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ココロよりの幸せ

作者: アロマセラP
掲載日:2023/02/04

「話がある。今夜会えないか?」

それは唐突だった。電話の相手は大学時代の友人だった。

いつも明るい友人のまじめな声に一抹の不安を抱えながら、待ち合わせのレストランに向かった。

友人は先に来ているようで、待ち合わせと言ったらすぐに案内してもらえた。

俺はボックス席の友人の対面に腰を下ろした。友人の隣には見慣れない少女が座っていた。

「忙しいところすまんな」

「いや、もう繁忙期は過ぎてるからそこまでじゃない。ところで話っていうのは」

そういって隣の少女を見る。友人は独身だったはずだ。この子に関することだろうか。

「察しがいいな、まあ当然か」

そういうと友人は数枚の書類を取り出した。

「どういうことだ?」

俺は鋭い目で友人を睨み付けた。書類の中にあるものを見付けたからだ。

養子縁組に関するものだ。

「この子をお前に任せたい」

「そもそもこの子は誰なんだ?」

「すまない、その話からだったな」

友人は少女の方を見る。

「彼女の名前は月野星奈、俺の親戚の子ども、いや」

友人は少し間を開けた。

「子どもだった」

「だった?」

過去形の言い方に首をかしげる。もしかして両親はもう。

「捨てられたんだよ。両親に」

俺は目を見開いた。予想より最悪だった。

「捨てられたって、この子、まだ」

改めて少女の方を見る。どう見ても10歳前後にしか見えない。

「これを見ればわかるはずだ」

友人は1枚の紙を渡してくる。戸籍抄本だ。確かに両親の名前はない。完全に縁を切られているようだ。

「それでなんで俺なんだ。親戚の子なんだろう?お前が面倒見ればいいじゃないか。施設がダメなら」

「出来たらそうしてるさ。俺は明後日から1年近く海外を転々としないといけないんだ」

「この子はまた捨てられるってことか」

「そうじゃない、と言いたいが、この子にとってはそうなるのかもな」

「お前!」

俺は友人につかみかかろうとする自分を必死で抑えた。俺は頭を掻いた。

「だからってなんで俺なんだ。俺は独身で子育ての経験なんてないぞ」

そんな俺に子育てなんか無理だ。

「そんなことは分かってる。でも、この子が選んだことなんだ」

「どういうことだ?」

この子が選んだ?

「お前を含めた数人の写真をこの子に見せたんだ。そしたらお前を選んだ」

俺はため息をついた。この子は俺に何を見出したのだろう。とはいえ、ここで俺が突き放してしまえばこの子は帰る家を失うことになる。

「分かった。だがあまり期待はするなよ」

「ありがとう。よろしく頼む」

俺は書類を受け取り、レストランを後にした。後ろには星奈がいる。

「……」

なんて声をかければいい。こんな、目に光のない少女に。

「……帰ろうか」

星奈は驚いたようにこちらを見る。帰る、という言葉に反応したように見える。

星奈は俺の方をじっと見つめると静かに頷いた。


翌朝、俺は2人分の朝食を作った。

星奈も俺が起きたのと同じくらいで起きてきたが、作っている最中、食事中と一切会話はなかった。朝食を出した時少し驚いたような顔をしたことは気になるが。


今日の夕飯は少し豪華にしようと思った。捨てられたということはあまりいいものを食べられていなかった可能性がある。贅沢して寿司でも買って帰ろう。


「ただいま」

家に帰ると星奈はリビングでテレビを見ていた。

「星奈ちゃん。ご飯買ってきたよ。一緒に食べよう」

俺は買ってきた寿司を食卓に並べた。今の寿司はワサビは別についてくるからサビ抜きを頼まなくていいのは楽でいい。

「お寿司」

星奈がポツリとつぶやいた。

(そういや星奈ちゃんの声、初めて聴いたな)

