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食べ物を探そう3

 今までの調査で色々と食べ物になりそうなものを探してきたが…


 植物、キノコときたら、次は何を探すべきだろうか。


 私が思うに、その答えは…肉だ。


 うおおおお!!肉だ!!!盛り上がってきたぞ!!


 私は心の中でひとしきり興奮すると、罠を作る準備を始めた。


 まずは昨日拾った斧で細木を切って木材を集める。集めた木材は、片方の先端をノミで削る。それらをみっちりと横並びに地面に突き立てていき、囲いを作る。


 私が狙っているのはシカだ。シカが囲いの中に一度入ったあと、二度と出られないようにしてやるのだ。


 囲いを作り終えるのにニ日がかかった。その間に、シカを閉じ込める方法は何個か思いついたが、一番手間がかからなそうなやり方にしようと思う。


 朝起きて、まずは神父さんの所に行く。罠に使うエサを調達するのだ。


「おはようございます。カノーレ神父!」


 教会に入ると、神父は椅子に座っていた。邪魔をしたかな?


「何か御用ですか?」


 カノーレ神父はこちらに顔を向けると、緑色の装丁の本をそばに置いて、手のひらでぽんぽんと隣の座席を叩きながら、こちらへ、と座るよう促してくる。


「カノーレ神父、折いって頼みがあるのです。この間倒したキノコの魔物の肉を少しいただけないでしょうか?その……食糧事情が厳しいことも分かっていただけると思うのです」


 アレは私が倒したものなのだから、私にもそれを少しもらう権利くらいはあると思うのだ。


「そうですね……しかし他の人には与えないで、あなただけに与えることはできませんよ。そのような不平等を、我らの神は決して許しはしないでしょうから」


 神父は淡々と、私を諭すように言った。


「ですが、倒したのは私なのですからその分の労力を考慮すると、私だけ損ではないですか?これは神様が仰る平等と言えるのでしょうか?」


「なるほど」


 神父は無表情に、しばし黙った後にこう続けた。


「ナイアよ、あなたには特別に教えることにしましょう。実は、街の近くに魔物がやってくるというのはみなが思っている以上に異常なことなのですよ」


「そうなのですか?」


「対魔結界が通用しない場合があると分かれば、ただちに全ての結界が修理されることになります。ことは多くの人々が安全に暮らせるか否かに直結しますから。まあ単に、この教会の対魔結界が不調だったのかもしれませんが…。しかしいずれにせよ、対魔結界が必ずしも万全ではないということが分かったのです。従って、教皇庁から直々に調査団が派遣されることになりました」


「……思ったよりも大事になっているんですね」


 しかし、それと人面キノコの肉を分けてもらう話はなんら関係がないのでは?


「もちろん、その際に人面キノコの検査もされる予定です。対魔結界が効かない特殊個体である可能性もありますので。それもこれも、全て人々の安全のためです。どうか、理解してもらえるとありがたいのですが…」


 なんだか思っていたよりもよほど大きなことになっているらしい。


 確かに魔物が村の近くにまで現れたなんて話は今まで生きてきて聞いたことがないものね。


 魔物は魔素の濃い場所を好む。だからこそ森の奥地からは出てこないのだ、というのが常識だった。だからこそ私のような子供が森へ行っても咎められないのだが。


 でもまあ、人々の安全のため…と、そこまで言われては反論のしようがない。


「わかりました」


 渋々うなずいて回れ右をする。


 今日のところはエサのことは諦めて、森へ行って先に罠を完成させよう。


「少し待ってください。お腹が減っているのでしたらご馳走しましょう」


「え、いいんですか!?」


 神父は基本的に無表情だし、声からもあまり感情が感じられないが実は太っ腹なのだ。私はそんなカノーレ神父の一面が大好きだ。


 私はシチューをご馳走になった。


 食事をしながら、いま作っている罠のことを話す。


 神父は私の話をじっくりと聞いてくれた。そして可能であれば直した方が良い点などを的確に列挙して教えてくれた。


 神父は表情は固いが、その実とても優しいのだ。


「ナイアがみなのために頑張っているようでなによりです。ところで、どうですかこのシチューは。美味しいですか?」


「はい。もちろん!とっても美味しいです!」


 美味しかった。それも、涙が出るほどに。


 我が家でもシチューは出る。出るには出るが薄くて、しかも肉が入っていない。具はあまりにも細かく刻まれた野菜とそこらへんに生えているキノコばっかりだ。


 それと比べて、このシチューはどうだ?


 まず、ちゃんと味が濃い。しっかりとシチューの味がする。


 さらに中にはゴロゴロと野菜が入っている。キノコについては、我が家のシチューに入っているのがそこら辺に生えている噛んでも味がしないキノコであるのに対して、こちらのものは噛むとしっかり味がするのだ。噛めば噛むほどにキノコのエキスが口の中に広がっていく。


 極めつけは肉だ。中に肉が入っている。これは何の肉だろうと問えば、ウサギの肉だと言う。


 ウサギのお肉…


 長らく食べていなかったせいで、その味は忘却の彼方に行ってしまっていた。しかしこのシチューはかつて私が食べていたものとそう変わらないのだ。


 あの頃に戻りたい。


 そんなしんみりとした気持ちを胸に抱きつつ肉を噛み締め味わいつくす。


 この時期に肉を食べたというこの感動は、生涯忘れられないものになるだろう。


 こんなに美味しいお肉を食べさせてくれたカノーレ神父には頭が上がらない。


 そんなことを考えながらシチューを頬張る。それから、神父と罠のことで話をしているうちに、一つ思いついたことがあった。


「神父さん、いいことを思いつきました。これをすれば、ニンジン一つで肉が大量に手に入るかもしれません」


 私が説明をすると、カノーレ神父は何も言わずにニンジンを一つ与えてくれた。関わりのない人々は神父のことを誤解しているようだが、実際に話して関わってみれば分かる。彼は本質的に優しい性格なのだ。


 森に入り、罠製作を再開する。


 囲いの一部を取り払う。その部分をシカの出入り口にするのだ。


 取り払った部分の木材は罠の要になる扉として再利用しよう。


 木材と糸を使って扉を作る。我が家は毛織物業を営んでいるから糸の調達には困らないのだ。


 罠製作はカノーレ神父の助言のおかげで順調に進んだ。といっても、失敗もしたし分からないことがあって作業が止まってしまうこともあった。けれどもその都度考えてなんとかした。


 肉をたべたい。その一心でやりきった。


 やる気があったからこそ私は頑張れたのだ。やる気があるってのは大切だなあと一つ学んだ。


 一日がかりで、ようやく扉が完成した。空はもう既に暗くなってきた。


「マズっ!城門が閉まっちゃう!」


 大急ぎで道具を抱えながら、急いで森を出る。

見たいアニメ沢山あって困る……

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