魔晶共鳴
「魔晶共鳴かい。えらくニッチな話だねぇ。」
銀髪の執事の言葉に、婆さんが反応する。しかし、ナイアもふわたろうもその言葉は初耳であり、ご存知かと問われてもなんのこっちゃという感じだった。
それを見かねたザカリアは、懇切丁寧な口調で情報を提示してくれる。
「魔晶共鳴について、少々、説明が必要のようですので、簡単にお話させていただきます。外に沢山ございました魔晶石ですが、あの鉱石は希少価値が高い反面少々不思議な性質を持っておりまして、複数の魔晶石同士を近くに置き、そばで魔法を発動いたしますと……爆発します。」
「爆発!」
リアクションを漏らすナイア。
「つまり、ことに極大の魔晶石に囲まれたこの空間内では、魔法の使用はご法度ということです。この場所での魔法の使用は、われわれ全員の蒸発を意味しますゆえに。ゆめゆめ、お忘れなきようにお願いいたします。」
あまりにショッキングな情報の共有に、落ち着かないトリオ。
「もっとも、魔法を使える方というのは限られていますので魔晶共鳴についてはそこまで心配はしていないのですが……。とりあえずは共同生活を行う身として、争いは避け、仲良くいたしましょう、というのが、私たちからのお願いでございます。このような日の光の届かぬ地底で争い、血が流れるようなことになれば目も当てられませんゆえ……考えるだけでも恐ろしい……」
黙々と本を読むのみであったハンスが顔を上げ、こちらを向きながら言う。
「魔晶共鳴━━━━たしかに、大量の、加えて高純度の魔晶石に囲まれたこの場所では、間違いなくこの現象が起こるだろう。始まりは、魔晶石単体から発せられる、わずかな魔力波……では、それらがぶつかり合うことによってどうなるか━━━━魔力波同士は衝突し、互いに反発し、跳ね返り合う。絶えず放出される魔力波は、跳ね返ってきた魔力波とも衝突し、その衝突は絶えず連鎖する。まるで水面に浮かぶ波紋同士が互いに衝突するかのように魔力の波は乱れる。しかし、やがて衝突した魔力波同士の中にも秩序が生まれ、大きな魔力のうねりを現出させる。この段階を魔力の力場の形成、━━━━すなわち、『魔力場の形成』と呼称する。」
少年の━━━━男性にしてはやや高めの、しっとりとした声が博識を披露するたびに、少年ハンスへの注目が集まっていく。そこで、固い表情をしていたハンスは、にこっと笑い、柔らかな声を使って、続ける。
「さて、この力場は特殊な状態を持っていて、それが魔力励起状態と呼ばれるものだ。空間内が莫大な魔力で満たされている状態のことだ━━━そしてこの状態は、莫大なエネルギーを湛えた空間が、無理をして安定な状態になっている、ということを表す。もし、そのような状態の空間の中で大きな魔力を消費すると、魔力場の一部で魔力励起状態が基底状態━━━━もとの状態に戻る。」
ここで一度、全員の顔をハンスが順に見渡す。折しもナイアは「もとの状態に戻るなら良いのでは?」と考えており、そうした疑問がナイアの心中に在ったのを知ってか知らずか、その点について、ハンスが説明をしようと言葉を紡ぎ出す。
「元の状態に戻るのはいいことじゃないのか、って? ふふ、残念なことにそうではないんだ。それはつまるところ、無理をして安定を保っていた空間が、一部の魔力場の状態の変化によって安定を保ち続けられなくなることを意味するんだ。つまり、一部の魔力場の崩壊をきっかけに、作られた魔力場全体がもとの状態に戻ろうとする、ということだね。そしてこの際、励起状態であった際に力場が内包していた魔力エネルギーはどこに行くか? 当然、基底状態になった場所から力場の外へものすごい勢いであふれ出ようとする。それこそ、水が入った革袋に針で穴を刺したかのような勢いで、いや、きっとそれ以上の勢いで、一気にエネルギーとして空間内に放出されるだろう。魔晶石を大量に抱えたこの空間が、いかに莫大なエネルギーを抱えて魔力励起状態で落ち着いているのかは、考えるまでもない。こんな場所で魔法を使用したら、魔力を消費してしまったらどうなるか━━━━それは、魔力爆発という災害と化して、いとも簡単に我々を吹き飛ばすだろう。」
その内容を理解しえた者がこの場に何人いただろうか。ただ一人、婆さんだけがその発言の価値を正確に理解していた。
「カーティスバル家には神童がいる、と噂では聞いていたが……まさかこれほどとは」
ナイアは確認として、ハンスに聞き返す。
「それはつまり、この屋敷で魔法を使うと、みんな死ぬってこと?」
ふわたろうは「なるほど。」と頷く。婆さんは「こいつは今までなにを聞いてたんだ」という顔をしていた。
「その通り、だよ」
ハンスの言葉を聞き届け、皆の顔を見回したザカリアは、「さて」と言って手を鳴らした。
「それでは皆様がたの自己紹介と最低限のルールを共有できましたので、この屋敷の特殊性についてご説明させていただきましょう」