インスタントの味噌汁を入れて席についたが、なぜか星奈は席についていなかった。

「どうしたの星奈ちゃん?もしかしてお寿司嫌いだった?」

生魚が苦手な人は大人でもいる。これは確認しなかった俺のミスだ。

「これは星奈の分なの?」

他に誰の分だというのだろう。

俺がそうだというとようやく席についた。どうやら生魚が嫌いなわけではなかったらしい。

食事中に星奈の好きなもの、嫌いなものを聞いてみた。どうやら特別好き嫌いはないらしい。

「おじさんは」

「ん?」

星奈から話を振られた。

「おじさんはどうして星奈に優しくしてくれるの?」

「優しく?」

自分は優しくしているのだろうか。

「おじさんは普通にご飯をくれるし、殴ったり怒鳴ったりしないし」

俺は目を見開いた。そして同時に彼女の境遇ではそれが普通だと感じる環境だったのだと思い知った。

「星奈ちゃん、こっち来て」

星奈は黙って俺の前に来た。彼女の身体が震えてるのが分かった。大人が怖いのだろう。

「え?おじさん?」

俺は彼女を優しく抱きしめた。

「おじさん、泣いてるの?」

星奈に言われて気が付いたが、どうやら涙を流していたようだ。

俺はこの子には幸せになってほしいと心から思った。


「買い物?」

次の休日、俺は星奈を連れて買い物に行くことにした。

「そう、星奈ちゃんの服とかも買っとかないと」

彼女が家に来たときは必要最低限の物しかなかった。

星奈は黙って頷いた。


買いに来たはいいが、今の女の子の流行りなんてわからない。とりあえず本人に選んでもらうか。

「どれがいい?」

星奈も俺の方を見ていた。選んでくれと言っているようにも見える。

「どんなのが好き?」

首をかしげる星奈。

服に対してあまり関心がないのかどれでもといった感じだ。

「すみません、この子に合いそうな服いくつか見繕ってもらえますか」

悩んでいても仕方がないので店員さんに選んでもらうことにした。

店員さんはすぐに数着服を持ってきてくれた。

試着した星奈を見た。多分似合っていると思う。

選んでもらった服を買い、ショッピングモールを見て回る。星奈が何に興味を示すのか見てみようと思ったのだ。

星奈が喫茶店の前で止まった。パフェの食品サンプルをじっと見ている。

俺は笑いそうになるのをこらえながら「小腹がすいたし、ここで何か食べようか」と言って、喫茶店に入っていった。ついてきた星奈は少しだけ嬉しそうにしていた気がする。

星奈はずっとパフェのページを見ていたが、しばらくして、パンケーキを指さした。

(遠慮なんてしなくていいのに)

パフェは少しばかり値が張るが別に払えない金額じゃない。

俺は店員を呼ぶと、自分用にコーヒーとサンドイッチを、星奈用にチョコレートパフェとカフェオレを頼んだ。

驚いてこちらを見る星奈に俺は「遠慮しなくていいよ」というと、星奈が驚いた顔のまま頷いた。

しばらくして来たパフェを星奈はきらきらした目で見ていた。

おいしそうにパフェを食べる星奈を見て俺は頼んでよかったと思った。

その後星奈用の食器などをいくつか買って帰宅した。心なしか距離が近くなった気がする。


「おじさん、これ」

星奈が1枚のプリントを渡してきた。授業参観の案内だった。俺の仕事は、土日祝日は休みなので問題なく出られるだろう。

「この日は特に用事は無いな。大丈夫、行けるよ」

星奈が満面の笑みを浮かべた。授業参観に行くくらいでと思ったが、彼女の境遇を考えれば授業参観で家の人が来たことが無いのかもしれない。


授業参観当日、教室についた俺は星奈を探した。

(あ、いたいた)

窓側の真ん中に星奈がいた。どうやら星奈もこちらに気が付いたようだ。

先生の質問に元気よく手を上げ、答えた後にこちらに向かって笑ってくれた。

(まったく)

