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この世界はBL小説の世界でして

アリゼはここリーベルタス王国のギルベール伯爵家の長女として産まれた。

平凡な貴族家……まぁどちらかと言えば下位の伯爵家の娘ではあったが、他の人と決定的に違っていることがある。

それは前世の記憶──いわゆる転生前の記憶があるということだ。



前世はここよりも技術が進んでいた日本という国に住んでいて、そこでごく平凡な人生を送っていた…らしい。

らしい、というのは朧気にしか記憶が無いからだ。ただ青年期以降の情景が浮かばないことから、早逝した人物ということには間違いがないだろうと思っている。



そしてこの朧気な記憶の中でも、はっきりと覚えていることがある。

それは前世の自分がいわゆる『オタク』だったこと。それもとびっきりディープな。

オタクにも色々な分野があるが、とりわけはまっていたのは……BL。

そう、ボーイズラブだ。

くる日もくる日もBL小説を読み耽っていた記憶があるのだ。



そしてなんとこの今生きている世界は…前世で読んでいたBL小説の中の世界だ、ということにアリゼは気付いたのだ。


いつ気付いた、と言われると答えるのは難しいが、成長するにつれ何となくそうなんだろうと思い始め、歳を取るごとに徐々に確信に変わっていったのだ。知り合う人の名前や特徴が、小説の登場人物と同じであったからだ。


そして確信に変わっていくにつれ、アリゼは絶望していくのである。



まず、この本のタイトルは「一途な公爵様の禁断愛」

ヨエル・アングラード公爵が、ギルベール伯爵家の嫡男、クロビスと禁断の恋に落ちるという物語。

そう、ギルベール伯爵家のクロビス。

紛れもない、あのアリゼの兄なのである。




まずここで、一度物語を振り返ってみようと思う。

最初は二人の生い立ちについて。


アリゼの兄であり主人公の相手役──いわゆるヒロインであるクロビスから。

彼は四歳の頃に母親を亡くしている。まぁつまり先妻の息子で、アリゼは再婚後に産まれた後妻の子供、つまり腹違いの兄妹ということになる。ちなみに年齢は六歳ほど違う。


後妻であるアリゼの母は、先妻の面影が濃いクロビスに対して良い感情はない。夫のことを愛している故なのだろうが、自分より前に結婚していた人の象徴であるクロビスが許せなかったのである。

それは娘であるアリゼにも伝染し、アリゼはクロビスをいじめまくった。嫡男なのに。

使用人も腫れ物のようにクロビスを扱っていた。嫡男なのに。



唯一の味方だった父は、領地と王都の往復する生活を送っている。故に不在が多い。

なのでクロビスは孤独だったのだ。


その中で唯一心を開いたのは、メイドのカリーヌ。献身的に世話をしてくれていた彼女を母のように慕い、彼女に心を開いた。

だがしかし、その思いは裏切られてしまうのである。



「クロビス様にも…そろそろ閨の作法をお教えしなければなりませんね」


そう言ってクロビスの下半身を脱がし、そこに跨がるカリーヌ。いきなりの変貌に、クロビスは恐怖におののいた。

まぁつまり、クロビスはそのカリーヌに悪戯をされてしまうのである。


母のようなメイドから、いきなり向けられた性的感情がたまらなく恐怖だった。十二歳のまだ、恋も知らない少年には。

そしてそれ以来、クロビスは女性不信に陥ってしまったのである。




そして、この本の主人公であったヨエル・アングラード公爵。

彼も早くに実母が亡くなっており、後妻と仲が良くはなかった。まぁつまり似たような境遇だったのである。

一つ違う点は、ヨエルには妹ではなくブエラという弟がいた。

後妻はヨエルに近寄らせないようにしたが、そこは男同士の兄弟と言ったところか。二人は隠れて一緒に遊び、ブエラは大層ヨエルになついていた。

だがしかし、そんな日々はある日の出来事によって崩れ去っていくのである。



ある日ブエラがヨエルの部屋を訪ねる。

ちょうど勉強をしている時のことだ。


『お兄さま、入っていいですか?』

『あぁ入れ、そろそろ休憩にしようとしていたんだ』

そしてブエラは部屋に入り、そこの椅子に腰かける。目の前のテーブルには、紅茶の準備とフルーツが盛られている。


『お兄さま、あの…』

『ああ、リンゴだろ?食べていいぞ』


リンゴはブエラの大好物で、いつもヨエルはこっそりとブエラに差し出していた。

それはいつも通りの光景で、この日もいつも通り…のはずだった。


『それでブエラ…………ってブエラ…!!』

振り向いたヨエルは一目散にブエラに駆け寄った。


『ブエラ!しっかり!!』

ブエラは泡を吹きながらその場に倒れこんでいたのだ。

そして結局その後目を覚ますことはなく、ブエラは息を引き取った。


おそらく死因は心臓発作…ということにはなったが、実はこれは仕組まれていたこと。

誰かがリンゴに毒を塗り、それを食べさせようとしていたのだ──勿論主人公のヨエルに。


『何でこの子が……どうしてこの子が!!』

ブエラの亡骸にすがり付き、泣き叫ぶ一人の人物。ブエラの母であり、ヨエルの義母だ。

彼女はヨエルを睨むと、こう言ったのだ。


『本当は……あなただったのに……』

それ以上の言葉を発しなかったが、ここでヨエルは全て理解した。


本当は義母は、自分を殺害する予定だったのだ、と。自分が食べるはずだったリンゴを食べて、ブエラは死んだのだと。


それ以来、義母は精神を病み狂人となり、数年後に自害。

一気に子供も妻も失った先代の当主も病みがちになり、惜しまれつつ早世した。



と、ここまでが二人の生い立ちだ。

あくまで物語のスパイスとしては申し分はないが、現実に起こると正直重い話である。




そして物語の始まりである二人の出会いは、ヨエルの二十二歳の誕生日パーティーだ。

それは急逝した父に代わり、ヨエルが当主として初めて主催した社交の場であった。

沢山の人がヨエルを目当てに集まるのは当然で、沢山のご令嬢が彼の美しさに虜になった。

さすが主人公である。

しかし彼を良く思わない人も多い。嫉妬からか大声で、弟殺しの犯人だの先代を追いやっただのと噂をする人達がいた。

それを咎めたのが──クロビスだった。


『根も葉もない噂を立てるとは、恥を知れ。侮辱罪に当たるぞ』


凄い剣幕で怒鳴るクロビス。

普段は穏やかな彼の剣幕に押されて全員が黙った。

そしてヨエルはクロビスに礼を言い、この一件から二人の仲は急接近していくのである。

似たような境遇の二人は、次第に惹かれ合ってゆく。そしていつしか性別を越えて愛し合うように…というまぁ物語的には鉄板な話だ。


そして二人は隠れて愛を育んでいくが、ある日ついにバレてしまうのである。

しかも……なぜかこの国の王女に。

長いので分けます。

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