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あなたと生きていきたい



そしてアリゼは数日間、そこで過ごした。


二日程は体を休めることに専念していたが、今はもうぼちぼち仕事も始めている。

ヨエルはと言うと、次にアリゼが目覚めた時には既に居なく、ここから近い──と言っても、一日ほどかかる、南のあの飛び地の領地に行ってるらしい。

本当は側に居たいけれど……との伝言があったが、さすがに公爵の仕事は休んでいる暇は無いだろう。




軍の伝令によって、ベッティーニ辺境伯領の報告が続々と上がってくる。

やはりストルティー帝国に、領地内の場所を提供していた跡はあったらしいが、既にもぬけの殻だったそうだ。だが重要書類は殆どを回収できたらしく、これからディエゴの裁判の証拠として提出されるそうだ。


軍の捜索は続いているが、そろそろクロビスは引き上げるということで、アリゼも王都に帰ることになった。

ちょうどその知らせが入った頃、ヨエルも視察が終わり王都に帰るとの一報が来たので、ここに寄ってアリゼと一緒の馬車で帰るということになった。



「アリゼ様、そろそろアングラード公爵がご到着です」


アリゼが呼ばれ、玄関でヨエルを出迎えた。

そして目の前に馬車が停まり、中からヨエルが出てくるが──手には花束を抱えている。


鮮やかな色の、プルメリアの花束が。


「本物、初めて見ました。すごく綺麗……」



アリゼは受け取って、花をまじまじと見つめる。


「王都よりも近いここだと、萎れる前にあなたに見せることができると思ったんだ。もう咲いているのは、これしか見つからなかったけれど」


そう言ったヨエルは──アリゼの前に跪いて、手をそっと包むように握った。



「次の花が咲く頃、是非とも一緒に南の領地に来て欲しい。あなたにプルメリアの木に咲く鮮やかな花を見せたいんだ。いや、次だけじゃない…これからもずっと、私の側に居て欲しい」


そして手の甲に口付けすると─まっすぐに前を見て、こう言った。



「私と結婚してください」



アリゼからは涙が溢れた。

いつだってヨエルは、真っ直ぐに気持ちを伝えてくれる。その気持ちが何よりも、嬉しいのだ。



「……私が公爵夫人として務まるかはわかりません。でも私は、あなたと生きていきたい」


"あなたと生きていきたい"

それがアリゼの、今の精一杯伝えれる気持ちだ。

そして深く頭を下げて、こう言った。


「よろしくお願いします」


ヨエルからは安堵の笑みが溢れ、つられてアリゼも微笑む。



「そうだ、あと一つお願いがあるんです」

「何だ?」

「私、店を持ちたいんです」


アリゼは色々考えたのだ。

元々はヨエルと結婚を避けるために店が欲しかった。だけどやはり思い返してみれば、アリゼにとってお菓子作りはすごく楽しい作業だというのに違いはないのだ。

作っている間は無心になり、冷静になれるのだから。


「サロナ王女が協力してくれるということですし、私が作るものをもっと色んな人に広めたいんです。色んな人を楽しませたい。これだけは、譲れません」


アリゼは自分が持っているのを、自分だけでなく……他の人も笑顔にできるのであれば、それを使っていこうと決めたのだ。

それが『公爵婦人』として相応しい行為なのかは分からないが、人の為に行動できるヨエルの妻としての務めのような気がしたのだ。



「あぁ、分かった」

ヨエルは難色を示すことなく、頷いた。


「私もアリゼが作る食べ物を楽しみにしている。是非とも私にも協力させて欲しい」

「ありがとうございます」


頭を下げたアリゼを、そっと抱き寄せるヨエル。


「ひとまず王都に帰ろう」

そう言ったヨエルに、アリゼは「はい」と元気よく返事をした。

そして二人は馬車に乗り込んでいく。

ちゃんと二人で、手を取り合って。


「帰ったらやることが山積みだ。頑張ろう」


帰ったら一連の事件の後始末。工事の予算から機械の開発も、アリゼの店の開店準備だってある。


「はい、頑張ります!」


元気に返事をするアリゼに…ヨエルは眉間に皺を寄せて、こう呟いた。



「とりあえず、まずはクロビスの懐柔から…」

「えーっと、それは諦めましょうか……」



そう苦笑いするアリゼとヨエルを乗せた馬車は、王都に向かって走っていった。


一旦ストック分は終了です。

(詳しくは活動報告まで)

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