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隠されてたもの2

「滅びそうってどういうこと?」

「アファナシエフ家は跡継ぎが居らず、その通り滅びそうなんです」


マキシムがそう言うので、アリゼは呆然と言葉を失う。


「……イズリアル様には跡継ぎがおられず、ずっと病に伏せられています。今は側近達でインリアを取り仕切っているとは聞いています」

「ストルティー帝国がインリアの実行支配に乗り出そうとしてたのは、その為か」


静観を貫いていたヨエルも、身を乗り出した。


「それもあると思います。とは言えイズリアル様は病に伏せられてる時間が長いので……ほぼ首長家は形だけになっていますけれど」

「そう、だったんだ……」

「でもそれで、インリアの地域で割れているのは確かです。ニグルム地方は帝国の人の流入が多い分、特に首長家に反発する人が多く居るみたいです」



アリゼもよく知らなかったことだが、インリアは川で区切った三つの地域に分けられるそうだ。


ここリーベルタス王国に近く、マキシムの出身でもあるアブルム。

インリアの中心部であるビリデ。

特にこの二つは、インリア独自の文化を大切に守り続けている地域らしい。


そしてもう一つの地方がニグルム。ここはストルティー帝国の方に近く、帝国の恩恵により成り立っているそうだ。

元々は三つの中でも一番発展していない地域だったが、帝国との貿易や人口流入などにより近年発展が目覚ましい地域らしい。首長家の弱体化もあり、帝国支持者が優勢になりつつあるらしい。




「まさか首長家の血を引く人が居たとは……インリアで大騒ぎになりますよ」


三人の間に、沈黙が流れる。

アリゼも突然知った事に、どうしていいのか混乱している。


「でもマキシムは、私のおばあ様のことは知らないわよね?そんな首長家の娘が隣国に逃亡したとなると大騒ぎになると思うのだけれど」

「元々イズリアル様は十人ぐらい兄弟がいらしたんですよ」

「え?!そうなの?」

「はい、だからそんなにそのアリゼ様のおばあ様が若かった当時は、問題視されなかったのではないかと思うんです」


ただ飢饉や疫病などか重なったこと、ニグルム地方の首長家に対する反発が高まったこと。

色んな条件が合わさって、何度も内部争いが起きてしまったらしい。



「そのインリアの内部争いで……それでイズリアル様以外は亡くなられてしまったと聞いています」

「そうだったの」


アリゼは本当に今まで知らなかった。

だけどきっとその理由は──父が守っていたからだろう。

父は子供達を、インリアの争いとは無関係の所に置きたかった。その気持ちは何となくわかるのだ。




そしてそうこうしているうちに、サロナがアリゼを迎えにくる。


「申し訳ないがサロナ、アリゼと会うのはしばらく控えてくれないか?」

ヨエルはサロナに対して、そう言った。

「どうも私は、思ったより度量が狭い人間らしい」と前髪をかき上げて、サロナの前に跪く。


「あなたは大切な幼馴染で一番の友人だ。貴重な友人を妬みたくないし、失いたくないんだ」


ヨエルの真剣な言葉に、サロナはプッと笑いを堪えきれずに吹き出す。「ええ」と頷きながら。


立ち上がったヨエルは、次はアリゼの前に跪く。


「次会う時には、あなたを迎え入れる準備をすすめたい。だから少しでもいい。私のことも考えて欲しい」


アリゼも微笑んで頷いた。

「まずはお兄様の説得ですね」と言うと、その場にいる全員がクスリと笑っていた。




そしてサロナを王宮に送り届けた後、アリゼはそのまま王家の馬車で家に送ってもらう。



(ヤバい………)

厩舎に馬が戻ってきていて、うちの馬車もある……ってことは、クロビスが帰ってきているということだ。

アリゼは恐る恐る、屋敷の中に足を踏み入れる。


「ただいま戻……」

「アリゼ!」


待ち構えていたように駆け寄ってきたクロビスは、涙ながらにアリゼの手を取った。


「良かった……!本当に無事だったか……!」


あぁダメだ、とアリゼは脱力してしまう。


震わせる色っぽい声も、赤く染まる頬も。

頬を伝う涙が美しく光る様子も。

全てにおいてヒロインオーラが全開である。



「お兄様、そんな大袈裟です」

「アリゼの命より、大切なものはないんだ!」


正直こんな兄に言われてときめかない筈はない。

が、ときめいている場合ではない。



「……お兄様の命の方が大切ですよ」


普通に考えれば、クロビスは伯爵家の嫡男であり、商会の代表だ。よっぽど自分よりも重大人物だ。

そう伝えたかった訳だが、何故か更にクロビスに泣かれてしまう。



「そうか、そんなに私のことを……」

感動に水を差す訳にはいかず、はっきり違うと言えなかったアリゼであった。




そしてようやくクロビスも落ち着いた頃、お互いの行動についてを説明し合った。

アリゼはあの逃亡劇についてを説明し、クロビスは辺境伯領であったことをアリゼに話すことになった。



「ディエゴ卿には息子が居ただろ?」

「グレコワール卿でしたっけ?」

「そう、辺境騎士団の団長だった人」


グレコワール・ベッティーニ。

ディエゴの元妻との息子で、確か年齢は三十代半ば。妻子も居る人だ。

アリゼ達も昔、結婚式に出席したことがある。


普通であれば領地の騎士団長を経て、いずれは辺境伯の地位を継ぐ人だ。



「どうやらグレコワール卿が、行方不明になっているらしい」

「えぇ?!」

「すまない。帰都が遅れたのも、グレコワール卿の母親を訪ねていたんだ。結局行方については誰も知らずに、見つけることはできなかった」


元妻は離婚後でも辺境伯家所有の別荘で暮らしていて、彼は頻繁に子供を連れて母親を訪ねていたらしい。

だから何か手掛かりはないかと思っていたが、この人も行方については全く知らず……しかも元夫のしでかした事を知り、倒れるほどのショックを受けていたそうだ。



「正直な話、グレコワール卿はインリアに亡命した可能性がある。皆インリア方面に行くと聞いたのが最後だったらしい」


アリゼとクロビスは、二人で頭を捻る。

何だか一気に、きな臭い雰囲気が漂い始めてきたぞ、と。



「……そういえばお兄様知ってます?」

「なんだ?」

「私達のおばあ様の出自について」


クロビスは知っているかも知れないと思っていたが、「インリアの有力者の娘ということは知っているが……」と曖昧な返事をした。

要するにクロビスも知らないらしい。



「それがおばあ様は、インリアの首長家の出身らしいんです。しかもストルティーの皇室の血を引いていると……」


クロビスの眉間に、皺が寄っていくのがわかった。


「……ベッティーニ辺境伯が『私達は皇帝から見ると、イトコの孫にあたる』んだと言ってました」


信憑性のあるディエゴの話を持ち出すと、一気に眉間の皺は消えていく。「知らなかったな」と小さく呟いて、何かを考えながら遠くを眺めている。



「それにそのインリアの首長家ですが、跡継ぎが居ないみたいで滅びそうらしいんです」


すると次の瞬間──クロビスは目を見開いた。


「アリゼ」

「はい?」

「早速悪いが、仕事の溜まっているものを一式用意して欲しい。できればアリゼも、一緒に私と来て欲しい」


そして立ち上がって歩き始めた。

「領地に戻るぞ」と言葉を投げながら。



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