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恐怖

 起きた。


 思考は回る。しかし、五感の中でなにか大切なものが欠けている気がする。


 視界……はもともとだが、そうか、これは嗅覚だ。嗅覚がやられている。


 そう思うと同時にに感じる、激痛。鼻の中が焼けるように痛い。


 完全に鼻をやられてしまったらしい。


 私は、ふらふらと揺れて、そしてぷるぷると震える足で立ち上がる。


 先へ進まねば……もっと症状が悪化するかもしれない。


 だるい体に鞭を撃ち、進む。


 石造りのトンネルを抜けた先。そこは、楽園のような場所であった。平原の中に広がる一面の花畑。そしてその周囲を闊歩する、巨大な単眼の人型モンスターの群れ。それぞれが成人男性ぐらいの大きさの木のこん棒を手に取って、のっしのっしと地面を揺らしている。


「まずい」


 よりにもよって、このタイミングでその膂力の相手とぶつかるのはまずい。今の私ならば、一撃食らったくらいでも意識が飛ぶ可能性がある。


 いまぶつかるべきではない。そう思うと同時に、本能が逃げろと最大級の警告を告げてくる。数秒間棒立ちになって考えているうちに、単眼巨人たちの目線は一か所に固定されていた。すなわち、わたし(ナイア)に。


 私はそそくさとトンネルの中へ引っ込んだ。このままではどうすることもできない。かといって、敵の目を盗んで先へと向かうという選択肢はもうない。


 認めざるを得ない。私はいま、過去一でビビっていた。怖かった。とても恐怖していた。なによりこんなに格下のモンスターにいいようにあしらわれて、殺されかけているこの状況に対して、自分の愚かさを深く認識して、許されるならばダンジョンに対して認識の甘すぎた過去の自分を殺してやりたいと思った。


 そんな私をあざ笑うかのように、単眼巨人はトンネルの前まで群れを成してやってくる。嘲笑の意味を大いに含んだ、下衆で、汚い笑い声を大きく響かせながら……


 もうだめだ。ここまで育ててくれた父さん、ありがとう。顔ももう忘れてしまったけど、生んでくれたお母さん、ありがとう。旅の相棒、ふわたろうもありがとう。カノーレ神父、ゲッティローグのみんな、私を育んでくれたすべての人たちに、深く感謝を……。


「ギャギャギャ……! ギャギャ!! ……グェッ」


「え……?」


 見れば、単眼巨人は図体が大きすぎてトンネルの中へ入れないらしい。


 というか、今頭ぶつけてなかった?


「……」


 ……()れる。


 そう思ったときには手が動いていた。


 単眼巨人がトンネルの中を覗き込んだその顔を石斧で粉砕する。首と胴体を切断し、ぐちゃぐちゃになったそれを、ボールのように蹴とばして外へ出れるようにした。


 ビビった単眼巨人たちは突然の仲間の死に驚き、一歩後ずさる。


 この手は何度も通用しないだろう。そう直感した私は、全力で単眼巨人の群れの中へ斬りこむ。目の前にいた一体を大上段からの一撃で頭部をかち割ることで無力化。頭部へと乗り上がった私はその高さを利用して次々に単眼巨人を殺しながら彼らの頭部を跳び渡っていく。


 数体を撃破したほどで群れからは脱出し、花畑をかき分け、彼らがいない方へと突き進んでいった。



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