 「お前、虐待、受けていたよな?」


 「ッ!......うん」


 まぁ、普通は気づかないよな。何せ、見えないところに傷をつけているんだから。俺も少女の服を洗濯するときに見つけた、ところどころにあった血から、推測したに過ぎない。どうして隠そうとしたのかは知らないが、それは追々、聞いていくことにしよう。まずは、


 「児童虐待の場合、実親の了承がなくても、養子縁組で、この子を養子として迎い入れることはできるのか?」


 「そうですね、ただ、特別養子縁組、という制度のほうは使えません」


 「どうしてだ?」


 「そちらの場合は、夫婦で親になる必要があるんです。失礼ですが、あなた、まだ結婚されていませんよね?」


 「そうですけど、よくわかりましたね」


 「もし、夫婦であれば、普通は女性、もしくは、両方が来るものですからね」


 「だったら、俺たちはかなり浮いていますね」


 「まぁ、事情が事情ですから、仕方ないと思いますよ」


 警察官は、そう返答しながら、いくつかの資料を俺に渡す。


 「これは?」


 「児童虐待などに対して、どうするべきか書いてあるものです。そこに、養子縁組についても書いてあると思うので、そちらと、実際に、施設や弁護士のもとに赴き、確認しながらやることをお勧めします」


 「分かりました。ありがとうございます」


 俺たち、二人で話をしていると、ようやく状況についてきた少女が驚いた顔でこちらを見てくる。その顔からは、少しの申し訳なさと、大きな喜びを感じることができる。


 「ん、とりあえず、諸々の手続きをしに行くぞ」


 「うん!」


 そういい、微笑んだ少女の笑顔は、俺が見た今までの笑顔の中で、一番、幸せそうであった。


ーーーーーーーーーーーーーーー


 その後、無事、俺は少女を養子として、迎い入れた。そこからは大変な毎日だった。両親に説明しろと迫られたり、会社では養子の件と、上司の娘と同じ中学に通わせていることを伝えると、なぜか優しくなったりした。そして、中学、高校、大学へと少女は無事に進学し、遂に、


 「ようやくお前も、社会人か。なんか感慨深いよ」


 「もう、何言ってんの、お父さん。まだそんな年じゃないでしょ」


 「お前に言われると皮肉にしか聞こえないな」


 「はいはい、いいから、そこの食器、拭いて棚に戻しておいて」


 「娘が冷たい......」


 「はぁ~」


 といった風に、ごく普通の生活を送ることが出来ていた。しかし、俺には、一つ、大きな問題が残っている。


 「なぁ、いつになったら、孫の顔を見せてくれるんだ?」


 「なっ、何言ってんの、お父さん!//////」


 「いや~、親としては、孫の顔を早く見せてほしんだよ」


 「お父さんだって、見せてないくせに......」


 「赤ちゃんのころは確かに見せてないな、けど、ちゃんと、成長するお前は見せたぞ?」


 「ああいえば、こう言う......」


 「彼氏とはいい調子なんだろ?」


 「そうだけど///」


 「なら、時間の問題だな~」


 「......バカ///」


 こうして、俺たちは今日も、当たり前で、大切な日々を過ごしていく。


ーーーーーーーーーーーーーーー


※ある日のお話

 

 まだ、少女が、俺のことを「お兄さん」と呼んでいた頃


 「ねぇ、そういえば、どうして、お兄さんは私を拾ったの?」


 「ん?気になるのか?」


 「うん、とても」


 「そうだな、強いて言うなら、共感だよ」


 「共感?」


 「そ、俺も実は養子なんだよ」


 「えっ!?」

 

 「そんな驚くことでもないだろ?実際、俺は両親に似てないんだから」


 「そ、そうだけど......」


 「まぁ、お前みたいに捨てられたじゃなくて、交通事故で両親を亡くしてるから、まだ、お前の方が辛いけどな」


 「愛されていたなら、お兄さんの方が辛い。急に離れ離れになったんだから」


 「励ましてくれるのか?」


 「もち」


 そう言い、少女は俺の隣に座る。そして、


 「私はお兄さん、いや、『お父さん』の『娘』だからね」


 微笑みながら、そう言ってくれた。俺は、少女が『お父さん』と呼んでくれたことが嬉しく、少しだけ視界がにじんだ。


 「俺はいい娘をもったんだな」


 「私も、お父さんの娘になれて、よかった」


 この日、二人は、本当の『親子』になれた。


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