授業参観が終わると防災訓練からの保護者が迎えに行っての下校だ。俺は星奈を迎えに行った。

星奈は一緒に帰れることがうれしいのか鼻歌交じりで歩いていた。

「こういうの初めてだから、なんか楽しいな。授業参観が楽しいって思ったの始めて」

俺は優しく星奈の頭を撫でた。星奈はくすぐったそうに、でも嬉しそうに笑った。


俺と星奈の生活は何事もなく過ぎていった。星奈は小学校を卒業し、中学生となった。

「どう、似合う?」

制服を着た星奈がくるりと回る。遠心力でスカートがふわりと広がる。

「似合ってるぞ。まあ、制服が似合わない人なんてなかなかいないけどな」

「もう!余計なこと言わないで素直に褒めればいいの!そんなんだから彼女できないんだよ」

「はは、そうかもな」

そもそも作る気はないがな。

「そろそろ行くぞ。入学式から遅刻なんて笑えないからな」


星奈は部活にも入り、帰りが遅くなる日も出てきた。

「ただいま、ってさすがにまだ帰ってないか」

今日は会社の都合で帰宅が早くなった。星奈は部活の関係で6時ごろまで学校にいるのでまだ帰っていない。

俺はコーヒーを入れてテレビの前に座った。


※          ※


「あれ、開いてる」

私が学校から帰ると家の鍵が開いていた。珍しい、おじさんがすでに帰ってきてるみたいだ。

「ただいま」

返事はない。寝ているのだろうか。

私がリビングに入るとやはりというべきかおじさんがソファーで横になって寝ていた。

「もう、おじさん。ここで寝たら風邪ひくって私によく言ってるじゃん」

軽く揺すってみたが起きる気配がない。そういえば昨日も夜遅くまで起きていたなと思い出す。

「うーん、そうだ!」

私は棚の方へ向かった。

「この辺に、あった!」

耳かき棒。よくおじさんにしてもらっていた。だから今回は私から。

「えっと、あ、やっぱりやってない。私には結構言うくせに」

私はそっと耳かき棒をおじさんの耳に入れた。


※          ※


俺は耳に違和感を感じて目を覚ました。目の前には見知った制服があった。

「あ、おじさん。動かないで」

「星奈?」

星奈の制止を聞いて動きを止めた。そして、星奈が耳かきをしてくれていることを理解した。

「あ、おじさん起きちゃった?こっちもう少しで終わるからもう少し待ってね」

しばらくして耳かき棒が耳から抜かれる。

「はい、反対向いて」

俺は黙って反対側を向いた。

「おじさん、私にはよくやってくれるくせに自分は全然やらないんだね」

「そうだな、最近忙しくてな」

「言ってくれれば私がやるよ?」

「いや、それは」

さすがに自分の娘みたいな子にやってもらうのはどうなんだろう。今実際にやられているのだが。

「いや、なの?あ、もしかして痛かった?」

「いや、痛くはないよ」

「じゃあ、なんで?」

「子どもに耳かきしてもらう大人っていうのが、な」

星奈の手に力が加わる。

「子どもって、私はもう中学生だよ」

「中学生はまだ子どもだよ。高校生くらいまでは子どもかな」

「むー」

不貞腐れたような声を上げながら耳かきを続ける。どうやらやめてくれる気はないらしい。

「はい、終わり。あ、今日は夕飯私が作るね」

「部活で疲れてないか?」

「ソファーで寝てた人に言われたくない」

そういって星奈はキッチンに向かった。中学に入って星奈も料理をするようになった。俺は冷めてしまったコーヒーをすすりながら星奈が料理をする音に耳を傾けた。

包丁で食材を切る音、食材を焼く音、今日は生姜焼きみたいだな。

「おじさん、ご飯できたよー」


ある日、星奈が風邪を引いてしまった。

「こほ、こほ、ごめんなさい、おじさん」

「別に謝ることじゃないさ」

「でも、会社」

全くこの子は。

「大丈夫、今はそんな忙しい時期じゃないし、俺一人いなくても何とでもなる」

そういって星奈の頭をなでる。

「おかゆ作ろうと思うけど、食べられるか?」

「うん、食べる」

俺はキッチンに行き、おかゆを作った。

