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術中

巨人たちからまんまと逃げおおせて、木の枝の上で休んでいた私を襲ったのは、ものすごい倦怠感と体の節々の痛みだ。


 いや、もうそんなものはどうでもいい。そもそも戦う以前から私の身体は限界だった。しかし、戦いの高揚から抜け出してしまったがために、却って痛みを感じるようになってしまうとは。


 逃げている間、花畑が続く先に遺跡のような場所を見た。どうやらあそこがこの階層のゴールなのだろう。幸い、さきほどの騒ぎのせいで出払っているためかどうか分からないが、遺跡のまわりに単眼巨人はいない。


 もう少しで先へと進めるわけだが、さすがに私も考える。


 ここまでくれば、逃げた方がいい。しかし退路は断たれている。いまさら戻ろうとしても、三層へのトンネルの周囲には、まだ単眼巨人たちがいるだろう。


 次の階層へ行くしかない。この階層にはボスがいないことを祈ろう。いたとしたら、倒すしかない。


 私はゆっくりと遺跡の方へ近づいていく。遺跡の壁と壁の間に、巨大な目玉があって、その目玉はじっと私の方を覗いていた。


 無理だ。デカすぎる。確認しなくても分かる。あれはただでさえ巨大な単眼巨人を、さらに巨大にしたボスモンスターだ。デカければいいってわけじゃないだろう。このダンジョンのモンスターがどういった仕組みで生み出されているのかは分からないが、私は、もし仮にあのボスモンスターを設計した存在がいるのだとすれば、猛烈に抗議したいと思った。


 私はわずかな希望を胸に、もといた三層へのトンネルへと進む。果たして、その周辺には、さきほど群れをなしていた化け物たちがきれいさっぱり消えていた。


「なぜ?」


 しかし、そんな疑問はさしおいて、私は生き残るために戻らなくてはならない。


 そして、トンネルの中へ入り、奥へ進んで、そして、そして、


 思い出した。


 退路などない。退路などなかったのだ。目の前にあるのは、トンネルの終着地点。ただの、石造りの壁だった。ダンジョンには、常識は通用しない。


 もと来た道だからと言って、そのまま戻っていけるとは限らない。たしかにダンジョンの階層には一方通行のものもあると、聞いたことはあった。聞いたことはあったが、まさかこんな絶望的なタイミングで……。


 いや、違う。


 何もこのことを今になって知ったわけではないはずだ。


 なぜ、私はさっき、三層へ戻るという選択肢を取ること無く、目の前の巨人たちに立ち向かっていった?


 なぜ、私を待ち迎えていたはずの巨人たちの姿が見えない。


 なぜ、あの巨大なボスモンスターは、はじめから私に気が付いていた?


 疑問は、確信へと変わった。


 背中に冷や汗が止まらない。


 トンネルはもはや、私という存在を閉じこめる虫かごだった。そんな私をあざ笑うように、巨大な単眼がトンネルの向こうから私をじっと覗いていた。


 目だけでも分かった。そのしたには、(よこしま)な笑みを湛えているであろうことに……


 

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