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アングラード領へ往訪3



その後も開発室を隅々まで見て回り、アリゼ達は屋敷に戻ろうとしていた。


「こんなアングラード公爵領の機密事項と言える開発途中のものを、私達は見ても良かったのでしょうか……?」

「ははは。本当は駄目でしょう。でもアリゼの為なら。お代はあなたでいかがでしょうか?」


真剣にさらっとそう言って、ヨエルはアリゼの顔を覗き込む。またあの綺麗な瞳に見つめられて動けず、顔が赤面。

そしてすかさずそれにクロビスは割り入った。


(……なんだこの三角関係は)

ヒロインとヒーローが敵対する世界線ってなんやねん……と突っ込みつつ。



「ま、冗談はこれぐらい……本当であれば嬉しいですけど。でも本当の私の目的は、この機織機の布を売るのではなく『それを作る技術』を売ることなんです」


アリゼはピンとはこなかったが、クロビスは「なるほど」と頷く。


「つまり技術者を派遣して派遣料を頂く、ということですか」

「簡単に言えばそういうことです。わが領地は一次産業に不向きな土地なので、工業都市として発展してきました。だから技術者が一番の財産で、技術者居なければ成り立たない。しかし裏を返せば輸入が途絶えようとも、技術者という財産は失われることはない」

「……それで、一次産業が主なうちと最初に手を組みたい、と」

「そういうことです。 しかもインリアにルーツのあるあなた達なら話が早いとも。ま、一番の目的は……勿論あなたですけどね」


クスッとアリゼを見つめて微笑むヨエル。

それを見て、またアリゼの顔が赤面する。


一体何なんだ、こんなこの場所でも珍しいド直球なアプローチは一体何なんだ、と。

騙されてるのか?と思いつつも……あの原作でのヨエルもこんなんだったような気がする、と思い出す。


好きな相手が自分に気があることを知ると、一気に踏み込んで囲うというのがやり方だったような、と。


(いや…別に私は…ヨエルに気がある訳じゃ……)

別に気がある訳ではないが…そりゃあんな端正な顔立ちの人から迫られりゃ女として心が揺れるのは当然であるのだが。


ま、その元々の相手と今対立してるのは……アリゼもよく分からない状況ではある。




「坊っちゃん!」

その時、叫び声が聞こえて振り返る。


(げっ!)

するとそこには、刃物を手にした中年の男性が立っていた。



「外国風情を入れやがって!お前らもか!」

男性はアリゼ達に向かって走ってくる。


「危ない!」

咄嗟に叫ぶ。

逃げようとしたが、ヨエルはその場に立ったまま。

懐から何かを取り出した。



「フランク、貴族を襲うとは何事だ」

それは振り下ろすと同時に伸び、男性の顔の前まで伸びる。

あれだ……とアリゼは思い出す。

前世で見た『特殊警棒』によく似ているものだ。



それを払い除けようとした男性だが、掴んだ瞬間「ひっ…」と声を上げる。手からはダラダラと血が流れ始めているので、先端には刃物がついているようだった。



「フランクを拘束しろ。病院に連れていけ」

ヨエルは従者に指示し、すぐさま男性は縄で縛られていく。

それを周りは唖然としながら見つめているが、ヨエルはその男性の目の前に立つ。



「いいかフランク。この二人は髪色こそ暗いが、私と同じ貴族階級の人間だ。本来は反乱者として付き出さねばならない。だが勘弁してやる。その代わり、病院からいいと言うまで出てくるな。わかったか」



縛られた男性の足元は……何だがおぼつかない。フラフラと重心が安定していない。目も焦点が合っていないようだ。


ヨエルは厳しい目で見ていたが、一瞬目が合うと──少しだけ微笑んだ。


「見舞に行くから、その時には酒を抜いておいてくれ」


そして肩をポンと叩くと、その男性は従者によって連行されていった。連行される足取りもかなりふらついていて、相当おぼつかない足取りであった。



「すいません……」

一連の嵐が去ると、マキシムは申し訳なさそうに頭を下げる。


「マキシムが気にすることはない。外国出身者の風当たりの強さを和らげるのも私の仕事だから、な」


そう言ってヨエルはマキシムの肩を叩く。


この国では、年が上の人ほど外国人への風当たりが強い。戦争経験者を親に持つ、祖父母世代の人達は特に。

徐々に若い人達は受け入れているし、むしろ好意的な目で見られてきているが、やはり年配の方からは良い目で見られることは少ない。

恐らくさっきの『お前らもか』と言うのは、クロビスや……アリゼのことであろう。アリゼの髪色もこの国の中では暗い方で、純粋なこの国の血筋には見られないからだ。



「すまない、あれは元々そこで働いていた技術者のフランクだ。数年前奥方を亡くしてから……酒に溺れてしまった、弱い人間なんだ 。若いインリアの人達が奮闘しているのを見て、向上するかと思ったが逆効果だったようだ。何度も酒を断つ治療に連れていこうとしたが、その度に逃亡されてしまっていた。ようやく連れて行ける」

「……捕まえないんですね?」


本来は未遂でも、貴族を襲うというのは罪に問われなければいけない。

だけどヨエルは、当たり前のように「あぁ」と頷く。


「当たり前だ。あなたたちに恐い思いをさせたのは申し訳ない。だが彼は少し弱いだけで仕事の腕は良い職人だ。先代からの長い付き合いでもあるし、ただ捕まえて見捨てるなんぞ非人道的だろう」


そしてはっきりとした声で、こう言い切った。


「道を踏み外した者を正しい道に導くのも、上に立つ私の役目なんだ」



その意志の強さは目付きにもはっきりと表れていて…それはもう若き青年の姿ではなく、『公爵』という名に相応しい立派な姿に思えたのだ。

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