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領地へ帰還2

隔離期間終盤ですが、体の調子が戻りません……

そして一応アリゼの部屋とされている場所で、母と二人でお茶をすることになった。

"一応"の通り全然物は置かれておらず、家具ぐらいしかないので、専用のゲストルームという感じではある。

母は相変わらず、再会を喜ぶわけでもない、あくまで"長旅を労うだけ"といった雰囲気で「元気そうね」と声をかける。



「お母様も、お元気そうで」

「まぁそこそこよ。ここに居ると嫌でも健康になるわよ。王都と違い自然しかないですから」


音も立てず、美しい所作でカップのお茶をすする。

その威厳さは、やっぱりこの人は"名門の侯爵家出身"なんだなと感じさせる。

勿論アリゼも一通り、貴族のマナーは身につけているが、母のような厳かさには程遠い。



「しかし急に来ると聞いて、驚いたわ。何か理由でも?」

「お兄様がお父様に緊急の用事で……」

「あら、そうなの。あなたもわざわざ?」

「あと私の結婚の話も進めたいとは思ってるんですが……」

「そうだったわ。おめでとう。アングラード公爵家だと聞いて、私も安心したわ」


母はカップを置いて、身を乗り出す。


「あそこは貴重な家よ。仕官として王家に仕えなくてもやっていける、唯一の公爵家なんだから。王家の懐に入らなくてもやっていける上位貴族は、あそこぐらいだと思うわ。上手くやりなさいね」


母の口振りに、少し違和感があった。

この人は、上位貴族の侯爵家の出身だ。

上位貴族の人間なら普通は、伯爵家の中でも小規模な伯爵家(うち)から公爵家に嫁ぐのは、家の規模が釣り合わないと思うはずだからだ。



「お母様、聞きたいことがあります」

「何かしら?」

「おばあ様であるオレーシャ・トリーフォン・ギルベールという人物について」



予想通りと言うべきか、母は動きを止めてアリゼを見つめた。



「あの人の出自について、お母様はご存知でしたよね?」


母は驚くわけでもなく、「ええそうよ」と淡々と返事をする。


「あなたは何処で知ったの?」

「ベッティーニ辺境伯が、私はストルティー皇帝のイトコの孫に当たる、と言っておりました」


すると「はぁー」と小さく息を吐いて、「だから辺境伯(あの人)はダメなのよ」と呟いた。


「過去には何度も権力の猛者達が、この家に取り入ろうとしていたわ。だから先代夫婦が亡くなった後、私が守るって旦那様に結婚を迫ったのよ。私が全てを守る覚悟でね」


真剣に聞き入ってるアリゼを見つめて、母は

「あなたが女で良かったわ」と言った。


「正直クロビスの存在は許せなかった。だってあの子の母方の祖父母のことは知ってる?『この家は権力闘争とは無関係です』って顔をしながら、クロビスを使って王家に取り入ろうとしていた。その後不正がバレて家は取り潰しになった時はやっぱりと思ったわ。その時、同時に追い出すわけにもいかなかったし、この家の将来を思うと頭が痛かったわ」


淡々とそう言うと、カップの持ち上げお茶を飲む。

アリゼはその様子を、ただ見つめていた。


「あなたがもし男だったら、クロビスを追い出すように仕向けていたわ。もちろん合法的にね。でもあなたが慕ってくれたおかげで、追い出すわけには行かなくなったけれど、あなたたちのおかげで領地は潤っている。本当に心から感謝しています」


カップを飲み干した母はそう言って微笑みかける。

アリゼはどう反応しようか迷っていたら、部屋を誰かがノックした。



「お母様……」

「マルセル、どうして?」

「お姉様に挨拶をと思いまして……」


少し開いたドアから、弟のマルセルが半身だけ覗かせて、様子を伺っている。



「いらっしゃいな」


そう母が声をかけると、マルセルは部屋に入りアリゼの前に跪く。


「お姉様、お目にかかれるのを心待にしておりました」


もう数年間会っていないからか、当時の面影は大分薄くなっている。

父そっくりなのは相変わらずだが、もうアリゼの背丈に追い付きそうなほどしっかりとした体に、表情も父よりもずっと凛々しく、真っ直ぐだ。


「わざわざありがとう。随分と大きくなりましたね」

「お姉様も美しくなられて……」


クスリと笑いかけると、一気に顔が真っ赤になった。

こういう可愛い面は、やっぱり十歳の少年なんだと感じさせる。




「最近本当に成長期でね、すぐに靴も服も駄目になっちゃうのよ」


母は立ち上がると、ポンポンとマルセルの肩を叩く。



「マルセル、今日の勉強は終わりましたか?」

「はい、終わりました。そろそろ剣術の時間なので、行く前にお姉様にお会いしようと思いました」

「そうね、そろそろ皆来るわね。そうそう、アレクとは仲直りできたのかしら?」

「はい!」


母はしゃがんでマルセルに視線を合わせている。

そんな二人の様子を見ていると、改めて現実を突き付けられてしまう。

母のマルセルを見つめる目は、アリゼのそれとは全く違うからだ。



別に母は、自分のことを邪険に扱っている訳ではない。

冷遇されてもいないし、義務はちゃんと果たしてくれる。



でもこの人から……愛は貰えない。

母親の愛は、貰うことができない。


その事が、はっきりとわかってしまった。




(お兄様が居て良かったな……)


二人の様子を見ながら、遠い日のことを思い出していた。

幼い頃にクロビスと共に過ごしていた、自分のことだ。


マルセルを見つめる母の目は、その時のクロビスと同じ目をしているのだから。


なかなか筆が進みません。しばらく更新空きます。

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