ここで回収
※殆ど無いと言っていたBL表現が出てきます。苦手な方はご注意ください。
ローマンは驚き、三人を交互に見つめる。
「まさか、お知り合いで……?」
アリゼはグレコワールの様子を伺っていたが、グレコワールはローマンを見つめコクリと頷いた。
「……ええ、そうです」
アリゼとクロビスは二人で顔を見合わせる。"何だかワケアリっぽい?"とアリゼが耳打ちすると、クロビスもコクコク頷いた。
しばらく二人で顔を見合わせていたが、意を決してアリゼはグレコワールの方に視線を向ける。
「残念なお知らせをしなければなりません……あなたのお父様が、捕まりました」
とりあえずぼかしながらも、一番伝えたいことを言って出方を伺う。
するとグレコワールの目が細張り、頭を上下に揺らす。
まるで諦めたと言わんばかりだった。
*
そしてアリゼとクロビスは、グレコワールの寮の部屋で彼と話すことになった。
ローマンに「この方は父の知り合いにあたる人で、少し話がしたい」と言うと、特別に許可が下りたのだ。幸い騎士全員は演習中で、寮へは騎士のみが入れる。だから誰も聞き耳を立てる人が居ないだろうという配慮だ。
「お兄様、一応渡しておきます。何かあったら、このナイフで守ってください」
アリゼはポケットに常備してある万能ナイフを、クロビスの隣に置く。
仮にもリーベルタスを裏切った人だ。何をしでかすかわからない。
真剣なアリゼに対し、グレコワールはプッと吹き出した。
「大丈夫だよ、君たち兄妹を襲うなんてできる訳がないだろう」
クックックと笑うグレコワール。
その発言は、リーベルタスでの地位の話なのか、皇帝と血の繋がりを知ってての発言なのか、どちらとも判別はつかない。
「お父様が捕まったということは、お父様と帝国が組んでいたことが明るみに出たということで間違いはないかい?」
「ええはい。辺境伯は領地内に他国の軍事拠点を許可したという侵略幇助の罪、それと石炭の密輸疑惑がかかっています。いずれ処分が下るはずです」
そうクロビスが言ったのを付け加えるように。
「……ずっと地下牢で、あなたの名前を呟いていると聞いています」
アリゼがそう言うと、一瞬だけ切な気な表情になった。
そして呼吸を整えて、グレコワールが話し出す。
「お父様はインリア人のことを憎んでいた。それで帝国側から甘い話を持ちかけられて、お父様は帝国に加担することになったわけ。私もここに、帝国に手引きされて潜入捜査でここに潜り込むことになったのさ」
あぁ、なるほど。元々潜入捜査だったのか、と。
それならば彼の行方を誰も知らなかったことに、納得がいく。
すると部屋をノックする音が聞こえ、ドアが開く。
立っていたのは、マントに身を包んだ男性の騎士だ。
ルームメイトが帰ってきてしまったのかと思ったが、そもそも騎士団全員は演習中だったはず。
それに身なりは明らかに一般兵ではない佇まいで、この一般兵用の部屋では無さそうだった。
「彼はアブレク、ここの騎士団の副団長をしている」
グレコワールが軽く紹介すると、彼はグレコワールの隣に座った。
「彼は全てを知っている。私がスパイだったことも、リーベルタスでの地位も」
それを知ったアブレクは、下手に追い出そうとはせずに逆に利用しようと考えた。グレコワールを自分の監視下に置き、騎士団の部下として面倒を見ることになった。
ただ、面倒を見ているうちに……どんどんと二人のとの仲は、深まって行ったらしい。
「妻や子供には、非常に申し訳ないとは思っている。だけど私は知ってしまったんだ。真実の愛を」
アブレクとグレコワールは、手をしっかり握り合っている。
しかもグレコワールを見つめるアブレクは、心配そうだというのを通り越して、非常に熱を持った視線だ。
(て、ことは……)
「俺たち二人は、愛し合っているんだ」
まさかの展開に、アリゼの頭がクラクラとなる。
(BL回収、ここでかい!)
見つめ合う二人を尻目に、アリゼとクロビスは同じポーズで頭を抱えるしかなかった。
ただ、だからか……とは。
グレコワールが失踪した理由も、それで余計にアリゼを利用してインリアを取り込もうとした理由も。
彼を何としても見つけようとしてたんだな、とは納得したが。
「……ふっざけんな!」
アリゼは徐々に、怒りのボルテージが上がっていく。そして耐えきれず、バンっと勢いよく立ち上がる。
「あなた自身はどうでもいい。好きに生きてくれていい。でも子供はどうなる?!自分の子供に責任持ちなさいよ!それにペトラ夫人はどうなるの?!」
アリゼの目には、随分とやつれたペトラ婦人のことが浮かんでいた。
「ペトラ夫人はずっとあなたを待っている!あなたの無事を確かめるまで、屋敷を離れないと言っている!例え王家に逆らうことになったとしても、あの人はずっとあなたを待つでしょう!」
きっとあの人は、いつまでも辺境伯屋敷に留まり続けるだろう。実家に帰れという命令が下されようとも。
クロビスもうんうんと頷く。
「あなたとペトラ夫人は政略結婚だっただろうけれど、長年培った家族愛があったはずだと思う。それを無下にしてまで彼を愛していることは、理解はできるが同意はできない」
そしてふっと笑い、アリゼの頭を撫でる。
「私が一番大切に思うのは家族なのでね」
(家族っつーよりシスコン……)
そう突っ込みたい気持ちだったが、グレコワールもそう言いたげにクロビスを見ていた。
クロビスのおかげで、アリゼの頭は少し冷えた。
はぁ、と大きく息を吐いて、椅子に座り直す。
「あなたは新天地でイチから恋人とやり直す気分でしょうけれど、残された人はずっとあなたのことを引き摺るでしょうね。私はただ行きずりの恋が障害によって、余計に燃えているだけのように思う」
アリゼの目には、その恋はただの不倫と何ら変わらない。
背徳感で余計に燃え上がる。そんな恋にしか見えなかった。
「それでも尚彼と生きたいのであれば、きちんと全員に筋を通すべきだとは思います。きっとあなたの為に、あなたの家族は不幸になります。この事実に目を向けてください」
アリゼの中で、いつまでもこっちを見てくれない、母親の背中がクロスする。
親に必要とされない子供は、ずっと苦しむ。
きっと彼の子供も、父が母と自分を捨てて男を愛していると知ると苦しむはずだ。『だったら自分の存在は何なんだ?』と。
だからこれは、母親に愛されなかったアリゼの、精一杯のあがきだ。
グレコワールとアブレクは、真剣にアリゼの話を聞き入っていた。
「……妻に離縁を申し入れます」
沈黙を破ったのは、グレコワールだ。
「私はリーベルタスに戻ります。父の犯した罪を明るみにし、加担した私も罪を償います。そして私の家族には幸せになってもらいたい……家族を巻き込まぬよう、精一杯王に懇願したいと思う」
そして立ち上がると、アブレクの前に跪く。
「全てを終えた後、それでも待っていてくれるのなら……次は私が、あなたを迎えに行こうと思う。それまで待って貰えないだろうか」
二人は熱い視線で見つめ合っている。
本当なら物語の感動ポイントなのだろうが……アリゼとクロビスにしては、ただの中年の男二人がイチャついている、何とも言えない絵にしか見えない。
二人とも遠い目をしながら宙を仰いでいた。
行事がてんこもりでなかなか進みません……ガンバリタイ……




