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フラグへし折り作戦3

「お父様はどちらに?!」


クロビスが叫びながら、書斎のドアを開ける。

書斎では母ジョシアーヌが執事と共に、書類仕事をしているようだ。



「何の騒ぎですか?」

ジョシアーヌは眉間に皺を寄せて、二人を睨む。


「お義母様、これはアリゼが作ったそうです」

クロビスがボールブーケを見せると──より一層、眉間に皺が寄った。


(ど、どうしよう……)

よくよく思えば、確かに絹のハンカチを無断で切ったことはまずいだろう。

それに子供が勝手に火を使うのはまずかった。

とは言えいきなり連れて行かされてこの仕打ちは、どうすればいいのかわからない。



「アリゼ」

「はい?」

「あなた、これはどうやって作ったの?」

「ええっと、何気なくハンカチを折った時、それが花弁の形に見えたので、固めてみようと……」


どうしよう、どのタイミングで謝るべきか。

うつむきながらも顔色をチラチラ伺いながら話していたけれど──予想と違って、次第にジョシアーヌの表情は柔らかくなっていく。



「変なものばっかり作ってると思っていたけれど」

ふうと息を吐いたジョシアーヌは、アリゼの前に立ち、しゃがんで視線を合わせる。


「一度それをお父様に見せてみましょう。アリゼ、あとあなたに手伝いを何人か付けてみましょう。他にどんな花を作ることができるか、試してみてちょうだい」

「はい?わかりましたけど……?」



それからしばらくして。

アリゼの部屋では、メイドが数人がかりでつまみ細工の花弁を作っている。

それをアリゼはひたすら繋ぎ合わせて、花の形にしていく作業をしていた。


「実はうちの養蚕業が、今危機なんだ」

クロビスはそれを見ながら、ポツリとアリゼに説明を始める。



「蚕の大量死で、今年の出荷量が大幅に減る見込みらしい」

「ええ?!」


実はこのギルベール伯爵領は、養蚕業によって支えられていた。

蚕から絹糸を、絹糸からシルク生地を生産し、それが領地の一番の収入源であったのだ。


「今年はシルクの生産数が大幅に落ちる。だから何か()()()()()()()()()()()のあるものを探していたんだ。刺繍や染色は、どうしても長年の技術が必要になってくる。でもこれだと……アリゼの年齢でもできるのだから、皆が平等に作ることができるんじゃないかと思う」


あぁ、なるほど……と納得はする。

父ベルトランが屋敷に不在の理由も、領地の為に奔走していたからなのかと。



アリゼはひたすら、さっきのプルメリアとは違う形の花弁──剣つまみと言われる尖った花弁のパーツ を半球のガラスに貼りつける。すると大きなダリアの花が出来上がっていく。

それをクロビスは釘付けになって見ている。


「アリゼは器用だな」

「えへへ、ありがとうお兄様」


固まったワックスを火で炙ろうとしたら、代わりにクロビスが手に取って火で炙る。


「止めるのはワックスじゃなくて、(にかわ)の方がいいかもな」

「それはいいですね」


膠とは、動物性のゼラチンの接着剤みたいなものだ。

確かに強度を考えると、膠の方が向いているのかも知れない。



「そう言えば、アリゼはよく奇妙なものを作っていると聞いていたな」


クロビスが目をやったのは、壁…に飾られている何やらよくわからないリースやオブジェ。

庭で拾った木をつなぎ合わせたリースや、拾ったもので工作したものなど、アリゼ作の色々な物が飾られているのだ。


一応前世では、これらは"おかんアート"と呼ばれる部類で、貰われて嬉しいものではないのは知っている。

だから一人で作って、一人で作った時の達成感に浸り、一人で飾って楽しむだけだった。



「私は何かを作るのがすごく好きなんです」

「将来は、そんな仕事がしたいとか?」


確かにアリゼ的には、家を出て仕事に就いて一人で生計を立てるのが理想だ。だが今のこの時代、貴族のご令嬢では不可能だということも知っている。


「私はお兄様と一緒に楽しく暮らしていけたら、それでいいです」


そう言って笑ってみせると、クロビスも照れたように微笑んでいた。



そして数日後。

父ベルトランが帰宅し、すぐに会議が行われた。

アリゼはひたすら「すごい!」と褒められ、大量にできたつまみ細工の花を基に、マニュアルとレシピが作られることになった。


「これを少ない絹の生地で作り、売り出してみようと思う」



そしてその作戦は成功し、何とかギルベール領は持ちこたえることができた。

ベルトランも自宅に居ることが増え、前よりもクロビスが孤立することは無くなった。きっとあの原作のままだと、資金集めや領地改革で家に戻らなかったのだろう。



そしてもう一つ──予想だにしないことが起きた。


その日アリゼとクロビスは、神妙な顔をした両親に呼び出された。「二人に話さなきゃいけないことがある」と言われて。


何か重大なことが起きたのか?!とアリゼもクロビスも動揺していたが──二人を前にした両親は、なぜかにっこりと微笑んだ。



「家族がもう一人増えることになった」

そう言った父ベルトランは愛おしそうに、母ジョシアーヌのお腹に手を当てている。


(えっ……)


「おそらくあと半月後には産まれるわ」

ジョシアーヌもうっとりとした目で、お腹を撫でている。



(原作変わりすぎー!)

そしてまさかの、弟が誕生したのである。

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