「お待たせ、食べられそうか?」

星奈は俺の顔をじっと見た後、黙って口を開けた。

俺は一瞬ぽかんとしたがすぐに意図を察した。

「ほら、あーん」

「あーん」

しかし、美味そうに食べるな。別に特別なものを入れたわけじゃないんだが。

「おじさん、次」

「はいはい、あーん」


※         ※


「そういえばさー、私この間告白されてさー」

「え!?だれから!?」

「野球部のー」

クラスの女子が野球部の先輩に告白されたらしい。確か結構カッコいい人ではあった気がする。

「ねえ、星奈はどんな人がタイプなの」

「私?私は、どうだろう」

考えたことが無かった。私の好きなタイプ、好きな人。

考えて最初に浮かんできたのはおじさんだった。ただ、「おじさん」と答えるのはなんだか恥ずかしく、しかし、他に伝える言葉が思いつかなかった。

「うーん、考えたことないなー」

「えー?例えばー」

クラスの子がサッカー部やバスケ部の先輩や、同級生のカッコいいと言われてる男子の名前を出すがどれもピンとこない。

「もしかして、年下好き?」

「年下?うーん、年上の方がいいかなー」

「もしかして、高校生くらいがいいとか?」

「同級生や一つ二つ上は興味ない、みたいな?」

「そう、なのかな?」

「何かはっきりしなーい!」

その後のどんな人が好みなのかという話で盛り上がった。


「おじさん!これ!」

星奈がチラシを突き出してきた。

「秋祭り?」

それは秋祭りのチラシだった。来週の日曜日だ。昔一度一緒に行ったことがあったな。

「友達と一緒に行くのか?いいよ、行っておいで」

「ち・が・う!」

星奈が憤慨したかのように頬を膨らませた。

「一緒に行こう!」

「俺と?」

「他に誰がいるの!」

俺は予定を確認した。別段予定は入ってないな。

「予定は、ないな。いいよ」

「やった!約束だよ!」

星奈はスキップ気味に自室へ戻っていった。


「え?仕事?日曜日なのに?昨日も仕事してたよね」

「急ぎの案件が入っちゃったんだ。昨日までに終わらせられれば良かったんだけど。祭りは夕方だよね、それまでには帰れるようにするよ」

「うん、でも、無理はしないでね」

「分かってる」

本当にいい子だな。こんな子に悲しそうな顔をさせてしまった。なるべく早く仕事を終わらせよう。


※          ※


「可愛い!すごい似合ってる!」

「ありがとう、でも私が借りていいの?」

「いいのいいの、他に着る人いないし」

私は友達の家で浴衣を着ていた。

「そういえば、今日は家の人と一緒に回るって言ってなかった?」

「あ、うん、その予定だったんだけど、急な仕事が入っちゃったらしくて」

「日曜日なのに!?」

「うん、でも、祭りまでには帰ってくるって言ってたから」

「でも、もうすぐ」

「うん」

携帯を見る。まだ、おじさんから何の連絡も来ていない。祭りが始まるまであと1時間もないのに。

「とりあえず、お菓子でも食べよう!」

友達が気を利かしてクッキーを持ってきてくれた。和服にクッキーは少しシュールな気がする。


結局おじさんは祭りの始まる時間には帰ってこなかった。少し前に「少し遅れる」というメールは来たが。

秋祭りは小さな神社のお祭りだ。私は神社の鳥居の前にいる。

「おじさん」

私は駅の方をずっと見つめていた。おじさんが来た時に見逃さないように。

祭りが始まり1時間ほどが経過したあたりで携帯が震えた。おじさんからメールが届いたのだ。

私はすぐにメールを開く。駅についたらしい。

少ししておじさんの姿が見えた。

「おじさん!」

私は駆け足で近寄った。おじさんも急いできたのだろう。息が上がっている。

「ごめんね、せっかくのお祭りだったのに」

「大丈夫だよ。お祭りには間に合ったし」

おじさんが私の服装を見る。

「その浴衣は?」

「友達に借りたの、秋祭りに行くって言ったらせっかくだからって」

私はおじさんの手を取った。

「早く行こう!」

