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フラグは折れた、が

そして年月は流れた。


「アリゼ、またダメだったのか?」

「はい、ダメでした。蕾までは行ったんですけどねぇ……」


アリゼは温室で植木鉢を抱え、はぁとため息をついている。

その植木鉢には、小さな蕾が萎れているプルメリアの木が生えていた。



「何回目だ?」

「もう軽く十回以上は」



そう、あれから十年以上の月日が流れた。

二人は順調に成長し、アリゼは十八才、兄のクロビスは二十四歳になっていた。



「こんなに失敗するってやっぱ呪われてんのかな。あ、本当に呪ってんのかな、お母様が」

「おい、親にそんな発げ…って否定はできんかもな」



クロビスはいつも通り、アリゼの頭を軽く突っついては笑っている。そして二人はいつも通り、突っつき合ってじゃれている。


いつも通り……ということで、こんなことができるということは、兄妹仲は至って良好。つまり、見事に『家族から孤立するクロビス』のフラグは折れ、女性不信にならずにすんだのだ。



しかし……これはまた予想以上に困った方向に行ってしまい、色々とあぐねいている最中だったりするのだ。




「アリゼ、いた…ってクロビスも居るのか」

「お父様。お帰りだったんですね」


二人の元にやってきたのは、伯爵家当主であり二人の父親、ベルトラン・ギルベール伯爵。

まぁアリゼ基準だと至って普通の中年親父である。


幼い頃と同様に、父は領地の滞在期間の方が長いので、あまり王都の屋敷には姿は見せない。母と弟も、ずっと領地の方に篭りきり。


それに比べてアリゼとクロビスは、あのつまみ細工の商会の経営の為に、ほぼ王都に居る。今はほぼクロビスが経営権を持っているからだ。アリゼも当然、クロビスのサポートをしている。



だがここ最近、父ベルトランは、よく王都に来ている。

その理由が……あれである。


「ああ、それでアリゼ。さっき友人と会ってな、その子供と会ってみてはどうかという話になったんだが」

「そうですか、一度拝け…お兄様!」


クロビスは差し出された紙─プロフィールが書かれた紙を横取りし、じーっと目を通す。


「何々?サンベール子爵のご子息…うーん、却下だな」


一通り目を通すと、そのまま紙をビリビリと破る。



「あそこはダメですよ。もっと財力のある家でないと。あそこの領地は最近不作が続いているので危ないじゃないですか」

「だったらこの前の、あの伯爵家の…」

「そこの領地はここから丸三日かかる土地じゃないですか。しかも王都の邸にはほとんど顔を見せない。そんな遠いところにアリゼを行かせるのは不安です」

「だったらやっぱこの前の子爵家の孫は…」

「ダメダメ。あそこはそもそも爵位を持たない次男家だし、大奥様は大変躾に厳しい。アリゼにそんな堅苦しい生活をさせる気ですか?」



クロビスは有無を言わさず、父にNOを突きつける。


(いや……これ私の縁談なんだけどな………)

アリゼとしては手っ取り早く、適当な、普通の人と結婚したいと思っているが、父が縁談を持ってくるたびにクロビスが吟味し、結局突き返してしまう。

まぁつまり、アリゼの縁談を全て断ってる張本人がクロビスなのである。



「そもそも私が結婚してから、アリゼを嫁に出すのが筋ではないですか?」


そうクロビスが言うと、まぁ父も納得せざる得ないので黙るが──二人の心中はこうだ。


(結婚する気無いだろ、この人)



当然ながらそこそこ良い歳のクロビスには数々の縁談が来ている。

それこそあの見た目であるから、まぁ当然と言える。しかしクロビスは何かと理由を付けては断っており、一向に結婚する気配がない。



そしてアリゼも、もう結婚適齢期に突入している。

この国の女子は十六歳頃から縁談話がチラホラ持ち上がり、十八歳から二十歳にかけてが結婚ラッシュのピークである。

なので、そろそろ決めなければいけないのだが……クロビスがこんな調子なので、一向に嫁ぎ先が決まっていないのである。


それに親は…特に父は焦っているのである。

早く二人──特にクロビス を結婚させようと奔走しているが、成果が上がっていない。




まぁつまり、まとめるとこういうことだ。


クロビスは女嫌いから、極度のシスコンへ進化を遂げたのであった。




とは言え、アリゼの正直な気持ちとしては、クロビスにこんな扱いをされるのは──悪くはないと思っている。



なぜなら社交界ではクロビスの隣に居ることで、常に注目の的だ。クロビスにエスコートされるアリゼを、数々のご令嬢が羨ましいという目で見ているのだ。


友人や恋人の立場であったなら嫉妬するだろうが、アリゼは妹なのだ。血の繋がった妹に勝ち目は無いので、みんな張り合う気は起きないらしい。そのことが余計に優越感に浸らせている。

それに祖母譲りの黒髪のクロビスと、祖父そっくりのアリゼは、年配の方に昔を思い出すとウケも良い。

まぁつまり、どこでも良い扱いをされているのである。



それに…やっぱり前世の記憶があれど、アリゼはこの家で孤独だったのだ。

娘に興味がない母親。不在が多い父親。

その中で心を許せたのはクロビスだけだった。



……とは言え、多少行きすぎている感は否めない。




「それはそうとお父様、今度のアングラード公爵様の誕生日パーティーですが、私もお伺いしてよろしいのですか?」


普通は公爵主催のパーティーというものは、アリゼのような格下の伯爵家の、当主ならまだしも"子供達"のみで行けるような場所ではない。

本音を言うと……アリゼは避けたいのだが。


「あぁ、公爵の初の御披露目を兼ねたものだから大規模に行うんだそう。私は仕事が終わるかわからない。だから代理にクロビスと、アリゼもパートナーとして同行しなさい」

「とか言ってアリゼに結婚相手を見つけて来いと言うのが目的なんでしょう?父上」


クロビスがそう言うと、父はグギッとした顔で彼を見つめる。


「恐らく友人の息子という人が何人もアリゼの元に来ると予想している」


父は目を反らして空を仰ぐ。

図星か。



「もちろんちゃんと吟味さしていただきますよ?アリゼと釣り合うかどうかを」


にっこりとそう言って笑うクロビスに、父は恐怖に震え──アリゼははぁ、と大きくため息をついた。

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