情報弱者
ウェルサの迷宮は肩慣らしに最適、という言説がある。
この言葉は、的を射ているかのようで、ダンジョンの実像を正確に伝えるものではない。
たしかに第一層、第二層までは低級のモンスターのみが現れ、低級冒険者たちがダンジョンに慣れるために丁度いい狩場として数百年使われてきた歴史を持つ。
そう、数百年である。
通常、ダンジョンは生まれてからすぐ、あるいは数年の期間で討伐され、討伐と同時にダンジョンは崩壊する。そうでないダンジョンは軒並み長い年月をかけて巨大化と難化を繰り返し、多くの冒険者たちの命を刈り取ってきた不敗の迷宮なのである。
そして、ここウェルサも例にもれず、数百年不敗の神話を更新し続けてきた。
低階層が簡単だからといって、それよりも深い階層が同じように簡単であるとは、誰も言っていないのである。
むろん、そんなことは冒険者であればだれでも理解している常識。わざわざ三層まで降りて常時毒の霧でデバフを受け続けながらA級モンスターを討伐し、ボスの復活と同時に一定時間後に閉じる一方通行の四層への階段を下りる者はいないのである。
しかし、ナイアの故郷ゲッティローグは、なぜかダンジョンの被害に悩まされることもなかった。その結果、ダンジョンの知識に乏しい一人の情報弱者を生み出してしまった……
………………
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もうどれほどの時間が経ったのだろうか。
ナイアの脳裏によぎるのは、地上に置いてきてしまった婆さんやふわたろうの顔だ。
思えば馬鹿な死に様だ。
食べ物を買うために冒険者になり、冒険者になったところで満足すればいいのに情報不足のままダンジョンに潜り、薄汚い変態に背後から攻撃され、イキってダンジョンを攻略しようとしたところ、モンスターたちに返り討ちにあっている。
思い返せば思い返すほどに、己の所業がひどくばかばかしい自殺であったことに気付く。
この自殺の原点が食欲であるというところもポイントが高い。あまりに愚かだ。
喉がカラカラだ。声を出そうとしたが出ない。いや、水分以前に、肉体が限界を迎えているのだろう。
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…
誰か…………助けて…………。
その思いが、いつか誰かに届くことを願いながら、私はさんざん自分に戒め続けてきた”寝てはならない”という暗示を、ついに破ってしまった。