「そうだな」


※        ※


秋祭りは当然と言えば当然だが、人でごった返していた。

「何か食べたいものあるか?」

屋台には焼きそばやらたこ焼きやらお好み焼きやらが並んでいた。時間も時間なのでまずは何か食べようと思ったのだ。

「うーん、あ、あれ!」

星奈が指さしたのは、ドネルケバブだった。

「辛さが選べるみたいだな。どれがいい?」

「一番辛いやつでしょ、やっぱり」

一番辛い奴やつ、この激辛ってやつか。

「食べられるのか?」

「大丈夫!たぶん」

たぶんって。まあいいか。

俺はケバブの中辛と激辛を一つずつ頼んだ。

「はい、激辛ケバブ」

星奈は渡されたケバブを嬉しそうに受け取り、真剣な顔でケバブを見つめた。

「い、いただきます」

思いっきりかぶりつく。瞬間目を見開き、涙目になる。

「か、かりゃい」

だから言ったのに。

「こっちと交換するか?中辛はそこまで辛くないぞ」

「うん」

激辛ケバブと中辛ケバブを交換し、食べてみる。確かにこれは辛い。人によっては痛く感じるレベルではないだろうか。

「あっ」

星奈が顔を赤くしてケバブを見ている。

「どうした?そっちでも辛かったか?」

「ううん、辛さは大丈夫」

星奈は自分のケバブを食べ始める。ぼそっと「かんせつ」と聞こえた気がする。



祭りの終わりの時間が近づき、花火を打ち上げる時間になった。神社のお祭りということもあり、花火はそこまで派手ではない。

「たーまやー!」

打ちあがる花火に合わせて星奈が掛け声をする。

「来年は花火大会に行ってみるか」

「花火大会!行きたい!」

花火にもかき消されない声で星奈が答える。輝かせている眼はすでに来年を見ているようだった。


帰り道に星奈の友人とであった。

「あ、星奈ちゃん。その人が新しいお父さん?」

「新しいって、もう4年近く前だよ」

こういう話をするということはこの子は星奈の事情をほとんど知っているみたいだな。

「星奈に浴衣を貸して頂きありがとうございます」

「いいんですよ、余っていたものですから」

俺は友人の母親にお礼をいい、星奈を預けた。さすがに浴衣のことは分からない。

先に家に戻っていようと思ったが夜に1人で歩かせる訳にも行かないので俺もついて行くことになった。


帰り道はたわいの無い話をしながら歩いた。彼女の楽しそうな顔をみると祭りに来れて良かったと改めて思う。


※ ※


「でねー」

私は友達と一緒に下校していた。部活と帰る方向が同じなので自然と仲良くなった。

「星奈ちゃんってお父さんの話多いよね。もしかしてファザコン?」

聞かれてドキッとした。

「どうなんだろう。おじさんは一応お父さんになるんだよね。うーん」

「その呼び方も変じゃない?お父さんじゃないんだ」

「最初にそうやって呼んでからずっと変えてないんだよね。変えた方がいいのかな」

でも何故かおじさんをお父さんと呼びたくないと思ってしまう。彼はあの人とは違う。

「あれ?」

友達が私の家を見て首を傾げた。見ていたのは表札だった。

「星奈ちゃんの苗字って月野だよね?」

「そうだけど?」

私は首を傾げた。なぜ今更そんなことを聞くのだろうか。

「ほら、表札」

指さされた表札にはおじさんの苗字が書かれていた。

「ああ、これはおじさんの苗字だね」

「星奈ちゃん、おじさんの養子なんだよね?」

「多分、そうだと思うけど」

「養子になったら苗字も変わるんじゃなかったっけ?」

「え?」

私はおじさんからそんなことは言われていない。一緒に暮らし始めた時に変えたら混乱すると考えたのだとしても、中学に上がった時に変えれば問題も少なかっただろう。しかし、私はまだ月野のままである。

「おじさんに聞いてみる」

また明日と別れた彼女が申し訳なさそうな顔をしていた。


私はおじさんが自分を養子にしていない理由を考えた。おじさんは優しい、なにか理由があるはず。そう考えるが思いつかない。いや、一つだけ思いついたものがあった。とても嫌な考えが。

