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帰国してから

「そっか、グレコワール卿が……」


報告を一部始終聞くと、ヨエルはがっくりと肩を落とし項垂れた。

アリゼが帰国すると、早速ヨエルがギルベール家の屋敷を訪問してくれたのだ。



「遺骨は無事、ペトラ夫人や家族の元に届けさせていただきました」


帰る途中には、ペトラ婦人の元に寄った。

骨が入った小さな箱を見た瞬間──ペトラ夫人は泣き崩れていた。

丁寧に保管した遺髪を愛おしそうに頬擦りしている姿を見ると、その場に居た全員が泣き崩れていた。



「今、お兄様が陛下に謁見しています。これで一段落するとは思います」


これでベッティーニとストルティー帝国の癒着の件。

インリアで起こった騒動。

その殆どが、一度落ち着く見通しが立ったはずだ。



「非常に大変だったな、アリゼ」

「無事に帰ってくることができたのは、あなたのおかげです。あなたからの手紙に勇気付けられたんです。だから絶対に、帰ってこようと思ったんです」


そこまでの危険は無い旅ではあったが、勿論心が折れそうな時はあった。

特にあのグレコワールの騒動の時は余計に。


それでもしっかりと自分を保てたのは──ヨエルか待っていたからだ。

絶対にヨエルの為に生きて帰る。そう強く思っていたからだ。



ヨエルは照れたように、頬を染めて口角を上げる。

「急いだ甲斐があった」


アリゼも思わず目を細めた。


「それで、あなたにも見ていただきたいものがあるんです」


アリゼはワゴンに乗せてあったパンを取り出し、ヨエルの前に出した。


「これは?」

「インリアで繁殖している"雑草"から作ったものです」


パンを前に沈黙する二人。

ヨエルは一瞬だけチラッとアリゼを見ると──そのまま勢いよくかぶりついた。

アリゼはその様子をじっと見つめる。



「……どうですか?」

「………」

「……そうなりますよね」


ヨエルは神妙な表情で手に取ったパンを眺めている。

ここ最近、そのパンを食べた人達は皆そんな表情をしていた。そして次に言うのは──



「旨すぎる」


ヨエルはものすごい血相で身を乗り出す。



「これが雑草?!雑草なのか?!」

「はい、ライ麦に非常によく似た雑草なんです。向こうの主食のお粥にすると、美味しくないから避けられていました。でも一旦粉に曳いてみると、すごく美味しいことがわかったんです。これで私はあの芋からの粉も混ぜて、ビスケットを焼いてお菓子を作ってみようと思ってます。この粉は貴重なので、混ぜた方がコストはかからないと思ったんです」


今の段階で、その粉──アリゼも『小麦粉』と名付けようと思っているもの は、まだインリアでも量産化はできない。これから栽培方法を確立させるまでにも数年はかかるだろう。

だからちゃんと安定した量が収穫できるまで、"何か"と混ぜながら使用するのが一番なんじゃないかと思ったのだ。



すると誰かが部屋のドアをノックする。

ドアを開け現れたのは──クロビスだ。



「お兄様」

「今戻った」


そして一度ヨエルをチラッとだけ見ると、深々と頭を下げてアリゼの隣に座る。


「アリゼから大まかなことは聞いている通り、ベッティーニ家のことについては近い内に王家から説明があると思う……恐らくディエゴ卿には処分が下る。一応、あなたは親戚に当たるのだから聞く権利があるし、聞かなければいけないと思う」

「覚悟はしている」


ヨエルはきちんとクロビスに目を据える。

親戚を失っても、この国を背負う"公爵"としてブレない。そんな決意を感じた。



「今日はあなたに、一つ頼みがある」


クロビスが懐から取り出したのは、小さな麻の袋。

中には茶色い小さな実が、ぎっしりと入っている。



「これは?」

「インリアに生えていた"強害雑草"を脱穀したものの一部です」

「……これか」


ヨエルは手に持っていたパンを指した。


「何度かアリゼが試してみたが、どうも殻が固くて曳くのに時間がかかる。そこで、あなたたち公爵領の技術者の力を借りたい。これを早く曳ける機械を、インリアに売って欲しい」


「……見返りは?」


「アリゼと話し合ったが、最初はこの粉の買い付けは全てギルベール領の方で行う。一旦アリゼが出店予定だと言う店に卸す形にし、そこから各方面への輸出になるだろう。失敗しても最低公爵領の方は採算が取れる計算だ」



この粉の買い付けは、ギルベール家にとってもある意味博打だ。

でも『店』という受け皿はあり、いざとなれば消費できる。勿論失敗する可能性もあるが、最初に確保しておくのは悪い判断ではないはずだ。




「それにこれが上手く進めば、アリゼとの結婚を認める」

「お兄様……?」


まさかの言葉に、思わずごくりと息を呑んだ。

クロビスからは一度も、そんな話は聞いたことがなかった。



「インリアの首長家、ストルティーの皇室の血を引く者が、王家と縁続きの公爵家にいる。それだけできっと有利にはなる……これからの、対ストルティー帝国に向けての」


ヨエルはふっと柔らかい笑みで笑う。

「確かに、今からは帝国に喧嘩を売る形になりそうだな」と。


「喜んで引き受けよう」


そして立ち上がり、手を差し出す。

クロビスも手を差し出し、二人はがっちりと握手を交わしていた。


久しぶりになってしまいました………!

ムーンに話投下&プロット組み直ししてたら、こんなにも開いてしまいました。


それで実は、あと二話か(長くなれば)三話で終わります。最後まで頑張りたいです……!

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