(おじさんもいつか私を捨てるつもりなんじゃ)

おじさんはそんな事しないと思っても、その考えを拭うことが出来なかった。

私はきちんと養子になっていることを信じるしかなった。


        ※        ※


「ただいま」

いつものように家に帰り、いつものように星奈の作った夕飯を食べる。しかし、星奈の様子がなんだかおかしい。

「なあ」

「ねえ、おじさん」

同時に口を開く。星奈がこちらを真っ直ぐ見つめている。俺は星奈に先を促した。

「私の苗字ってまだ月野だよね」

「そうだな」

そう、実は俺は彼女を養子にしていない。

「何で……」

「ん?」

「何で!」

星奈が音を立てて立ち上がった。

「せ。星奈?」

俺は訳が分からず、動揺する。確かに養子にしていないことは話していなかったが、それによって自分たちの関係が変わるわけではない。

しかし、次の星奈の言葉で俺は自分の行動を公開することになる。

「じゃあ、私たちは家族じゃないの?」

涙目になりながら訴えかけてくる星奈。

「違う、そういうつもりで」

「何で私に優しくするの!?どうせ、おじさんも私を捨てる気なんでしょ!」

制止しようとするも星奈の言葉は止まらない。

「捨てるつもりなら最初から優しくしないで!そんな優しさ私はいらない!」

俺は星奈に近寄り、頬を叩いた。そして思いっきり抱きしめる。

「お、おじさん?」

戸惑って少し落ち着いた星奈。

「おじさん、泣いてるの?」

気が付いたら涙が出ていた。

「ごめん、ごめんな。俺の勝手なエゴでお前を傷つけて」

腕をばたつかせていた星奈は俺が話し始めてからおとなしくなった。

ただひたすらにごめんと謝り続ける俺に星奈が聞いてきた。

「ねえ、どうして私を養子にしなかったの?」

「簡単に言うと、俺をいつでも捨てられるように、だな」

身体を離し、向かい合う。

「私がおじさんを捨てる?」

俺は頷き、続ける。

「お前もいずれ恋人が出来て、自分の幸せを見付けて、幸せになる日が来る。そうしたら俺のことは忘れてくれていい」

「おじさん何言って」

「お前は家族関係でつらい目にあった。だから家族というしがらみがない方がいいと思ったんだ、俺の勝手な思い込みだったみたいだけど」

星奈は目を見開いてこちらを見ている。

「安心していい。その時まではちゃんと面倒見るし、俺がお前を捨てることはないから」

「おじさんが幸せにしてくれるんじゃないの?」

すがるような視線が突き刺さる。

「幸せは、誰かにしてもらうものじゃない、自分でなるものだ」

だから俺が幸せにしてあげることはできないと首を振る。

「そう、分かった」

どうやらわかってくれたよう、

「私はおじさんと幸せになる!」

「は?」

この子、とんでもないこと言い出してないか?

「おじさんと幸せになる!」

「お前、何言って」

「どうせ、おじさんは自分の幸せは無視するんでしょ?私の幸せのためとか言って!結婚とかしないで」

図星を突かれ、言葉に詰まる。

「ほらやっぱり。それに、私はおじさんの幸せを犠牲にしてまで幸せになりたいなんて思わない」

星奈が距離を詰めてくる。

「私、今幸せだよ。この暮らしがずっと続いてほしい」

「だからって」

なら、今かでも養子縁組を。

「今更養子にしようだなんてダメだよ。そんなことしようとするならおじさんの寝込みを襲って既成事実作っちゃうから」

「おまっ」

驚いて後ろに下がったところにさらに距離を詰めてくる。その瞳はまっすぐ俺を見つめていた。

「本気なんだな」

「本気も何も、最初からおじさん以外ありえなかったから」

そこまで言われたらこちらもうなずくしかない。

「分かった。一緒に幸せになろう」

差し出した手を星奈は力強く握り返してくる。

「うん、これからもよろしくね、おじさん!」


「大好きだよ」


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